校門で力尽きて座り込む子どもたち。エアコンゼロ学校の悲鳴——ゼロ自治体「国に申請しても交付金が認められない」

学校が終わると校門に立ち尽くしたまま動けず、灼熱のアスファルトに座り込む—— 教室のエアコン設置率0%の小学校で、今何が起きているのか。

運動会

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神奈川県小田原市に住む岩瀬祐子さんには、市内の公立小学校に通う小学2年生の長女(8)と小学1年生の次女(6)がいる。7月、次女がいつまで経っても帰って来ないので迎えに行くと、荷物を抱えたまま校門に立ち尽くしていた

「ボーッとした様子で、疲れて動けなかったようです。なんとか授業を乗り切っても、この暑さとランドセルや荷物の重さでは帰宅できない市内の他の学校でも、校門の前でへばって地面に座り込んでいる子どもたちを何度も見ました。アスファルトの上に直に座るなんて相当暑いはずなのに、それほど疲弊しているということですよね。小学2年生の長女からも具合が悪くて保健室に行く子が多いと聞いて、心配でたまりません」(岩瀬さん)

脳裏をよぎるのは、愛知県豊田市で熱射病で死亡した小学1年生の男子児童のことだ。児童は「虫捕り」の校外学習校を終え、教室に戻って意識を失った。教室にエアコンはなく、天井扇風機4台を回していたという。豊田市の公立小中学校は2013年度までに扇風機計1万2000台をつけたが、普通教室のエアコン設置率は0%だ。

実は、小田原市の公立小中学校も全く同じ状況にある。普通教室は2013年度までに天井扇風機をつけたため、エアコン設置率はいまだ0%。一方で、校長室・職員室・保健室・事務室などはエアコン完備だ。2016年度からは窓を開けて授業しづらい音楽室やパソコン教室、図書室といった特別教室へのエアコン設置を優先的に進めてきた。

文部科学省の調べでは、そもそも日本の公立小中学校の普通教室のエアコン設置率は49.6%と約半数。だが、その内訳を見ると、東京都は99.9%、埼玉県76.0%なのに対し、千葉県44.5%、愛知県35.7%など地域による格差も大きく、中には豊田市、小田原市、千葉市などのように0%の市町村もある。一体なぜなのか。

国に申請しても交付金がおりない

教室

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公立の小中学校でエアコンを設置するのは、市町村など各自治体の判断だ。

小田原市の担当者によると、市で普通教室へのエアコン設置が進まないのは「財源がないから」だという。学校が空調設置や校舎の耐震工事などを行う際、費用の約3分の1を国が補助する「学校施設環境改善交付金」という制度がある。小田原市も数年前から国に申請しているが、なかなか認められないのだ。エアコン使用に伴い電気容量も増えるため、受変電設備なども変える必要があり、工事費やランニングコストは相当な金額になると予測している。

「保護者の方からエアコン設置を求める声をたくさんいただいていますので、改善していかなければと思っていますし、予算計画も進めています。ただ、これまで普通教室は扇風機で対応するという方針で進めてきたということもご理解いただきたい」(小田原市・教育部学校安全課)

しかし、とても扇風機で対応できる暑さではない。7月、岩瀬さんは学校に担任教師との個人面談に行っている。わずか30分ほどの滞在だったが、教室のあまりの暑さに驚いたそうだ。ここに1クラス約25人が集まったらさらに体感温度は上がるだろうと想像し、怖くなったという。

9月からの新学期では運動会の練習が始まる。残暑の中で運動した後に涼む場所がなければ、豊田市の児童のような悲劇が繰り返されるのではないか。岩瀬さんは一刻の猶予もないと考え、小田原市の全公立小・中学校にエアコン設置を求める署名をインターネット上で開始した。これまでに1万5000人を超える賛同者が集まっており、7月24日には小田原市副市長に署名を手渡した。

「予算計画を立てて工事をして……とエアコン設置には長い期間がかかることは分かっています。でも、これは命に関わる問題なんです。先生たちだってこんな暑い中で授業をするのはつらいはず。早急に進めて欲しいです」(岩瀬さん)

政府主導の本気度は

Business Insider Japanが行ったアンケート調査(7月20日〜)でも、教室や体育館にエアコンがないことに危機感を抱く人が多かった。保護者も教員も、だ。

「中学生の息子がいます。体育の授業でヨレヨレになった直後、エアコンのない体育館で学年集会で汗を拭うこともできず、ふらふらになって帰ってきました」(50代・女性)

「エアコンのない部屋で児童集会が行われ、子どもが熱中症気味になって帰宅しました」(40代・女性)

「お金がないとか子どもを甘やかすなとかいう理由でクーラーをつけてもらえない。夏休みの登校日は給食が止まっているので、弁当の食中毒が心配です」(40代・女性・教員)

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林芳正文部科学大臣の会見(2018年7月24日)

出典:文部科学省ホームページ

気象庁は7月23日、緊急記者会見を開き、「命の危険がある暑さ。一つの災害と認識している」と警鐘を鳴らした。同日、菅義偉官房長官はテレビ番組に出演し、全国の小中学校に早急にクーラーを設置するよう国として財政支援する考えを示している(朝日新聞デジタルより)。24日には林芳正文部科学大臣も会見で「予算の確保に努め、空調設備が設置されていない学校には優先的に改善に取り組む」と述べた。

予算とは、前出の「学校施設環境改善交付金」のことだ。文科省によると、2018年度は約2006億円を概算要求したのに対し、認められたのは約1344億円。当初予算では学校の耐震化やバリアフリー化、補正予算では空調設備などが優先的に採択される傾向があるそうで、今後の補正予算審議が重要になってくるだろう。

文科省は18日、都道府県教育委員会などに対して熱中症事故の防止を呼びかける事務連絡を出しているが、林文科相は先の会見でエアコンの設置についても、「積極的な対応を促進するための通知を出すなど必要な対応を行う」と話している。

そう、エアコンの設置に消極的な自治体があるのも事実だ。

健康のために汗? エアコンより家族や友達が大事?

学校

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埼玉県所沢市では、藤本正人市長が2011年の就任前に決まっていた、航空自衛隊入間基地の騒音対策をした私立小中学校の防音校舎28校へのエアコン設置を撤回。2015年にはその是非を問う住民投票にまで発展した。エアコン設置に対して、賛成5万6921票、反対3万47票で賛成が上回ったが、騒音が特に著しい3校にのみ導入されただけだ(うち1校は現在工事中)。市のホームページには2018年1月の市長のこんな挨拶が紹介されている。

「発育途上の子ども達の健康面から考えても、夏は汗をかくもの」
「1年分の児童クラブの活動と20数日間のエアコン費用が同じ。これは私としては、やりきれない話なのです」
「エアコンがあって快適になることよりも、家族や両親が仲良いこと、友達がいると思えることのほうがどんなにか子どもにとって大切な鍵となる」

その後、エアコンを市内の全小中学校に設置するよう方針転換して、地球温暖化など環境に配慮した設備の調査を進めてはいるが、導入の時期などの目標はない。報道によると藤本市長は、「東日本大震災を受けて『快適で便利な生活を見直すべきだ』という考えは変更ないと強調」(毎日新聞より)しているそうだ。

「市民の負担が増えても」とツイート

政令指定都市でも公立小中学校の普通教室のエアコン設置率0%の市もある。熊谷俊人市長率いる千葉市だ。

現在はエアコン設置に向けてどのように財源を確保するか検討中だそうで、市長のツイッターによると「導入に60~70億円、運用経費が年2億円以上必要」とのこと。

以下は市長のツイートだ。

「既に1年前の選挙で共産党の対立候補が多くの市政課題がある中で、エアコン設置を最大課題として提示して選挙が行われ、私が当選しています」
「既にエアコンが導入された自治体においてデータ上有意に熱中症発症率が減少したデータは存在しない
「エアコン整備をする場合の財源調達等について市民の将来負担を考え真剣に研究・検討をしています。都合の良い理論に飛びつかず、せめて『市民の将来負担が増えても、ここはエアコン』と言って下さい

選挙や金銭的な負担など、エアコン設置には市民の姿勢も問われるようだ。

4年で設置率8%→100%に、学習も災害にも対応

バスケットボール

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実際に、選挙公約に「全校全教室にエアコンを設置」と掲げて当選し、実現したのが大西一史熊本市長だ。市長に就任した2014年当時は市内の公立小中学校の普通教室のエアコン設置率はわずか8.6%。そこから2017年6月に市内の公立中学校、2018年6月に公立小学校のそれぞれ全ての普通教室へのエアコンの設置を完了した。

中学校への工事を発注した直後の2016年4月に熊本地震が発生し、エアコン事業は一時中断。しかし、震災を経たことで新たな気づきもあった。「学校には避難所としての機能が必要」ということだ。発電機能つきで、停電時でも4教室分の空調が確保できるエアコンを1校につき1台は設置するように変更。同年の秋頃には工事の手続きを再開した。

導入に約48億円、運用は年間1億円以上のコストがかかっているそうだが、市教育委員会の担当者は「猛暑に間に合って良かったです」と胸をなでおろす。今年に入って、保護者からエアコン設置に対する賛同の手紙が複数届いたという。

大西市長は6月の定例記者会見でエアコン設置を「市民ニーズも非常に高く、極めて優先度の高い課題として取り組んできた」と話した。エアコンは児童・生徒の学習環境の向上だけではなく、災害時の拠点機能強化にもつながる。導入を迷う理由があるだろうか。

(文・竹下郁子)

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