丸井がLINE、KDDIを追う——金融参入で激化するモノとカネの境なきプラットフォーム競争

eコマースの巨人、米アマゾン・ドットコムが「アマゾン銀行」を始めるのは時間の問題だとする憶測が飛び交う中、国内ではLINEやKDDIが本格的に金融ビジネスを開始し、早期拡大を狙っている。ディスカウントストア大手のドンキホーテホールディングス(HD)が銀行業への参入を検討すれば、丸井グループは2018年9月、積み立て投資専門の「tsumiki証券」をスタートさせる。他業種から金融への強い流れは何を意味するのか?

一万円札の束

他業種からの金融業への参入は単にサービスの拡大を目的としているのか?

REUTERS/Yuriko Nakao

金融と他の産業の垣根がなくなり、他業種から金融への参入は今後も、ペースを速めて続いていく。実店舗チェーンやオンラインのマーケットプレイス、通信プラットフォームを築いてきた小売企業や通信業者は、モノとサービスの販売に加えて、金融を取り込むことで自らのプラットフォームをさらに強化していくだろう。

そう話すのは、ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏。

「モノとカネのボーダー(境)のないプラットフォームを作る競争は、これからさらに激しくなる。AI(人工知能)やビッグデータ解析、テクノロジーは金融の特殊性を限りなく小さくしている」

1800兆円超、巨大な家計金融資産

富士山と東京

1800兆円を超える日本の家計金融資産のうち、約960兆円が「現金・預金」だ。

REUTERS/Kimimasa Mayama

低成長が続く日本ではあるが、1800兆円を超える家計金融資産は、新規参入企業にとっては魅力的な数字だ。その巨大な資産の半分以上が現預金に留まっている事実から、国内における資産運用ビジネスの今後の成長に期待が高まる。

KDDIが大和証券グループとタッグを組んで作った「KDDIアセットマネジメント」は、ミレニアル世代などをターゲットにスマートフォン上のアプリで操作可能な資産形成サービスを始める。KDDIは2018年2月、既存の通信事業に加えて、物販、金融、エネルギー、決済サービスを提供することで、「ライフデザイン企業」になると明言した。言い換えれば、多くのサービスが組み入れられた箱の中で、参加する客はモノやサービスを購入でき、一部のお金の流れも同じ箱の中で管理できる世界だ。

メッセージアプリのLINEも急ピッチで、幅広い金融サービスのプラットフォーム「LINEフィナンシャル」の準備を進めている。証券業では野村ホールディングスと提携の検討を開始し、資産運用ではフォリオ(FOLIO)と提携、スマートフォン型保険サービスの開発では損保ジャパン日本興亜と組んだ。もちろん、決済サービスのLINE Payを軸に置いている。

ドン・キホーテ

ドンキホーテは銀行業への参入を果たすのか?

REUTERS/Yuya Shino

売上高は8000億円を超え、業績を伸ばし続けるドンキホーテHD。それを率いる大原孝治・社長兼CEOは2017年8月、決算発表の席で金融業への参入を視野に入れていると発言し、驚かせた。1年後の2018年7月現在、同社からの正式な発表はないが、セブン&アイ・ホールディングスのセブン銀行やイオンのイオン銀行が存在する今、ドンキが金融を始めても不思議ではない。

丸井グループが設立するtsumiki証券は、20代~30代のミレニアル世代をターゲットに、投資信託の販売を始める。7月26日、同社社長の青井浩氏が東京証券取引所で会見を開いて、説明した。tsumiki証券は、国内で販売されている投資信託約6000本から、同社が長期の資産形成にふさわしい商品と判断した3社4本の投資信託を提供する。

丸井は今後10年で100万人の顧客ベース、預かり資産残高で1兆円を目指す。スマートフォンやタブレット上のアプリで、毎月の積み立てをクレジットカードで決済する客にポイントを付与し、丸井の店舗では初心者向けのセミナーを開く。リアル(実店舗)とインターネットを活用した金融ビジネスだ。

購買と金融のビッグデータ

日本のメガバンク

「上層部に行けば行くほど、危機感を持っているだろう」(メガバンク関係者)

REUTERS/Toru Hanai

前出の矢嶋氏は、「小売や通信業者の金融業参入は、単にサービスの拡大だけが目的ではないだろう」と話す。「モノやサービスを販売することで蓄積してきた客の購買データに加えて、企業は金融業を通じて得られる新たなビッグデータを把握し、次世代向けの今までにないサービスを模索していくだろう。人が何を買って、どう支払うか?あらゆるものをデータを通して把握すれば、人は次にどんなサービスを必要とするかが見えてくる」と矢嶋氏。

一方、日本の金融界を牽引するメガバンクでは、AIなどで業務を効率化し、従業員数を削減する動きが目立つ。

矢嶋氏は、メガバンクにおいても今後、AIやビッグデータ解析を駆使した新たなサービスを開発する動きが活発化すると予想する。銀行法の下、銀行本体が他業種のビジネスを行うことは規制されているが、金融業の中での新規サービスは可能だ。

「上層部に行けば行くほど、危機感を持っているだろう。メガにとって、(新規参入してくる)一社一社が脅威というわけではない。例えば、決済は通信システムさえあれば誰でもできる。他業種から金融への流れは、すぐに既存の銀行業全体を変えるものではないが、数年で見ていくと、大きく変えるうねりになる」(メガバンク関係者)

銀行のATM(現金自動預け払い機)の利用をなるべく少なくして、スマートフォンで好きな時に買い物や投資を行う。キャッシュレスなライフスタイルはこれからますます広がっていく。一つのプラットフォームで日常の多くの消費行動が可能になれば、より便利になることは間違いない。使いやすいプラットフォームを築き上げた企業は、次世代の経済システムにおいて、覇権を握ることにだろう。

(文・佐藤茂)

(編集部より:丸井グループの証券事業の詳細を追記し、記事を2018年7月26日15:30に更新しました)

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