災害級の猛暑こそ「クリエイティブ疎開」という働き方——暑さで仕事の能率4割下がるという調査も

命に危険を及ぼすレベルとして、気象庁が「災害」と呼んだ猛暑は、8月上旬まで続く見込みだ。複数地域で40度超えが聞かれ、熱中症による死者も出る中、それでも通常と変わらず通勤・通学し、外回りや屋外での活動を続けることは、果たして正解なのだろうか。

災害レベルの異常事態でも「これまでと同じことをやり続けるのは思考停止」として、暑さで柔軟に働き方を変える人や企業も現れている。

知床半島でパソコン!

知床の船上でパソコン作業。死者も出るような猛暑なのに、同じ働き方でいいのか?

山本裕介さん提供

「地域で格差があり、学校に冷房がないなら、親も子どもも在宅にして、テレビ会議で仕事と授業をやればいい。暑さで死者が出るなど、どう考えても異常事態なのに、同じことをやり続けるのは思考停止です

そう警鐘を鳴らすのは、大手外資IT企業でブランドマーケティングを担当する、山本裕介さん(37)だ。

山本さんは「気象庁も災害レベルと発信する中で、そもそも会社や学校に絶対に行くという前提をなぜ変えないのか。学校に冷房をつけるというのも必要でしょうが、議会にかけて予算をつけてとやっていたら夏が終わります」と、疑問を投げかける。

在宅の仕事や勉強なら必要なのはスマホかパソコンやタブレットだけ。テクノロジーの恩恵を活用すべき」(山本さん)。

そんな山本さんが、夏の新しい働き方として提唱するのは「クリエィティブ疎開」。今年のような猛暑には、田舎や避暑地など環境を変えて「疎開」し、そこで生産性を高め、新たな視点や発想を生み出す機会にするという考えであり、行動だ。

勤務先の大手外資IT企業は、自社サービスのICTを活用したリモートワークやテレワークを推進している。それ以前に山本さんは個人でも多様な働き方を自ら実践してきた。

長期的な視点で考える仕事ができた

知床半島

こんな夕陽を見ながら、仕事ができるわけないと思いきや、ICT環境はバッチリ。

山本さん提供

2017年秋。山本さんは北海道の知床半島にいた。出張ではない。地元の共有テレワークオフィスを利用し、5日間の「クリエイティブ疎開」を実行したのだ。国の予算事業である「ふるさとテレワーク」の実施自治体である、斜里町に滞在した。

「最高でした。テレワークオフィスの中はICT環境が整っているので、東京にいるのと全く変わらずに仕事ができ、一歩外に出れば、世界遺産の自然に触れることができる」(山本さん)

快適に仕事ができた上に、新たな効果もあった。

物理的に環境を変えることで、目の前のやるべきことに追われる仕事ではなく、長期的な視点でものごとを考える仕事ができました

今年も、群馬県の温泉地などで「川に入りながらパソコンを開く働き方も考えています」と、クリエイティブ疎開を計画中だ。

過去の体験が足かせ?

勤務先の企業も「しっかりパフォーマンスを出せるなら、基本的に、どこで働こうが自由」とのスタンスといい、“クリエイティブ疎開”にもなんら支障はない。山本さんは、知床半島に同僚も誘ったほどだ。

ただし、多くの企業では思い切って地方など場所を変えて働く手段が、確立されていない。

これについて山本さんは、そもそも「会社の管理職世代は、今よりもICT環境が発達していない頃にテレビ会議の導入などを経験していて、音声が聞こえないとか通信が途切れるなど、悪いイメージがあるのではないでしょうか」と、指摘する。その経験を引きずって「やっぱり対面が一番」となることで、リモートワークが進まない面もあるのでは、とみる。

「今はもっとテクノロジーが発達して、品質も問題ないです。使ってみると意外といけると分かるはず。猛暑を機にもっとテクノロジーの恩恵を取り入れるべきです。社員を信用し、自律して働いてもらうことで、生産性もパフォーマンスも高まり、組織も社員もハッピーになりますよ」(山本さん)。

猛暑日はテレワーク

テレワーク

猛暑日はテレワーク推奨のプッシュ通知が来る。

撮影・木許はるみ

「やっぱり月曜日はテレワークの日かな」

ソフトウエア会社「インフォテリア」でカスタマーサポートをする岸本秀和さん(41)は、7月20日に翌週の週間予報を見て、すでに在宅勤務を決めていた。

23日の当日朝、スマホを開くと、「最高気温の予報は37度です。積極的にテレワークしよう!」と会社からLINEが来ていた。岸本さんは、予定通り、自宅で仕事に取り掛かった。岸本さんの自宅は、最寄り駅が徒歩15分、通勤は45分かかる。

「汗ダラダラで電車に乗っている状態で、出社するだけでも疲れてしまう」

23日は70人の社員のうち、15人がテレワークを実践。オフィスの中は所々空席が目立ち、特にエンジニアの席は人がまばらだった。

同社は2015年から、1日最高気温が35度以上の日を対象に、猛暑テレワークを導入した。同社のLINEチャンネルは、気象庁のデータをもとに、午前5時半に、猛暑日が予想される日はテレワーク推奨のプッシュ通知が届けられる。「今年は、猛暑テレワーク導入よりも、猛暑の方が先にきた」(同社広報)として、2018年は7月19日に導入、通常よりも前倒しした。

テレワークに切り替えたのは全70人の東京オフィスの社員のうち、導入翌日の20日は20人、23日は15人、2017年の導入初日3日間(各日6〜7人)に比べ、2〜3倍に達した。「どうしたら(自分の会社でも)テレワークができますか」といった問い合わせが、30社ほどきているという。

7割の人が暑さで能率が3割以上減

猛暑

暑さで生産性は下がるか。サラリーマンの多くが実感しているはずだ。

REUTERS/Issei Kato

「クリエイティブ疎開」にしても、「猛暑は出社しないテレワーク」にしても、こうした猛暑による働き方の変革は、作業効率や生産性の面から考えても合理的だ。

社会環境政策の調査研究をするノルド社会環境研究所が、2013年にサラリーマン300人に実施した「夏の職場の節電実態と本音調査」によると、「暑さにより、仕事の能率が下がる人」は96%。仕事の能率は平均で39.1%下がるという結果が出た。

対象者の勤務時間、時給から試算すると、1日約3.8時間、給与は7326円が、暑さで無駄になっている結果となった。能率が30%以上、下がるという人は74%にのぼり、暑さが仕事に大きな影響を与えていた。

またライフハッカーは、「『暑さ』は思考や決断を鈍らせることが実証される」と伝えた。記事によると、「気温が高いとテストの点数が下がる」(Market Watchより引用)「暑いときは決断力が鈍くなるらしいことが分かっている」( Scientific Americanより引用)。暑さと思考には、無視できない因果関係があるようだ。

猛暑をどう、働くか。生産性を重視するなら、思い切った一考の余地はありそうだ。

(文・木許はるみ、滝川麻衣子)

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