東京地検の取り調べ中に死亡のネパール人、遺族が検察官ら告訴

東京地方検察庁で2017年3月、取り調べを受けていたネパール人のアルジュン・バハドゥル・シンさん(当時39)が意識を失い、病院への搬送後に死亡する事案があり、アルジュンさんの妻が2018年7月26日、取り調べをしていた氏名不詳の検察官らを、業務上過失致死の疑いで警視庁新宿署に告訴した。

アルジュンさんは、手錠や捕縄などの「戒具」で拘束されていたが、取り調べ中に戒具を外した直後、急に意識を失ったという。法医学を専門とする鑑定医の鑑定結果は、手足を強く拘束すると筋肉が壊死を起こし、カリウムなどの身体には毒となる成分が生じるが、拘束を不用意に解いたため、毒となる成分が一気に全身に回って死亡したとしている。

アルジュンさんの死因は、大規模な災害が発生した際に、がれきの下敷きになり、身体が長時間圧迫されていた人に生じる「クラッシュ症候群」と類似する。クラッシュ症候群が疑われる人をがれきの中から救助する際には、医師らが立ち会い、可能な限りはやく人工透析をする必要があるとされる。

こうしたことから告訴状は、戒具を取り外す前に医師に相談するなど、検察官らが必要な措置を取っていれば、アルジュンさんの死亡は回避できたと指摘している。

所持品は22円と手帳だけ

東京地方検察庁

東京・霞が関の東京地方検察庁

撮影:小島寛明

関係者によると、アルジュンさんは6年ほど前に来日し、おもにネパール料理店で料理人として働いていたという。2017年2月上旬まで、埼玉県内のネパール料理のレストランで働いていたが、職を失ったとみられる。

その後、職を求めて転々としたが、仕事が決まらず、新宿や新大久保周辺の路上で生活していたという。ネパールから料理人を目指して来日する人が増えたことで、ネパール料理の料理人は供給過剰になっていたとも言われている。

2017年3月13日午後、東京・新大久保の店を訪れたアルジュンさんが、おもちゃのおカネで商品を買おうとしたため、店側が警察に通報。警察が所持品などを調べたところ、他人名義のクレジットカードが見つかったため、新宿署に連行された。当時の所持品は、22円と手帳だけだったという。

このカードについては紛失届が出ていたため、14日未明にアルジュンさんは占有離脱物横領の疑いで警察に逮捕された。

15日朝、留置施設ではふとんを自分で片付けるルールだったが、アルジュンさんがふとんを廊下に投げるなどしたため、留置管理担当の署員らが制止し、午前6時51分ごろ、保護室内で手錠をしたうえで、両足首と両ひざを拘束した。この際、アルジュンさんが暴れたため、金網にこめかみをぶつけ、傷ができたという。

その後も拘束を継続したまま、検察庁に送致。同日午前10時45分ごろから、検察官の取り調べが始まったが、アルジュンさんは検察官の机をたたくなどしたという。検察官の指示で手錠を片方だけ外し、その他の戒具の使用は継続したという。

白目をむいてぐったり

MR_Arjun

アルジュン・バハドゥル・シンさん

支援者提供

その直後から、イスの上で、白目をむくようにして後方にのけぞり、ぐったりとした。午前11時ごろ、119番通報し、戒具をすべて外した。病院に搬送されたが、午後2時47分に死亡した。

警察が実施した司法解剖では、死因は外から力が加わったことによる多発性外傷とされた。警察側は、新宿署内で起きた事件として捜査し、アルジュンさんの死亡から約1年後の2018年2月24日に被疑者不詳のまま、送検した。検察は、同年3月14日に不起訴処分とした。

手足の強い拘束が原因と鑑定

アルジュンさんの遺体は司法解剖後に冷蔵保管されていた。支援者や弁護士らの要請で、法医学の専門医が2017年5月28日に遺体の状況を確認した。遺族側の鑑定結果は、アルジュンさんの筋肉内の酵素の数値が異常に高かった点に注目した。仮に暴力を受けた打撲などがあったとしても、酵素の数値の異常な上昇は起きないと指摘している。

一方で、遺族側の鑑定結果は、左右の手足を拘束して強く圧迫していると、筋肉が壊死を起こし、カリウムが発生する。血液中のカリウムの濃度が高くなったため、血液が心臓に流れ込んだ際に心停止を引き起こしたと鑑定した。

「専門家に相談せず、不用意に緊縛を解除したことから、壊死した筋肉から大量のカリウムが血中に流れ出し、それが心臓に作用して、突然死を招いたと考えるのが合理的である」と指摘している。

アルジュンさんは、2016年5月からネパールに一時的に帰国していた。同年11月下旬に日本に再来日したが、およそ4カ月後に検察庁で急死した。

再び日本にやって来た際には、ネパールから家族を呼び寄せることも考えていたという。

(文:小島寛明)

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