エアコンによる体調不良に悩む人は多い。
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全国各地で気温が上がり、熱中症で体調を崩す人や亡くなる人が続出している。テレビや新聞、ネットなどさまざまなメディアに医師が登場し、「エアコンをつけるように」とさかんに注意喚起しているが、一方でエアコンが原因と見られる体調不良に悩む人も増えている。
エアコンつけた途端「咳ぜんそく」発症
教育関連企業で働く高橋翔子さん(仮名・34)は、夫と小学校1年生の一人息子とともに、横浜市内のマンションで暮らしている。自宅は最上階の16階で西向き。夏場は天井と窓からの熱気で、夜になっても蒸し風呂のような暑さになる。今年はあまりの暑さのため、例年より早く6月半ばからエアコンを稼働。夕方帰宅してから朝出勤するまで、就寝中も26℃の設定で冷房運転を続けてきた。
咳が出るようになったのは、エアコンをつけ始めた日から。
エアコンの時期に増えるという「咳ぜんそく」(写真はイメージです)。
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「スイッチを入れて間もなく咳が出始め、ずっと続きました。夫や息子は出ていなかったので、私だけ夏風邪をひいたかな、しばらくすれば治るだろうと軽く考えていました」
と高橋さん。ところがその後も咳がおさまることはなく、とくに明け方は激しくせき込んでなかなか止まらなくなり、睡眠不足に。近所の内科医院を受診したところ、「咳ぜんそく」と診断された。
池袋大谷クリニック院長で、呼吸器内科医の大谷義夫医師はこう話す。
「咳ぜんそくは気管支ぜんそくの1歩手前の状態。放っておくと3人に1人は本格的な気管支ぜんそくに移行するといわれています。エアコンをつける季節になると、咳ぜんそくの患者さんが増加します」
咳ぜんそくは、気道の粘膜が炎症気味で過敏になっているところに、たばこの煙や湯気、花粉といったちょっとした刺激が加わると発症する。エアコンから出てくる「ホコリ」「カビ」「冷気」の3つも、咳ぜんそくを発症させる大きな原因になっているという。
「外気と室内の寒暖差が激しいと、気道の粘膜が過敏になりがちです。もともと気道が弱い人は、寒暖差でさらに過敏になっています。過敏になっているところに、ホコリやカビ、冷気といった『刺激』が一気に加わるので、咳ぜんそくを発症してしまうのです。咳が2週間以上治らないようであれば、風邪ではなく咳ぜんそくの疑いがあります」
カビによる肺炎も急増
エアコンから出るホコリやカビ、冷気は、咳ぜんそくだけではなく、肺炎や気管支ぜんそくを発症させる。問題となるのが、アスペルギルスやペニシリウムといったカビだ。
ペニシリウムは餅やパン、ミカンなどに生える青緑色の、いわゆる「アオカビ」だ。アレルゲン(アレルギーの原因物質)となって、ぜんそく、アレルギー性鼻炎やアレルギー性肺炎を引き起こす。
今年の酷暑はエアコンなしでは乗り切れそうもない。
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アスペルギルスは健康な人が吸い込んでも問題はないが、糖尿病やがんの治療中などで体力が落ちているときに吸い込むと、「肺アスペルギルス症」という肺の感染症になりやすい。また、アレルギー反応による「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」を引き起こすこともある。気管支ぜんそくのように激しい咳やヒューヒューゼイゼイとのどが鳴る「喘鳴(ぜんめい)」の症状が見られる場合は、注意が必要だ。
「『エアコンに多少ホコリはついているかもしれないけれど、カビはいないはず』と考えている人が少なくありません。しかしエアコンの場合、ホコリがあればカビも必ず発生します」(大谷医師)
カビの多くは温度25℃以上、湿度60%以上で発生し、湿度が80%を超えると一気に増殖する。冷房使用中はエアコン内部の湿度が90%に達し、水滴も発生するため、ホコリを餌にしているカビが「水分」という大好物を得て、どんどん増えてしまうのだ。
エアコン切った後は30分間の送風運転を習慣づける
エアコンが原因と見られる病気をどう防いでいけばいいのだろうか。
こまめなエアコンの掃除は体調管理の一環。
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「気温30℃越えが続いている状態で、肺炎が怖いからエアコンの使用を控えれば熱中症で命を落とす危険があります。熱中症にならなかったとしても、食欲が低下しぐっすり眠ることもできず、体調を崩します。対策をした上でエアコンを使えばいいのです」(大谷医師)
まず、最低でも週に1回はエアコンのフィルター掃除をしてホコリやカビを除去すること。エアコン以外にホコリやカビの発生源になっていそうな場所も掃除する。
次にエアコンの冷房を切ったあと、30分間送風運転をすることだ。
「冷房運転をするとエアコン内部には結露が発生し、冷房を切った後そのままにしておけば大量の水分が残ってカビが増殖します。送風運転をしてエアコン内部が乾燥させれば、増殖を抑えることができます。入浴後、浴室に換気扇をかけて乾燥させるのと同じ理由です」
エアコンの冷気が直接人に当たらないように調節することも大事だ。大谷医師は言う。
「効率よく涼もうとして風を人に向けがちですが、冷気が当たれば気道を刺激するだけでなく、体が冷えすぎて血流障害を起こします。『人を冷やすのではなく部屋の温度を下げる』ことを心がけてください。ほとんどのエアコンは風向きの調節ができますが、空気は暖ければ上、冷たければ下にたまる性質があるので、サーキュレーターや扇風機を併用して部屋全体の温度を均一に保つようにしてみるのも一つの方法です」
さらに大谷医師は寒暖差に敏感な人はより注意が必要だと指摘する。
「ほかの人よりもエアコンによる体調不良を起こしやすいので、あまりにも外が暑い時期はなかなか難しいのですが、エアコンの温度をやや高めに設定するなど、外気と室内の差をできるだけ少なくするようにしてください」
(文・熊谷わこ)
熊谷わこ:大学を卒業後、食品会社、新聞社勤務を経てフリーランスライターに。専門は医療、介護。