日本型雇用の代名詞でもある「新卒一括採用」について、みなさんはどうお考えですか?
何かと批判されがちな新卒一括採用ですが、20代前半の失業率は4.7%(総務省「労働力調査」の2017年平均)と、日本の若者の失業率の低さは世界屈指であり、特別な資格やスキルがなくとも就職ができる「新卒採用」という雇用システムが、その低失業率を支えているのも事実。
ただし、産業構造が変わり、個人の価値観も多様化し、企業と個人の関係性が大きく変化する中、旧来の新卒一括採用のあり方のままではうまくいかないケースが多々出てきています。
「新卒配属ガチャ問題」とは何か
まるで「ガチャ」、初期配属で「ハズレ」て転職・退職を決める新入社員が増えている。
撮影:今村拓馬
みなさんは「新卒配属ガチャ問題」をご存知ですか?
新卒で入社をして配属される部署や職種、配属先の上司や教育担当がどうなるか?をソーシャルゲームのコア機能である「ガチャ」になぞらえたもの。運良く「SR(スーパーレア)」を引き当てて、自分にぴったりな部署に配属されれば良いものの、運悪く「ハズレ」を引いてしまった場合は、仕事内容も部署での人間関係も悪く、最悪の場合メンタル不調を患ってしまったり、場合によっては早期退職に至ってしまったりするという「あるあるな話」を揶揄して「新卒配属ガチャ問題」と表現されています。
筆者が新卒で入社をした2011年当時にも「新卒配属ガチャ問題」は存在していました。わずか14人の同期のうち、幸いにも筆者は自身が希望するインターネット業界専門の部署への配属がかない、上司にも恵まれていましたが、同期の一人はどうにも教育担当との折り合いがつかず常に悩んでいて、ついには早期に転職をしてしまいました。
配属先の上司や教育担当が自身の古い価値観を押し付けるダメボスだった場合、新入社員は取りうる行動は2つしかありません。
一つは、自分の価値観をいったん押し殺し、イエスマンとしてダメボスの価値観を受け入れ、すべての指揮命令に従うこと。もう一つは、自分の価値観を受け入れてくれそうな職場を求めて転職することです(イエスマンとして上司や教育担当の言うことに従うことがキャリア戦略として正しい場合もあり、必ずしも悪でないことを念のため申し添えておきます)。
新入社員として入社した場合、自分の価値観を尊重して持ち味を引き出し、成長にコミットしてくれる「SR級」のスーパーボスのもとに配属されるか、価値観を押し付ける「ハズレ」なダメボスのもとに配属されるかは、実質「ガチャ」のようにほぼ運で決まり、「ハズレ」を引いた新入社員は一定の割合で早期の退職を余儀なくされるのです。
「価値観ミスマッチ」が早期離職の元凶
採用面接で会社とマッチングした後、次に待ち受けるのは上司・教育担当の価値観とのマッチングだ。
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こうした「企業と個人が求め合うものが一致していない状態」は「ミスマッチ」と表現されることが多いですが、多くの新入社員は就職活動を通じて多くの企業と出合った中で1社を選び入社をしています。
企業側もエントリーシート(書類選考)、複数回の面接を経て、多くの学生から選び抜いて内定を出しているので、そう大きなミスマッチは起こらないはず。
にもかかわらず、今も昔も変わらず大卒者の3年以内離職率は3割前後をキープし続けていて、増えもしなければ、減りもしません。一体これはなぜでしょうか?
厚生労働省による平成25年若年者雇用実態調査によれば、初めて勤務した会社をやめた理由のトップ3は次の通りです。
- 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった(22.2%)
- 人間関係がよくなかった(19.6%)
- 仕事が自分に合わない(18.8%)
これら3つの離職理由は、筆者がこれまで20代前半の方々の転職相談に乗ってきた中での感覚とピタリと符合します。そして、この3つの退職理由はすべて「新入社員と上司・教育担当との価値観のミスマッチ」に集約されます。
まず、労働時間。よくあるのが「人事から説明を受けていた労働時間・休日休暇と、実際の労働時間・休日休暇が異なる」というミスマッチです。これは言わずもがな、「サービス残業」が横行していることによって起こるギャップです。
ダメボスからすれば、「私たちが新人の頃は時間を厭わず働いた。『量が質に転化する』ものだよ」と語り、言外にサービス残業を強いるのです。「新入社員たるものプライベートをも会社に捧げるべし」という価値観が強く、副業なんてもってのほか。そうした価値観のミスマッチが起きていれば自然と人間関係も悪化します。
さらには、「新人のうちはまずはコピー取り、議事録取りからだ」とこれまた旧態依然とした「新人の仕事はこれ」という固定観念によりやりがいのある仕事がなかなか任せてもらえず、「仕事が自分に合わない」と感じてしまうのです。
こうした価値観のミスマッチによって、3割の若者は3年以内に静かに退職していくわけですが、そうした若者を見て「最近の若者は堪え性がない」と感じるのは統計的に誤りです。厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」をみても、3年以内に3割前後の大卒新入社員が退職している実態が、この30年程はほぼ変わることなく、続いているのですから。
経営者や人事、上司や教育担当が自ら「価値観のミスマッチ」を解消しようと努力できる企業だけが、若者から選ばれ続ける会社としてこれからも生き残っていくことができるでしょう。変わらずに昭和的価値観を押し付け続ける会社がどうなるか?それは言うに及ばず、です。
西村創一朗:複業研究家、HARES・CEO。2011年リクルートエージェント(当時)で中途採用支援、人事・採用担当を経験。2015年に複業の普及や育児と仕事の両立を目指すHARESを設立。会社員との兼業期間を経て、2017年に独立。