地域再生の“お手本”ヤマガタデザインは27万住民「みんなが株主」目指す

SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE

2018年9月に山形庄内地方にグランドオープンするSHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE。

出典:ヤマガタデザイン

ヤマガタデザインは究極のシムシティ。自分たちが事業展開すればするほど、自分たちのクオリティオブライフが上がる。だからこそ、頑張り続けられる」(ヤマガタデザイン代表の山中大介さん)

慶應義塾大学先端生命科学研究所(先端研)やSpiber(スパイバー)など世界的にも注目を集めるバイオベンチャーが集まる、山形県庄内地方に位置する「鶴岡サイエンスパーク」。

そのサイエンスパーク内に、世界的な建築家の坂茂(ばん・しげる)氏が設計した、水田に浮かぶホテルが2018年8月1日にプレオープンする。

運営するのは、完全地域主導型のまちづくりを進めるヤマガタデザイン。

32歳にして約23億円を集めた、ヤマガタデザイン代表の山中大介さん(32)が語る「究極のシムシティ*」とは何か。

シムシティとは:プレイヤーが市長となり、自分だけの街を作り上げて発展させていく都市経営シミュレーションゲーム

大企業を退職、資本金10万円で創業

従来、まちづくりにおいては行政が大きな役割を担ってきた。しかし、行政には大きく二つの問題があるという。

「一つは、予算の使い道が決まっているので、なかなか思い切った策を打てない。もう一つがノーリスク。リスクを取らない限り、本当の意味での当事者意識が芽生えないし、地域も持続しない」(山中さん)

山中大介

東京都出身で、慶應義塾大学卒と、山形県庄内地方には縁もゆかりもなかったヤマガタデザイン代表の山中大介さん。

多くの地方都市と同様に、急速な人口減少が続く山形県庄内地方。

その庄内地方にサイエンスパークが作られたのは2001年。当時の富塚陽一市長が「鶴岡の未来のために科学技術に投資をし、長期的な目線で新たな産業を生み出す」ことを目指して、21ヘクタールもの土地開発を始めた。

そこに慶應大学の先端研を招致し、数々のバイオベンチャーが生まれた。地方に新たな産業を生み出した地方再生の成功事例として注目を集めた。

山中さんが、親友の父親であった先端研所長の冨田勝教授に誘われ、初めて庄内地方を訪れたのは2013年。当時、サイエンスパークには大きな課題が存在していた。

もともと開発する予定だった用地21ヘクタールのうち、3分の2にあたる14ヘクタールが未着手のままだったのだ。それまで、鶴岡市は年間数億円の予算を投資し続けていたが、人口減少が続く中、サイエンスパークに新たな投資を続けることが難しくなっていた。

その頃、「1回きりの人生で、どれだけの価値を生めるのか、ゼロベースで考えたい」と、勤務していた三井不動産を退職することを決めていた山中さんは、庄内地方でのチャレンジを決意。

「すごい田舎にも関わらず、産業構造を本気で変えようとチャレンジしていて、本当にかっこいいと思った。自分にも何かできるんじゃないかと思ったんです」

合成クモ糸の量産技術を開発したバイオベンチャー「Spiber」に一度は就職したものの、民間主導での開発を求める周囲の期待が高まり、わずか2カ月後の2014年8月、ヤマガタデザインを創業。

資本金は10万円だったが、14ヘクタールの土地を購入し、開発することを決意した。

約23億円の「出資」、地域全体でリスク背負う

サイエンスパーク

地方再生の成功モデルとして注目を集めるサイエンスパーク。その約3分の2にあたる14ヘクタールをヤマガタデザインが開発する。

出典:ヤマガタデザイン

そこからは資金集めに奔走した。見知らぬ土地で最初は苦労したが、地元の町内会や飲み会にも数多く参加し、少しずつ信頼を得ていく中で、山形銀行からの出資が決まり、そこから一気に地元の企業や金融機関から計約23億円を集めることに成功した。

「住宅ローンで家を購入したことで、本気でずっとここでやるんだと、信用してもらえた」(山中さん)

資金は融資だけでなく、株式でも調達した。ヤマガタデザインは上場を目指していないにも関わらず、だ。

融資であれば、期間内にお金さえ戻って来れば銀行は困らない。しかし、長期的に考えた時に、庄内地方が衰退すれば、銀行や民間企業も顧客がいなくなり、結果的にみんなが困る。だから長期的な発展のために、地域全体が一丸となってまちづくりに取り組む。株式を発行したのは、地域の企業や住民たちに株主になってもらうことで、地域づくりの当事者になってもらうためだ。完全地域主導型のまちづくりが生まれた瞬間だった。

庄内地方にいる27万人を全員株主に

現在、ヤマガタデザインの社員は50人ほどだが、地元出身の人もいれば、他の地域出身の人もいる。採用条件の一つが、住民票を庄内地方に移すこと。それも当事者意識を生むためだ。

すべての事業に共通するのは、「庄内地方に住む上で必要なものを、すべて自分たちで作る」という考えだ。自分たちが子育てをするための施設や地元の人々との交流・宿泊施設、地産地消をするためのグリーンファームも作る。

KIDS DOME SORAI

「子どもの交流施設」として2018年9月にオープン予定の「KIDS DOME SORAI」。地下には「ものづくりラボ」が用意される。

出典:ヤマガタデザイン

地元の人が地元を面白がっているのが究極のブランディング」という考えのもと、地元で活躍する人を取り上げるメディア「ショウナイズカン」を2018年6月に公開。

ショウナイズカン

山形庄内地方に深い関係を持つ人物らを通して、庄内で見てほしい「ケシキ」、食べてほしい「ショクジ」、使ってほしい、味わってほしい「オミヤゲ」を紹介する。

出典:ショウナイズカン

山中さん自身もまさに庄内に人を呼び寄せる人物の一人。NHKを退職し、ヤマガタデザインに就職した広報マネージャーの長岡太郎さん(30)は、「今まで取材でいろんな市長や国会議員に会ってきたけど、山中さんはどこか違った。一緒に働きたいと思った」と、入社理由について語る。

山中さんが「当事者」として巻き込むのは、社員や地元企業にとどまらない。将来的には、山形県庄内地方に住む約27万人全員を株主にすることを目指す。

今後は、株式型クラウドファンディングのような形で直接投資をできるようにして、27万人全員を株主にしたい。最初は厳しくて出せないが、10年以内にちゃんと配当を出せる会社を目指している

50年後、100年後も、自分たちが住む地域を暮らしやすい場所にするために、必要なことは何でもやる。成果を出せば、その恩恵を地元全員で受ける。まさに「究極のシムシティ」だ。

行政に不満を持っていながらも、投票率は下がり、「当事者性」にどこか欠ける日本。その現状を打開するヒントを見た気がする。

(文、写真・室橋祐貴)

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