Uberなど大手配車サービスへの規制緩和に抗議するため、バルセロナの大通りを埋め尽くすほど集まったタクシーたち。
「カタルーニャ州独立」「教育・福祉予算削減反対」……バルセロナでは年がら年中、デモやストライキが行われている。語弊があるかもしれないが、何に対してもデモが行われるこのバルセロナでは、過剰な観光が都市の生活を脅かすとして、「観光」そのものについても過去にデモが行われたことがある。
私は2010年頃からバルセロナに在住して経済危機以降のスペインの変化を目の当たりにしているが、デモはもはや日常生活の光景の一部として慣れ親しんだものになった。
ウーバーなど「規制緩和」をめぐるタクシー業者のストライキ
直近では、7月25日(現地時間)から、スペインの主要都市でタクシー業者たちのデモ・ストライキが行われている(原稿執筆時点の日本時間7月31日も継続中で、いつ解除になるかは予断を許さない状況だ)。スペイン第2の都市バルセロナでは、3000人以上のタクシー運転手が参加。Eixample地区の3kmほどの大通りが、黄色と黒のカラーリングを特徴とする地元のタクシーで埋め尽くされた。
これは、大手配車サービスUber(ウーバー)やCabify(スペインでの知名度が高い)への事実上の規制緩和への抗議を目的としたストライキだ。ただ、多くの警察に取り巻かれ整然と秩序が守られる日本のデモとは、まるで様子が違う。
スペイン現地のウーバーとCabify:アメリカではアプリを用いたライドシェア・サービスとして始まったウーバーだが、アメリカ国外では各地の法規制の実態に合わせ、内容の異なるサービスを展開している。スペインではウーバー、Cabifyともに、ライセンスを付与されなければ営業できない。新規参入はかなり限定されているが、今回のストライキでは1ライセンス当たりの営業可能台数をめぐって、地元タクシー運転手の協会と政府、ウーバーやCabifyなどの代表の話し合いが行われている。
訪れた現場では、4車線ほどの大通りの各所がテープで遮られていた程度で、ほとんど警察の干渉はなし。また長丁場に備えてキャンプ用の椅子やテーブルが並べられ、多くのタクシー運転手たちが家族連れで夕べの一時を過ごしていた。
タクシーの後部座席を開けて団らん中。とりあえず集まって話をするのが好きな人々が多いのは南欧の特徴。筆者もたまたま通りがかって、どういうストライキなのかよく知らなかったので、現場で直接話を聞いた。
話を聞いた30代ぐらいの2人の運転手に写真を撮ると言ったら、喜んでどんどん撮ってくれと彼らの家族が笑顔で集合した(ちなみに夜11時ぐらいで日本なら子どもは寝ている時間。しかし、スペインの人々は規則正しい生活にはそれほどこだわらない)。
一部が暴徒化し、Cabifyで配車された車が襲撃されたという報道もあったが、家族連れが夜11時にいて問題がない雰囲気だったことは間違いない。
路上でドミノゲームに興じる人々。疲れたら車で休憩、または車中泊。ちなみにバルセロナのタクシー運転手の多くは自営業者だが、彼らが選択する車種で一番多いのは、なんとトヨタのプリウス。
地べたでビールを飲む運転手たち。実は、バルセロナでいい歳をした大人が、地べたで座り飲みするのはそれほど珍しいことではない。用意がなければそこら辺の店で飲み物を買って、地面に座って飲むのがこの街の流儀だ。
南アジア系の聞いたことがない言語のヒップホップやダンスミュージックが聞こえる。南欧には南アジアや中南米からの外国人労働者も多く、多くのパキスタン系タクシー運転手が働いている。
大きなスピーカーを持ち込み、踊り始める人々も。バーベキューをしている人こそ見なかったが(もしかしたらいたかもしれない)、まるでどこかのフェスティバルやキャンプ場を見ているような雰囲気だ。
実は、7月から8月にかけて、スペインはバケーション時期だ。和やかにも見える風景の裏には、稼ぎ時に生活を投げ打ってでも無期限ストライキを行わなければならない、彼らなりの理由がある。
バルセロナのタクシー料金は、そもそも他国と比較してそれほど高くない。市中心部から車で30分ほどの空港まで、地元のタクシーを使っても25ユーロ(約3270円)ほどで、ウーバーやCabifyを使うとむしろ2〜3ユーロほど高くなるくらいだ。
大手配車アプリのサービスへのライセンス付与枠が拡大されると、アプリに登録した運転手は自らライセンスを取得しなくてもタクシーとしての営業ができるようになる。既存のタクシードライバーからすれば、(ただでさえ利益が厳しい中で)過剰な価格競争が起こることは避けたい。
そのことを世の中に知らしめるために、こうして態度で示しているのだ。
観光方面にも、今回のストライキは大きな影響を与えている。ホテルに勤めている知人に、今回のストライキについて記事を書く予定だと話したところ、「やめてくれー、彼らを調子づかせてしまうじゃないか!」と嘆願された。バルセロナは現在ローマを抜いてヨーロッパで一番観光客を集める都市であり、観光は重要な産業の一つだ。
仮に日本なら、交通に少しでも支障を来たすようなストライキはご法度で、街中で音など出そうものなら苦情が出かねない。そう思うと、こういったストライキにはある意味での「自由さ」がある。それも良し悪しだろうが、家族も一緒になって、できるだけ楽しもうとする「政治参加への敷居の低さ」には学ぶべきものがあると、バルセロナに住んでいていつも思う。
今年の6月に発足したスペインの新政権が、この全国規模のタクシー・ストライキにどう対応するのか今後も注目したい。
(文、写真・類家利直)