なぜ杉田水脈議員は過激発言を繰り返し“出世”したのか──女性が女性を叩く構図は誰が作ったか

LGBTには「生産性がない」。

自由民主党の杉田水脈(みお)衆議院議員(51)の主張が、連日大きな批判を集めている。しかし、杉田氏の差別発言はこれだけではない。これまで公になっている発言を見ても、慰安婦問題や性暴力、#MeToo運動など、杉田氏が女性やマイノリティを過激な言葉で攻撃すればするほど、政治家としての“地位”を得てきたという事実だ 。

新潮45

『新潮45』の杉田議員の寄稿。同性婚を認めると「ペット婚」や「機械婚」に発展することを懸念している。

撮影:竹下郁子

LGBT支援、女性支援を“弱者ビジネス”と揶揄

問題になっているのは、『新潮45』8月号に杉田氏が寄稿した「『LGBT』支援の度が過ぎる」の内容だ。

「LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか
「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」

LGBT当事者が日常生活で差別を感じていることはさまざまな統計が示しており、例えば、内閣府の「人権擁護に関する世論調査」(2017年10月)によると、49%の人が性的指向に関して「差別的な言動をされる」と回答している。

さらに、子どもを産むか産まないかを「生産性」に置き換えるのは、優生思想*につながる危険な考え方だ。

優生思想とは:人の命に優劣があるという考え方。日本では「旧優生保護法」(1948〜96年)のもと、精神障害や知的障害のある人に不妊手術を強制しており、当時者が国に損害賠償を求めて提訴している。

実は、杉田氏は同誌の2016年11月号にも「『LGBT』支援なんかいらない」というタイトルで寄稿している。

国や自治体が少子化対策や子育て支援に予算をつけるのは、『生産性』を重視しているからです。生産性のあるものとないものを同列に扱うのは無理があります。これも差別ではなく区別です」
「日本では基本的人権が保障されています。(中略)この上で、『女性の権利を』とか『LGBTの人たちの権利が』とかいうのは、それぞれ『女性の特権』『LGBTの特権』を認めろ!という主張になります」
このままいくと日本は『被害者(弱者)ビジネス』に骨の髄までしゃぶられてしまいます

同様の主張は2015年3月にも本人のブログに投稿されている。つまり、主張は数年前から一貫しているのだ。

#MeTooは“魔女狩り”、個人への中傷も

杉田水脈

出典:杉田水脈議員ホームページ

杉田氏がLGBT同様、攻撃の対象にしてきたのが女性たちだ。セクハラについてこんなことを述べている。

「とにかく女性が『セクハラだ!』と声を上げると男性が否定しようが、嘘であろうが職を追われる。疑惑の段階で。これって『現代の魔女狩り』じゃないかと思ってしまう。本当に恐ろしい(本人Twitter、2018年4月) 」
「セクハラやモラハラなどによって社会が萎縮すると国益を失うことにつながります」(『新潮45』2017年4月号「『セクハラ』で社会はおかしくなった」)

中でも深刻なのは、元TBSワシントン支局長を告発した伊藤詩織さんへの中傷だ。杉田氏はTwitterにこう書いている。

「伊藤詩織氏の事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます」
「もし私が、『仕事が欲しいという目的で妻子ある男性と2人で食事にいき、大酒を飲んで意識をなくし、介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むような事をする女性』の母親だったなら、叱り飛ばします。『そんな女性に育てた覚えはない。恥ずかしい。情けない。もっと自分を大事にしなさい。』と」

6月に放送されたBBCの番組内でも「明らかに女としての落ち度がありますよね」と発言するなど、セカンドレイプを繰り返してきた。

伊藤さんの著書『ブラックボックス』によると、伊藤さんはお酒に何らかの薬物を入れられたことを疑っている。さらに言えば、そもそも2人で食事をすることと性的関係の合意は全く別の話だ。

「男女平等は反道徳の妄想」と国会質問

横断歩道

撮影:今村拓馬

杉田氏は国会でも、女性差別なんてない、男女平等は悪という主張のもと、「女子差別撤廃条約」「男女共同参画社会基本法」の撤廃、廃止を繰り返し訴えてきた。

私は、女性差別というのは存在していないと思うんです。女子差別撤廃条約には、日本の文化とか伝統を壊してでも男女平等にしましょうというようなことが書いてあって、これは本当に受け入れるべき条約なのか 」(2014年10月15日、内閣委員会)
「日本は、男女の役割分担をきちんとした上で女性が大切にされ、世界で一番女性が輝いていた国です。女性が輝けなくなったのは、冷戦後、男女共同参画の名のもと、伝統や慣習を破壊するナンセンスな男女平等を目指してきたことに起因します。男女平等は、絶対に実現し得ない、反道徳の妄想です。 男女共同参画基本法という悪法を廃止し、それに係る役職、部署を全廃することが、女性が輝く日本を取り戻す第一歩だと考えます」 (2014年10月31日、本会議)

待機児童、シングルマザー支援、選択的夫婦別姓についても、問題を解消する気はなさそうだ。

「世の中に『待機児童』なんて一人もいない。子どもはみんなお母さんといたいもの。保育所なんか待ってない。待機してるのは預けたい親でしょ」(本人Twitter、2018年1月)
「実際シングルマザーはそんなに苦しい境遇にあるのでしょうか?(中略)離別の場合、シングルマザーになるというのはある程度は自己責任であると思うのです。前述のようにDVなんて場合もあるかもしれませんが、厳しいことを言うと『そんな男性を選んだのはあなたでしょ!』ということに終始します」(『新潮45』2017年9月号「シングルマザーをウリにするな」)
「選択的夫婦別姓はまさしく夫婦解体につながる」(2014年10月15日、内閣委員会)

今回の杉田氏の「生産性」発言を受けて、立憲民主党など謝罪と撤回を求める野党議員は多い。7月27日、東京・永田町の自民党本部前などには、杉田氏の記事に抗議する約5000人が集まった(朝日新聞より)。

しかし、前述の通り、杉田氏のこうした“差別発言”は今回が初めてではない。なぜこれまで見過ごされてきたのか。

野党はスルー、首相はラブコール

国会

撮影:今村拓馬

井戸まさえ氏(立憲民主党・東京都第4区総支部長/元衆議院議員)は言う。

「あまりにも荒唐無稽な発言が多いので、相手にするのも無駄だと野党側もそう問題視せず“スルー”してきたのだと思います。右翼の票集めのための“ガス抜き”要員ぐらいの認識で、ある意味“上から目線”で見ていたのかもしれません。まさか発言が政策決定と直結する与党の衆院議員になるとは、想像もしていなかったですから」(井戸さん)

杉田氏は兵庫県西宮市役所職員を経て、2012年に日本維新の会・衆院議員として初当選。その後、分党にともない次世代の党(現・日本のこころ)に参加するも、2014年12月の衆院議員選挙で落選した。浪人中は保守派の論客として講演や執筆をこなし、2017年10月の衆院選で自民党の公認を得て、再び議員の座へ。比例中国ブロックで比例単独候補の最上位という厚遇だった。

朝日新聞によると、ジャーナリストの桜井よしこ氏は公示前の2017年9月末、自身のインターネット番組で、「安倍さんが杉田さんって素晴らしいというので、萩生田(光一・現党幹事長代行)さんとかが一生懸命になってお誘いして」と公認をいち早く公表したという。

保守派の動きに詳しいモンタナ州立大学准教授(社会学・人類学部)の山口智美さんによると、杉田氏の躍進を支えたのは、「慰安婦問題」への取り組みだったという。

2013年12月、当時、日本維新の会に所属していた杉田氏は、アメリカ・カリフォルニア州グレンデール市を訪れ、慰安婦像を撤去するよう要請。このことがメディアで報じられ、保守派の間で徐々にその名前が広がっていったという。大きな話題を集めたのが、保守派の間で「神質問」と言われる、2014年2月の国会質問だ。

「今、私たちが対峙しないといけないのは、うそも百回叫べば真実になると言っている中国や韓国の報道活動、政治宣伝なんですよ 」
「最も問題なのは、日本の中に存在する反日の勢力です。発言力の大きなマスコミの中にも存在します。残念ながら、国会議員の中にも存在します 」
「女性の人権問題にすりかわりつつある、こういう事態を踏まえましたら、男性はなかなか指摘しづらい面があると思います。女性が冷静に論理的に取り組むことで解決への糸口を開こうということで、国と地方の女性議員が呼びかけ人になって、河野洋平元官房長官の証人喚問を求める国民運動に取り組もうと考えております 」

「慰安婦問題は女性がやるべき」と白羽の矢が立った

夜の繁華街

shutterstoc/Matej Kastelic

2014年8月に入ると、朝日新聞が過去の慰安婦報道を検証する特集記事を掲載。2015年からは杉田氏も報道を巡る集団訴訟に参加した。

慰安婦報道を巡る集団訴訟とは:朝日新聞の報道により日本国民としての名誉を傷つけられたとして、「朝日新聞を糺す国民会議」など3つのグループが集団訴訟を起こした。これまでに、すべて請求棄却の判決が確定している。

落選中もスイス・ジュネーブの国連欧州本部を訪問するなど、計6回、国連に足を運び、慰安婦の強制連行などを否定してきたという(『新潮45』2018年4月号「いまも続く『慰安婦』誤報の弊害」)。

杉田氏は「新しい歴史教科書をつくる会」の会員向け機関誌での鼎談で、先の国会質問をこう振り返っている。

かねてから先輩の先生方が、『この問題(慰安婦問題)は女性がやったほうがいい』とおっしゃっていて、そこで私に白羽の矢が立ったわけです。その質問をやらせていただいたら、動画サイトYouTubeなどの再生回数が、あれよあれよという間に急上昇。何だか急に忙しくなりました」

前出の山口さんは言う。

「最初は右派の中でも傍流だったのに、国会や国連で慰安婦問題などに取り組むうちに“歴史戦”を戦うジャンヌ・ダルクのような存在に。慰安婦を支援する側は女性が多かったので、『対抗するには女性を』という戦略が、政界にも右派論壇にもあったと思います。

こうした役割を女性に担わせる男性たちがいて、彼女もそれを進んで引き受けたということでしょう。そして、杉田氏が過激なことを言えば言うほど出世していったという事実を、私たちは深刻に受け止めなければいけないと思います

ちょうどその頃から右派も“女性推し”に。日本会議は、改憲に向けて女性同士で勉強する「憲法おしゃべりカフェ」を活性化させた。

一方、第2次安倍政権下では「女性活躍」「女性が輝く社会」などが打ち出され始めた。杉田氏はこうした流れの中で、議員として知名度を上げていったのだ。

同誌面で、杉田氏はこんなことも述べている。

「ジェンダーフリーやLGBT、フェミニズム、ポリティカル・コレクトネスなどもそうですし、それに対し女性の立場で反論していくことの必要性を強く感じています

「ポスト杉田」はいらない

レインボーフラッグ

shutterstock/lazyllama

山口さんは一方で過激に思える杉田発言も、自民党の中には同様の思想の議員が根強く存在すると指摘する。

「『子どもを3人以上産むよう呼びかけている』『赤ちゃんはママがいいに決まっている』『4人以上産んだ女性には厚労省で表彰を』など、自民党議員の過去の発言には、出産や子育てという極めて個人的なことに介入するものも多い。自民党の24条改憲草案、地方自治体で行われている婚活事業、LGBTへの配慮がなされないことが多い中高生向けのライフプラン教育などを見ても、杉田氏の主張にあるような子どもをつくることへの執着や、『生産性』という名のもとで国民を切り捨てるような懸念を感じる政策が多いです」

杉田氏の今回の発言に関しても、自民党の二階俊博幹事長は「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観もある」と述べ、問題視しない考えを示している(朝日新聞より)。

前出の井戸まさえ氏は「ポスト杉田水脈」を生まないためにも、差別に「NO」と言い続けること、そして政界の構造的な問題も批判していく必要があると言う。

「杉田議員は結局、男性議員が言いづらいことを代弁してきたんだと思います。まだまだ男性社会の政界で後ろ盾のない女性が生き残っていくために、男性の考えを代弁し、さらに過激な発言に走ってしまう。彼女の発言には憤りを感じますが、それが生まれてくるプロセスはすごく分かります。有権者がこういう言論は絶対に許さないんだという強い意思を議員にも党にも示すことで、現状を変えていかなければいけません」

(文・竹下郁子)

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