異色人材のすごい宇宙ベンチャー「スペースウォーカー」の野望 ── 2027年に有人宇宙飛行めざす

宇宙

スペースウォーカーの発足会見に出席した役員たち。右から4人目が、創業者で九州工業大学の米本浩一教授。左から3人目が、取締役会長で元JAMSS社長の留目一英氏。

「2027年には誰もが宇宙に行ける時代に」

日本初の有人宇宙飛行を目指し、宇宙業界のベテランたちと、異業種の30代がタッグを組んだ。2018年8月1日に発足会見を開いた、宇宙ベンチャーの「SPACE WALKER(スペースウォーカー)」だ。

大手広告代理店、ファンド、ミクシィの出身者らがそれぞれの得意分野を生かし、宇宙業界の重鎮たちと壮大な事業を実現させる。

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スペースウォーカー

米本教授との出会いから会社設立に参加した、大山よしたか代表取締役CEO(左)。アートディレクターの肩書きを持つ。監査法人トーマツ出身の公認会計士、眞鍋顕秀代表取締役COO(中央)と、ファンドマネージャーの保田晃宏取締役CFO。

創業者の九州工業大学の米本浩一教授(65)は、日本版スペースシャトルと言われた「HOPE」の時代から約30年間、研究を続けてきた。川崎重工業から九州工業大学に移籍し、「当初は(有人宇宙飛行の)実用化はまったく頭になかった。大学でできるわけがない」と思っていたという。

ところが、実験機の打ち上げに成功したり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究が決まったりするうち、「ひょっとして、実用機を狙ってもいいのでは」との野望が芽生えてきた。

米本教授は自らベンチャーキャピタルを回り、資金調達に奔走。その頃、のちにスペースウォーカーの最高経営責任者(CEO)に就任する大山よしたかさん(37)を、長女から紹介された。

大山さんは大手広告代理店出身のアートディレクター。代理店時代に航空会社のブランディングを手がけた実績を持つ。米本教授の長女はアートを学んでいたことから、たまたま大山さんと知り合いだった。教授が研究に取り組む姿を目にした大山さんは、「(研究を続けてきた)メンバーが元気なうちに、有人飛行を実現したい」と、ある種の使命感を感じ、賛同したという。

その後、それぞれが知人に声をかけ、現在の役員陣が揃った。「想像だにしなかったメンバーになっていた」(米本教授)。以前の研究仲間との再会があれば、まったく異業種の若手たちとの出会いもあり、素直に驚いた。

スペースウォーカー

宇宙業界のベテランから異業種の若手メンバーが集った、スペースウォーカーの役員陣。※は社外取締役。

出典:SPACE WALKER

事業化には「専門外」の知識が不可欠

スペースウォーカー

2027年の有人宇宙飛行を目指す、スペースウォーカー。

出典:SPACE WALKER

スペースウォーカーを会社組織にする構想が生まれたのは2017年の早い時期で、その年の12月には設立された。会社のミッションは、2027年を目標とする、乗員・乗客8人の有人宇宙飛行の実現だ。機体は再使用可能な有翼ロケットにする計画で、打ち上げ頻度を高めることで製造コストを抑える。

まずは2021年に100キロ上空で科学実験を行い、2023年には人工衛星を打ち上げる。研究・開発は、IHI、IHIエアロスペース、川崎重工業、九州工業大学、JAXAと技術アライアンスを結んで進めていく。

2027年の実現を目指す有人宇宙飛行では、「地球が丸く見える高度に達し、無重量(人間が体重を気にしなくなる)を体験できる」(米本教授)という。無重量の時間は3〜4分程度。

開発費用は、2021年の科学実験までに100億円弱、2027年の有人宇宙飛行までに1000億円程度を見込む。

最高執行責任者(COO)で公認会計士の眞鍋顕秀さん(37)、最高財務責任者(CFO)でファンドマネージャーの保田晃宏さん(32)はそれぞれ、資金調達や財務面を支える。

眞鍋さんは現在、エンジェル投資家を中心に資金調達の相談をしている。「宇宙と地球を結ぶインフラ事業として考えると、(それを強みとする)日本でできないわけがない」との見方から、国内を中心に資金調達を行う考えだ。

若手の意見を尊重するベテラン勢

スペースウォーカー

30年間研究を続けてきた米本教授。若手がデザインした名刺を見て、文字を大きくしようと提案したが、「デザインだから」と言われて譲歩した。「2、3年したら、ルーペを使って見ないと」と苦笑い。

異業種の若手たちと宇宙業界のベテランたちは、それぞれの得意分野を棲み分け、一つの会社を成り立たせている。

例えば、社名を考える時。米本教授は当初「スペースウォーカーズ」と、社名の最後に複数形の「ズ」を入れようとした。ところが、若手の役員を中心に反対の声が続々とあがった。

社名をロゴにした時に「ズ」を入れると長くなる。主にデザイン面への配慮から、最終的に現在の社名で決着した。アートディレクターである大山さんはデザインに人一倍のこだわりがあり、その主張を含めて若手の意見が受け入れられた形だ。

米本教授らが発表資料のスライドに口を出しても、若手は素直に聞かない。結局、米本教授が修正を求めた部分を直さず、本番を迎えた。

米本教授は若手の意見に思わず黙り、譲歩した。「デザインの『プロですから』と言われれば、『はい』と」。

会社で働いている人なら、『何、生意気言って』と思うのかもしれない。私は普段から学生と接しているから、むしろ目線の違う意見はうれしい。手伝ってくれるスタッフたちもどこからか集まってきてくれて、『どこにこんな人いたの』と嫉妬するくらい」(米本教授)

宇宙プロジェクトの商業化に欠かせない、専門外の知識や経験。ミクシィ出身の取締役、辻正隆さん(48)は、ソーシャルメディアに投稿するなどファンづくりを意識する。

取締役会長の留目一英さんは、「機体開発だけでなく、集客、運用も行う必要がある。多様なバックグラウンドを持つメンバーたちと一緒に、新しい化学反応を起こしていきたい」と語る。

宇宙関係者や投資家らが「久しぶりに大きな夢を見た」と沸いたスペースウォーカーの発足会見。その言葉には、周囲の期待の高さと困難なチャレンジへの想いが入り混じる。

「夢を夢で終わらせない」若手とベテランのタッグは、夢を現実に変えられるだろうか?

(文、撮影・木許はるみ)

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