FacebookもSpotifyも、Uberも使う「あの決済サービス」がすごい

最近は海外のIPO案件を多数記事にしている気もしますが、今日も海外のIPO案件のご紹介です。

今日の記事は、FacebookやSpotifyも利用するAdyenという決済サービスのビジネスモデルの詳細を明らかにしたいと思います(Adyenの上場申請書)。

Adyenは「アデェィン」と読み、Start over again(またゼロから始める)という意味です。この社名の由来は、創業者たちが以前一度、決済型のサービスを構築し売却した後に、再度似たようなスタートアップを始めたことに由来すると言われています。

なお、Adyenはオランダの会社であるため、決算資料はすべて€(ユーロ)で記載されています。この記事では€1=130円という設定で、日本円での概算表記を付けていきます。

顧客ベースの特徴

今さら新しい決済サービスが必要なのか、と思った読者の方も多いかもしれないので、初めにAdyenの顧客リストを見てみましょう。

Adyenの顧客リスト

冒頭でも書いた通り、Facebook、Spotifyだけではなく、UberやNetflixでも利用されている決済サービスです。

このリストを見ると、非常に大きなエンタープライズ系にも利用されていて、大企業に向けに最適化されているサービスだということがお分かりいただけると思います。

なお、以前何度か書いたことがあるのですが、eBayとPayPalが分離された後、eBayは現時点ではプライマリー決済手段がPayPalになっていますが、今後はeBayのプライマリー決済手段がAdyenになるということがすでに発表されています。

目論見書の中に以下のような数字が載っていました。

上位10顧客が全取扱高(全売上)に占める割合: 39%(33%)

上位120顧客が全取扱高(全売上)に占める割合: 83%(69%)

2017年の顧客数: 3,401社(vs 4,510社 2016年)

2017年の月間€1M(約1億3,000万円)以上の取扱高の顧客数: 478社(vs 336社 2016年)

この数字から分かる通り、Adyenは、取扱高や売上に占める大企業の割合が非常に大きいサービスです。

2016年から17年にかけて、顧客数が1,000社以上減っているにも関わらず、月間€1M(約1億3,000万円)以上の取扱高を誇る顧客数が増えているという点からも、このサービスが大きなエンタープライズに受け入れられやすいという点が読み取れます。

売上・営業利益——健全そのものな経営

売上営業利益を見ていきたいと思います。

Adyenの決算書

Adyenの決算書

2018年1月から3月の四半期で取扱高が€33.2B(約4兆3,160億円)、トランザクション件数が12億件となっています

同四半期でグロス売上が€316M(約411億円)、Net売上が€74.4M(約96.7億円)、EBITDAが€34.1M(約44.3億円)でした。

テイクレートは0.95%となっていますが、EBITDA利益率は10.8%、そしてこの表から分かる通り、2015年からずっと黒字で経営されている会社です。

利益率が高いだけではなく、表の一番右にある年平均成長率を見ると取扱高で83.4%、トランザクション件数で102.8%、Net売上が48.9%と、とてつもないスピードで成長していることが読み取れます。

地域別の売上を見てみましょう。

地域別売上

地域別で見るとヨーロッパが最も大きいセグメントで、全体の半分以上を占めます。次に大きいのが北米、その次に南米となりますが、最も成長率が高いのはアジアです。

費用内訳

費用を見ると、内訳としては人件費とその他の販管費が大きくなっており、PLとしては非常にシンプルな構成になっていると言えるでしょう。

キャッシュフロー

キャッシュフローの状況を見ても、本業からキャッシュを稼いでいる以外、大きな投資活動もなく、毎年€170M(約221億円)以上がコンスタントに生み出されている、非常に力強いビジネスだと言えます。

貸借対照表

こちらが貸借対照表になりますが、現金相当物だけで€1.18B(約1,530億円)を有しており、それに対して€872M(約1,134億円)分の短期負債がありますので、ネットで約€300M(約390億円)分の現金相当物を保有していることになります。

大きな借入金もなく、こちらの貸借対照表も非常に健全なものだと言えるでしょう。

サービス概要

実際にAdyenがどのようなサービスを提供しているのか見てみましょう。

これだけ昔からあるビジネスを、これだけ速いスピードで、これだけの規模に成長させているのには、何か理由があるはずですが、一体どのようなサービスを提供し、どのように差別化しているのでしょうか。

従来の決済フローとAdyenの決済フロー

上の図が通常の決済フローになります。

左側から、店舗はまず決済ゲートウェイと通信をします。決済ゲートウェイはリスクマネージメントを行った上で、アクアイヤーや、ビザなどのネットワークと決済プロセッシング業務を行います。

下の図がAdyenのモデルになりますが、Adyenは決済ゲートウェイだけではなく、リスクマネージメント、そしてビザなどのネットワークとの通信も一挙に引き受けることになります。

このように、決済における中間プレイヤーを減らすことで、より早く、そしてより安価な手数料でサービスが提供できる、というのが同社の強みになります。

目論見書の中ではAdyenの強みとして、以下の四つが挙げられています。

A global platform with local depth(ローカルに詳しいグローバルプラットフォーム)

Unified commerce across all channels(多方面にわたる統一的な取引)

Data-centric solutions to increase revenue while reducing risk(リスクを低減しながら収益を増加させるデータ中心のソリューション)

Membership to ongoing innovation(継続的なイノベーションへの参画)

単なる決済サービスだけではなく、オフラインの店舗向けにもPOS端末を提供しています。

オフラインの店舗向けにもPOS端末

Apple Storeで買い物をしたことがある人は、店員がこのような端末を持っている姿を見たことがあるかもしれませんが、Adyenも似たような端末を店舗向けに提供しています。

他の決済サービスとの最大の違いは、AdyenのPOS端末を利用して決済すると、そのデータはオンラインで購入されたデータと同じデータベースに保存されるため、店舗側がそのユーザーの過去の購入履歴などを一元管理することができる、という特徴です。

これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実はこれが実現できている店舗というのは非常に少ないのです。お店に靴を買いに行って在庫がない場合に、そのお店で注文することができずに、店員さんからオンラインで注文してくださいと言われてしまうケースに遭遇された方もいらっしゃるのではないでしょうか。

Adyenのサービスを使えばこのようなケースがなくなり、より良い顧客サービスを、マルチチャネルで提供できるようになるというわけです。

価格体系

価格体系のイメージを見てみましょう。

価格体系のイメージ

こちらはあくまでサンプルですが、購入者が100円分の買い物をした場合、購入者側の銀行などで約1%手数料がかかり、VISA・Masterなどのブランドに0.5%の手数料を支払い、Adyenが0.26%の手数料を取り、最終的に店舗側には98.24%が支払われるというモデルになっています。

経営陣への報酬と株主名簿

次に経営陣への報酬と株主名簿を見てみます。

経営陣への報酬

初めに経営陣への報酬ですが、年間1人当たり約€400,000~€500,000(約5,200万~6,500万円)の間で報酬が支払われています。

日本の感覚からすると少し高い印象があるかもしれませんが、例えばシリコンバレーの会社と比べればかなり常識的な範囲であると言えるのではないでしょうか。むしろ少し安いくらいかもしれません。

株主名簿

株主名簿になりますが、シリコンバレーで資金調達もしてきた形跡が伺えます。

というのは、創業者の持ち分が非常に小さくなっていることと、シリコンバレーでも著名なベンチャーキャピタルであるフェリシス・ベンチャーズ、インデックス・ベンチャーズ、General AtlanticといったVCが多くのシェアを保有していることが読み取れるからです。

この会社はオランダにある会社ですが、資金調達や経営陣への報酬などを見る限り、限りなくSilicon Valley モデルに近い形で運営されていると言って間違いないでしょう。

まとめ

以上、Adyenの上場目論見書から読み取れる、同社のビジネスを整理していきました。

繰り返しになりますが、決済という非常に古くからある業界で、これだけのスピードでこれだけの規模に成長してきたというのは、すごいの一言ではないでしょうか。

さらに、これだけ歴史のある業界で名だたる顧客を獲得しているというのも、非常に興味深いと思いました。

創業者兼CEOへのインタビュー動画が、この会社のすごさを的確に表していますので、英語版しかありませんが、もし興味がある方はぜひご覧になって下さい。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。

決算が読めるようになるノートより転載(2018年7月31日の記事

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