いわゆる“4年縛り”のプランとなっているau「アップグレードプログラムEX」。
出典:KDDI
KDDIは公正取引委員会の指摘を受け、「4年縛り」のプログラムに見直しをかける。髙橋誠社長が、8月1日に開催された同社の決算説明会で明らかにした。
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KDDIは、4年割賦と端末の下取りを組み合わせた「アップグレードプログラムEX」を改定し、2年目以降に機種変更する際に、同プログラムに再加入する規約を撤廃する予定だ。時期はシステム変更ができ次第だが、「そこまで待たずにできるのではないか」(髙橋氏)という。
アップグレードプログラムEXと同等と言えるソフトバンクの「半額サポート」はKDDI以上の対応が迫られる可能性がある。
出典:ソフトバンク
auのアップグレードプログラムEXに近い「半額サポート」を導入しているソフトバンクにはまだ動きがないが、同様に、条件を緩和せざるをえなくなりそうだ。
公取委は実態とは異なる「半額」という表記も問題視しており、ソフトバンクについてはサービス名称自体が変更される可能性もある。
KDDIが撤廃するのはあくまで“プログラムの再加入”
アップグレードプログラムEXの見直しを発表したKDDI髙橋社長。
公取委が問題視していたアップグレードプログラムEXとは、KDDIが「auピタットプラン」「auフラットプラン」に合わせて導入した携帯電話の買い方のことだ。これらはいわゆる“分離プラン”と呼ばれるもので、料金自体を下げる代わりに、端末購入補助がつかない。そのため原則として、端末の本体価格をそのまま支払う必要がある。
一方で、スマートフォンの価格は、最上位の端末では10万円を超える。割引をつけるか料金を値引くかの違いになるため、事実上の負担額が大きく変わるわけではないが、割引後のいわゆる“実質価格”に慣れたユーザーは、端末代が値上がりしたように感じてしまう。アップグレードプログラムEXは、この負担感を軽減するために導入された経緯がある。
分離プランは見かけ上の端末価格が上がってしまう。
具体的には、まずこれまで2年間で組んでいた割賦を4年間に延長。これによって毎月の支払い額を2分の1にした上で、2年間利用した後、機種変更する際には端末の下取りを条件に残債を免除する。
現状のアップグレードプログラムEXは、ここにもう1つ条件がある。それが冒頭で挙げた、「同プログラムに再加入する」というものだ。KDDIが撤廃するのは、この条件になる。
公取委の指摘を見ると、4年割賦そのものを問題視していたわけではないことが分かる。4年割賦に、機種変更や下取り、同一プログラムへの再加入といった条件を組み合わせた結果、ユーザーがアップグレードプログラムEXから抜けづらくなってしまう。これが、公正な競争を促進する上で問題になるというわけだ。
負担感軽減のため、4年割賦と下取りを組み合わせた「アップグレードプログラムEX」が生み出された。
“4年縛り”改訂後、スマホ料金はどう変わるのか?
公取委が4年縛りを指摘した背景には、大手キャリアと格安SIM事業者(MVNO)との関係性がある。
撮影:今村拓馬
今回KDDIは、アップグレードプログラムEXへの再加入を撤廃し、機種変更時にユーザーが端末購入補助のある料金プランを選べるようにする。2年間継続した後は、やめて前のプランに戻ることができる。ユーザーに選択肢が増えることにつながり、改善といえる。
ただし残債免除の条件には機種変更が残っており、アップグレードプログラムEXをお得に使おうとすると、auユーザーであり続ける必要はある。
公取委が4年縛りの独占禁止法違反を指摘した背景には、大手通信事業者から回線を借りて提供している格安SIM事業者(MVNO)への後押しもあったと言われる。大手キャリアからの乗り換えが多いMVNOにとって、ユーザーの流動性が低くなるのは死活問題だからだ。
NTTドコモは、今後も4年縛りを導入するつもりはない
ドコモの吉澤社長は、4年縛りを「拘束しすぎ」と批判した。
4年縛りに該当するプログラムを提供していないドコモの吉澤和弘社長は、8月2日の同社の決算会見で「今の時点で(同様の仕組みを導入する)つもりはまったくない」と断言している。
KDDIの改定については、「更新(プログラムへの再加入)については条件を緩めたが、割賦そのものは残るので、残債を支払わなければならない。昨年7月からプログラムを入れており、解約がしにくくなっている」と語り、拘束性が十分緩和されていないとの見方を示している。
2年縛りにも改善の兆し、ドコモはKDDIに歩調を合わせる方針
また、4年縛りとは別に2年縛りも改善の兆しが見えた。こちらは公取委ではなく、通信事業を管轄する総務省の指導に沿った格好だ。総務省の有識者会議で問題視されたのは、2年契約の更新月に解約しても、その月の通信料が発生してしまうこと。この通信料を日割りにできないかが議論されていた。
総務省の有識者会議では、違約金がかからない月に解約した際の料金を日割りにすることが求められていた。
出典:総務省「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会報告書」別紙2
一方で、現状では音声通話は定額で、データ通信も毎月の容量が決まっているため、日割りの計算が非常にしづらい。「2日目でデータパックの全容量を使って解約しても、2日分の料金しかいただけなくなってしまう」(吉澤氏)からだ。使ったデータ容量に応じて請求する手もあるが、システムが煩雑になりかねない。
そこでドコモやKDDIは、妥協案として無料で解約できる期間を、現行の2カ月から3カ月に延ばすことを決定した。ドコモ、KDDI、ソフトバンクで仕組みが異なるとユーザーにとって分かりづらくなってしまうため、「3社で対応に違いがないようにしていくべきだと思っている」(吉澤氏)といい、歩調を合わせていく方針。今は25カ月目、26カ月目に無料で解約できるが、これが24カ月目に広がることになりそうだ。
(文、撮影・石野純也)
石野純也:ケータイジャーナリスト。出版社の雑誌編集部勤務を経て独立後、フリーランスジャーナリストとして執筆活動を行う。国内外のスマートフォン事情に精通している。