私は本を読むのが好きです。正確に表現すると、好きというより習慣になっています。習慣ですので、歯磨きや洗顔と同じように、読書しないと気持ちが悪くなってしまうのです。
年間100冊以上、つまり週に平均2冊読んでいます。この習慣を少なくとも18年間続けているので、おおよそ2000冊前後読んだ計算になります。
働く時間の使い方を意識することでパフォーマンスは向上する。
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ジャンルでいうと仕事に直接的、間接的に関係する本が50冊程度。時期ごとに変わるのですが、個人的に興味がある分野が20、30冊。あえて手に取らない本を知人の紹介、日経新聞の土曜日の書評などから選んで20、30冊。ベストセラーを数冊読んでいます。
ジャンルの違う本を読むことで、脳が刺激を受け、別々のトピックスがつながり、さまざまなアイデアを生み出します。その際に、仕事のレベルを上げるのに役立つTipsを思いつくことも少なくありません。
そのTipsを自分で実行すると仕事のレベルが上がります。その話を聞きつけた編集者の協力で、そのTipsをまとめて本にしたこともありました(『リクルート流仕事ができる人の原理原則』)。
今回は、同僚にシェアすると評判の良かった「時間の使い方」関連のTipsを3つピックアップして紹介したいと思います。
①仕事の優先順位は緊急度ではなく、重要度で決める。
仕事はできるけど、段取りの悪い人は「緊急度」というモノサシで仕事の優先順位を決める傾向があります。彼らは、目の前にある仕事から順にこなしていき、いつも忙しそうです。場合によっては、その忙しさ自体を、誇らしげに感じているように見えます。
彼らにフランクリン・コヴィー博士の「7つの習慣」を紹介します。
「仕事を緊急度の高低と重要度の高低の二軸によって4分類し、緊急度が低く重要度の高い仕事から優先的にスケジュール帳に書き入れなさい」とアドバイスするわけです。
このアドバイスへの反応はおおよそ3つに分かれます。
1つめのタイプは、目からうろこの考え方だ!ということで、優先順位のモノサシを劇的に変えてくれる人。このような方々は問題ありません。しかし、このようなタイプの方々は少数派です。
2つめのタイプは、「重要度が高い仕事の優先順位が高いのは分かる。しかし緊急度が高い仕事も優先順位が高いのではないか」という人です。頭では理解できるけれども、結局実行しないタイプ。
そして3つめのタイプは、目の前に山のように緊急度が高い仕事があるので、重要度で考えることなどできない、と拒絶し、今までのモノサシを変えようとしないタイプです。
段取りの悪い人は仕事の「緊急度」で優先順位をつけがち。
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2つめと3つめのタイプの方に直近2週間ほどのスケジューラーをプリントアウトしてもらいます。そして日々のスケジュールごとに①主要業務(重要度が高い業務)、②周辺業務(重要度は高くないがやらざるを得ない業務)、③手待ち業務(待ち時間、暇つぶしなど)に分類してもらいます。
そして、①:②:③の比率を確認してもらい、結果を振り返るのです。実際にやってみると、想像以上に②の仕事が多いのに愕然とすることが多いのです。5割以上が②の人も少なくありません。
この②の周辺業務は個人では変化させられないケースもあります。組織全体、あるいは周辺組織と一緒に取り組まないといけないケースも出てきます。しかし、このようにシンプルに「見える化」し、事実をベースにコミュニケーションするだけで、理解と実行可能性が高まります。
ちなみに、この①②③の分類はコヴィー博士の分類をさらにシンプルにしています。「緊急度」のモノサシを可能な限り無視しているのです。私たちは常日頃、知らず知らずのうちに「緊急度」のモノサシで考える習慣が染み付いています。勇気を持って「重要度」のモノサシだけで考える習慣をスタートしてもらうためのTipsです。
今の状態が良いという②③のタイプの人に「今の状態を1年後も3年後も5年後も続けるのですか?」「あなたが管理職になって、部下にもこの仕事の仕方を強いるのですか」という言葉をきっかけに、行動が変わった人もいました。
②80対20の法則…仕事の生産性を5倍にする工夫
仕事の生産性を劇的に(なんと5倍くらいに)向上させる手法を紹介します。
ある仕事の80%を達成するのにかかった時間は、最終的にかかった時間の20%に過ぎないと言う法則です。例えば、ある仕事に10時間かかった場合、仕事の80%を達成するのにかかった時間は、10時間の20%、つまり2時間だということです。
一つの仕事の成果を8割で良いと考えると、時間は2割まで削減できる。
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実際の場面をイメージしてみてください。
あなたが資料を作って上司にチェックをもらう場合です。残りの20%の仕事とはどのような内容でしょうか?
プレゼンテーション資料に装飾している時間がそれにあたります。資料の字の級数(大きさ)を変えたり、飾り(太字や下線)をつけたり、色をつけたり、アニメーションを付加したり、背景の色を変えたりといったことに80%の時間がかかっているのです。
しかし、上司が資料の中身に関して改訂や追加や、極端な場合全面没などと言うことも少なくありません。そうするとせっかく作った資料の加工に費やした時間は、全て無駄になってしまうのです。繰り返しになりますが、これがそれまでの時間の80%かかっているのです。
ここに仕事の生産性を向上させるヒントがあります。もしもあなたが仕事の成果を80%でよいと決めることができれば、残りの時間を別の仕事に活用できるのです。今まで10時間かかっていた仕事が2時間で終わるのです。10時間÷2時間=5なので、同程度の仕事を5つできる計算になるのです。
具体的には、どうすればよいのでしょうか?
先の例でいうと、上司に見せる段階は加工する前の下書き、できれば手書きやメモの状態にする。上司はその状態で判断する。これだけで、劇的に生産性が向上します。
③選択肢の無いことに悩まない…悩んでも仕方が無いことは悩まない
明治維新の立役者である坂本竜馬の逸話から学んだことです。竜馬は若い時に、なぜか「天から大きな石が降ってくるかもしれない」と思い、毎日それに悩んでいたそうです。ところがある日、「落ちてくるかどうかも分からない石に怯えて過ごすのはバカだ」と悩むことを止めたそうです。
私たちの日常の仕事でもこの「天から大きな石が降ってくるかもしれない」と悩むことに費やしている時間が少なくありません。簡単な話、これを止めるだけで生産性は向上するのです。
悩むタイミングを間違えると生産性が大きく下がる。
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具体的な話をしましょう。あなたがある仕事をする時に、選択肢A案、B案、C案が3通りあるとします。A案は効果は見込めるのですが、予算と納期が今回の条件に合いません。またB案も納期の条件が合わないのです。予算や納期に関して折衝したのですが、ここは変更できません。予算と納期と品質が仕事に関しての必須条件ですから、A、B案は選択できません。つまりあなたの選択肢はC案しかないのです。
ところが、ここまで考えた後で、あなたは悩みだすのです。不安になるのです。何を悩むのでしょう。悩むポイントは2つです。
- 他に良い案は無いのか?
- 本当にC案で良いのか?
あなたがまじめであるほど、この2つに関して一生懸命悩みだすのです。しかしこの悩みは、そもそもA案~C案の3つ選択肢を絞り込む前に、十分考えておく話なのです。つまり、悩むタイミングが間違っているのです。他に良い案が無いかという話は、この選択肢を決める段階ではなく、それ以前の選択肢を見つける際に悩む話なのです。
他に選択肢が無い中で、C案で良いのかと悩むのは「時間の無駄」なのです。つまり、これこそが生産性を低下させる行為なのです。
「選択肢がないことに悩まない」つまり、悩んでも仕方が無いことに悩まずに、行動を起こしてみる。これだけでも生産性は上がります。今回紹介した3つのTipsが、みなさんの生産性向上に役立てば幸いです。
中尾隆一郎: ㈱FIXER 執行役員副社長 大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、現職。㈱旅工房 社外取締役も兼任。