赤字2472億円、ジャパンディスプレイの“激痛”改革 —— なぜ経営再建しながら100日間で新商品を作ったか

JDI

2018年8月1日、ジャパンディスプレイは都内で新商品の発表会を開いた。

出典:ジャパンディスプレイ

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)が、社内に眠っている高度な技術をBtoC向けの商品開発に生かす、新チームを発足させた。

チームは2018年4月に設立。約100日間で異分野だったBtoC商品のプロトタイプを完成させ、8月1日に5種類のプロダクトを大々的に発表した。

経営再建中の企業で、どのようにスピード感を持って、プロジェクトを進めたのか。

ジャパンディスプレイ

2018年8月1日に発表された、ヘッドアップディスプレイを搭載したヘルメット。

新チーム「マーケティング・イ ノベーション&コミュニケーション戦略統括部」(MI&C)は、社内公募で集まった各部門の“エース級”30人で構成される。20〜50代のエンジニア、営業、アシスタント、調達部門、回路設計など、職種はバラバラだ。

経営再建中の同社を建て直そうと、2017年10月にCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)に抜擢された伊藤嘉明氏が発足させた伊藤氏は、三洋電機や日本コカ・コーラで事業再建などを手がけてきた「プロ経営者」だ。

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MI&Cは2018年4月に発足し、2018年8月1日に5つの新商品のプロトタイプをお披露目した。新商品の一つ、スマートスピーカーにディスプレイを搭載した「ライトフィールド」は、裸眼で3D映像が見られる。2019年度内の発売を予定する。

このほか、ドライバーの視野に速度やGPSの情報を映し出すヘッドアップディスプレイを内蔵したヘルメットや、鏡にカメラを内蔵し、後ろ姿が確認できる「遅れ鏡」などが登場。いずれも、社内に眠っていた技術を応用した。

「自分の部下が抜けたら……」

ジャパンディスプレイ

「好きなアイドルを自分だけのものにしたい」。そんな願望を叶えるため、社内技術が応用された「ライトフィールド」。

出典:ジャパンディスプレイ

ジャパンディスプレイが、公募制でチームをつくったのは、今回が初めて。

公募制にした一つの理由は“派閥”の解消だった。同社は、ソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレイ事業の統合会社。しかし、「統合したけれども、融合が生まれていない。派閥はないと言うが、全然融合できていない」(伊藤氏)という課題を感じていた。

2017年12月中旬に2週間の公募期間を設け、70人の応募があった。書類選考と面接で30人まで絞った。それぞれが部署のキーマンだった。

管理職にとっては、「この人材(を異動するの)だけは勘弁してくれ」というのが本音。「管理職として心配するのは自然なこと。ただ、キーマンが公募に手を挙げても、上司にそれを止める権利はないんです。公募とは、そういうもの。キーマンなしで、組織が動くしかない。変われない組織はリスク」(伊藤氏)。最後は会社への危機感を共有し、管理職も理解を示した。

「48時間で人は変わる」

ジャパンディスプレイ

鏡にカメラを内蔵し、後ろ姿を確認できる「遅れ鏡」。

出典:ジャパンディスプレイ

“少数精鋭”で選ばれたMI&Cは、4月の発足に向け、1月に事前合宿を1泊2日で行った。新規事業創出に心を躍らせる社員もいたが、伊藤氏は次のように伝えた。

あなたたちは、改革メンバーです。あなたたちが変わらない限り、会社は変わらない。先遣隊は大変だ。大変じゃないと大きくは変わらない」。会場の雰囲気が一変、緊張に包まれた。

合宿2日目、メンバーが各5分の持ち時間で新商品の企画やコンセプトをプレゼン。発表の後に役員がフィードバックをするが、評価が悪いとコメントはなし。5分をオーバーしたら、打ち切る。その場で慌てて資料を修正する社員もいれば、チームを脱落していく社員もいた。

「正直、ビビりました。ここまで厳しいアウトプットを求められているとは。ぬるま湯に熱湯を注がれるような感じでした」(元設計職のMI&Cのメンバー)。

コメントが付かなかった参加者の中には、終了後に個別に意見を聞きにくる人も出てきた。「たった、48時間で人は変わっていきます」(伊藤氏)。

プレゼンをライブ配信、社内に浸透

ジャパンディスプレイ

プレゼンの様子を配信することで、社内から協力者も出てきた。

4月以降は30人のメンバー全員が、毎週のように新商品案をプレゼン。伊藤氏らが出席し、ブラッシュアップを繰り返した。すると、「厳しい意見がほしいから、一番最初に発表をしたい」という人や、ダメ出しを受けた後でも「『これもあります』と、2、3個も案を出す」参加者も出てきた。

5月には社内の全拠点に、プレゼンの様子をライブで発信。「1万数千人が見る。視聴者からコメントをもらったり、『いいね』をもらったり。社内から私もチームに参加したい、という人が出てくることを期待した」(伊藤氏)。

8月には、自社内でオウンドメディアを立ち上げ、プレゼンのアーカイブを配信。各拠点のフロアにディスプレイを設け、映像を繰り返し流し、社内に改革のカルチャーを浸透させている。

伊藤氏の期待通り、“視聴者”から反応が来た。例えば、MI&Cの堀洋平さん(38)は、次のように話す。

「前の部署を抜ける時、批判的な声や励ましの声、いろいろありました。ですが、ピッチを配信で見た人から、徐々に個別にコメントが来るようになりました。『話を聞きたい』『もっとこうしたら』と協力者が出てきました

「今週中」は許されない

伊藤氏が当初、「8月に発表会をやる」とMI&Cのメンバーに伝えたら、「100%無理」と周囲から驚きの声が挙がったという。しかし、「できるできないじゃない、やるかやらないか」、伊藤氏はメンバーに繰り返し伝え、意識改革を促した。次回の発表会は、すでに12月に予定をしている。

MI&Cの山本尚弘さん(36)は、伊藤氏とのやりとりを次のように思い出す。

いつまでにやりますか」、伊藤氏は常々、プレゼンを聞いては時期を明確化させてきた。「『今週中』と答えると、『今週のいつ』と聞かれ、『金曜』と言うと、『金曜の何時?』と聞かれ、『午前中』と言うと、『金曜の午前10時までに』とぬるい回答が許されない。それだけスピードが重視される」

BtoC参入の本当の意図

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日本コカ・コーラ、三洋電機などで事業の再生をしてきた、伊藤嘉明CMO。

ジャパンディスプレイは、2012年に設立して以降、4年連続で赤字。2018年3月期決済は過去最悪の水準だった。売上高の8割を占める、スマホ向けのディスプレイが振るわなかったからだ。

顧客の受注に左右されるBtoB事業。BtoC事業は、顧客の受注に依存しないが、日本企業は相次いで、BtoC事業から撤退している。

もっとも難しいBtoC分野に、ど素人の赤字集団がまだ“赤字産業”に参入するのか」。伊藤氏は、世間やマスコミからの批判的な反応を予想する。

しかし、「BtoC事業の本当の狙いは、BtoBの既存事業へのフィードバック」と明かす。これまで取引のなかった顧客の視点を知ることで、「(スマホのディスプレイなど)レッドオーシャンの既存事業で、一つ上を抜ける商品を提案できる。BtoC事業は、BtoBの基幹産業を強化するプロジェクトになる」と期待する。

実際に、8月1日の発表会以降、これまで取引のなかった業界から「興味がある」などと問い合わせがきているという。

MI&Cの最年少のメンバーで鳥取工場からメンバーに加入した長尾康一さん(26)は、次のように話す。

「今まで液晶ディスプレイに関するお客様としか話をしてこなかったが、一気に世界が広がった。ベンチャー企業とも会わせてもらい、これまでは『こういう課題があるからできない』と話していたものが、『どうクリアするか』というマインドセットに変わった」

これまでは顧客の要望に合わせた開発をしてきたため、「この技術を使って何かをしよう、そんな考えは持ってこなかった。ビジネスマン、技術者として、意識が足りなかった」(長尾さん)と省みて、あらためて「MI&Cのメンバーは100日で変わった」と感じている。

ジャパンディスプレイは今後、学生も巻き込んだアイデアソンやハッカソンを主催し、外部も巻き込んで知恵を集めていく考えだ。

(文、撮影・木許はるみ)

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