人工衛星がとらえた猛暑列島、海面温度の上昇も見えた —— 観測衛星「しきさい」でわかること

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2018年8月1日の10:40頃に観測された地表面温度。図の白色の領域は雲域を示している。

JAXA

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の気候変動観測衛星「しきさい(GCOM-C)」が8月1日にとらえた、日本列島の酷暑の観測画像が話題になっている。

公開されたしきさいによる観測画像は、8月1日の午前10時40分ごろに行われ、地表1.5メートルと人の顔のあたりの温度を赤外線をとらえるセンサーによって測ったものだ。まだ午前中だったにも関わらず、埼玉県熊谷市、京都府京都市などでは50度を超えた場所もあるという。

東京周辺、名古屋周辺、京都大阪周辺と大都市圏の観測データが公開され、前橋や熊谷、名古屋城の周囲、関西国際空港などが特に高温になっていることがうかがえる。

猛暑列島

左の東京周辺の日中地表面温度と植生分布。 前橋や熊谷で非常に高温なことがわかる。一方、皇居や代々木公園では周囲に比べ少し温度が低い。中央の関西では、京都や大阪南部、関西国際空港で非常に温度が高くなっている。

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「しきさい」の持つセンサーは植物が生えている地域を識別でき、観測画像の緑の濃さ(“植生指数”の高さ)は植物が多く存在することを表す。地表温度の分布と植生指数の画像を比較すると、東京では皇居や代々木公園、名古屋城といったピンポイントの地域で周囲よりも少し温度が低いことが分かる。

海水温の上昇もとらえはじめた「しきさい」

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8月1日夜、日本付近の海面の温度観測画像。

同じ8月1日の夜、しきさいは日本周辺の海面の温度が例年よりも高くなっている様子をとらえた。JAXA地球観測研究センターの村上浩・研究領域主幹によると、一般的に海の表面は日中温まって、夜間に冷めるという温度の変化を繰り返すが、連日の猛暑により温められ続けた海面が、夜間でも冷めにくくなっていることがうかがえるという。

観測を始めて4カ月ほどのしきさいだが、すでに海水温の変化をとらえつつある。

日本近海の海水温は長期的に上昇しつつある。環境省の「日本の気候変動とその影響」報告書には、日本海側での海水温の上昇は、長期的に見ると「2030年代に日本海側全体の積雪量は減るにもかかわらず、山間部では豪雪の頻度が減らない」という趣旨の記述があり、豪雪予測が難しくなる可能性があるという。

また、海水温上昇によってスルメイカの生息域が現在よりも北へと移動するという予測もあり、海水温の変化が気候や漁業に与える影響を知るため、長期の衛星観測データの蓄積が期待されている。

気候変動観測衛星「しきさい」はどんな人工衛星?

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「しきさい」のイメージCG。

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この酷暑で脚光を浴び始めた「しきさい」。この人工衛星は、2017年12月に打ち上げられたJAXAの地球観測衛星だ。人の目に見える光の波長“可視光”に加え、観測対象の物体が放つ熱を測ることができる“熱赤外”、大気中のごく細かいチリ(エアロゾル)をとらえ、黄砂などを計測可能な“近紫外”の領域まで観測することができる。地球全体を2日間で観測し、観測データの解像度(空間分解能)は250メートルとなっている。

しきさいは2018年3月に初期の運用を開始し、今は衛星センサーのチューニングを行っている段階。2018年12月には本格的な観測データの提供を始める予定だ。

地表や海面の温度、植生、エアロゾルといったデータに加え、しきさいは植物プランクトンの濃度を測ることができる。このため、赤潮など漁業に影響する海の環境の変化を観測することができる。また、海水と河川水を色によって識別でき、西日本豪雨災害(平成30年7月豪雨)によって流木が流れ込み、荒れた海のモニタリングを行う役割が期待されている。

8月3日、JAXAはしきさいの観測データを、一般社団法人漁業情報サービスセンター(JAFIC)に提供すると発表した。JAFICは1970年代から衛星データを活用して漁業や水産研究を行っているといい、しきさいの本格データ提供開始に合わせ、漁場予測など漁業関係者からの要望に応える情報サイトを準備中だという。

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2018年4月19日「しきさい」が観測した表面水温画像にまき網漁場(赤い点)を重ね合わせた図。

一般社団法人漁業情報サービスセンター(JAFIC)作成

JAFICが試験的なデータ解析を行ったところ、犬吠埼の沖合で黒潮の暖水と鹿島沿岸の冷水がぶつかる領域に、マイワシのまき網漁場が現れたことが分かった。斎藤克弥・漁海況部長によると、2017年からスルメイカの記録的不漁が続くのと対象的に、マイワシは好漁だという。

こうした漁獲高の変化は、海洋環境の変化によって魚種ごとの漁獲高が大きく変化する「レジームシフト(魚種交替)」現象に関連するのではないかとも言われ、衛星データを活用した研究で解明が進むと期待されている。(文・秋山文野、衛星画像・JAXA提供)

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