SBI決算から見えた“旧態依然”金融業界の終わり——「エクスポネンシャル企業」が破壊するもの

日経新聞記事

2018年8月1日付の日経新聞記事「証券、柱の個人部門失速 動かぬ相場、投信変調、低コスト」。投資信託などの販売手数料が1年で2割以上減ったとの指摘も。

日本経済新聞紙面より編集部がキャプチャ

日本経済新聞の金融経済面(2018年8月1日付)に、これ以上ないくらい大きく、こんな見出しが載りました。「証券、柱の個人部門失速 動かぬ相場、投信変調、低コスト」。記事の一部を抜粋しておきます。

「主な証券会社の2018年4〜6月期決算では、株式相場の膠着で個別株の売買が細ったうえに、各社が力を入れてきた投資信託の販売でも収入源が目立った。債券取引部門などの苦戦をリテールで補ってきた会社も多く、その変調は経営の不安材料となる」

確かに、大手証券5社のうち、野村ホールディングス、大和証券、三菱UFJ証券ホールディングスの3社が減益となっています。投資信託などの販売手数料が減少傾向にあることから、通年の収益も押し下げられる可能性も出てきました。

そんな証券苦境の中で、圧倒的な業績を叩き出しているのが、北尾吉孝社長率いるSBIホールディングスです。傘下のSBI証券が7月31日に発表した2018年4〜6月期決算は、純営業収益が289億800万円(前年同期比23.9%増)、純利益は99億2600万円(前年同期比30.5%増)と、失速どころか大きな飛躍を果たしました。

また、口座数は2012年以降、年平均10.3%というハイペースで増え続け、最大手の野村證券に次ぐ業界第2位。3位の大和証券、4位のSMBC日興証券との間にはすでに大きな差が開いており、北尾社長は「日本最大の口座数となるのはもはや時間の問題である」と自信を見せています。

政府が「貯蓄から資産形成へ」を促進する起爆剤として位置づけているiDeCo(イデコ)やNISA(ニーサ)でも、同業他社が伸び悩んでいる中で販売を拡大させています。iDeCoの口座数は21万超と、2018年5月末で1年前の約1.8倍。NISAでは口座数が首位の野村證券に迫る勢いです。

「エクスポネンシャル」とは何か

ピーター・H・ディアマンディス

「エクスポネンシャル起業家」の出現を指摘した『BOLD』の著者で、Xプライズ財団CEOのピーター・H・ディアマンディス。

REUTERS/Mike Blake

なぜSBIだけがこうした好業績を実現できているのでしょう。筆者はその理由を「グローバル」「ローカル」「エクスポネンシャル」という三つの要素から解き明かすことができると考えています。

いずれの要素を省くこともできないのですが、本稿ですべてを解説したのでは、多忙な皆さんの仕事の妨げになりかねません。そこで今回は、SBIという企業グループの特質をより端的に示し、なおかつ今後のビジネスを予測する上で必須と言える「エクスポネンシャル」にスポットを当てたいと思います。

おそらく「エクスポネンシャル」という言葉を知らない方がほとんどだと思います。

日本語では「指数関数的」と訳されます。対義語とも言える「リニア」が「線形関数的」と訳され、一定期間ごとに1,2,3,4と増えていくことを指すのに対し、エクスポネンシャルは1,2,4,8と倍増していくことを指す言葉。アメリカのテクノロジー業界においては最重要概念の一つにもなっています。

月面無人探査レースの主催などで知られるXプライズ財団のCEO、ピーター・H・ディアマンディスは著書『BOLD(ボールド)突き抜ける力』の中で、こう書いています。

「たとえば私がサンタモニカの自宅の居間からリニアに30歩進むと(1歩あたり1メートル進むとしよう)、30メートル先にたどりつく。家の前の道を渡ったあたりだろう。一方、同じ地点から出発し、エクスポネンシャルに30回歩を進めると、10億メートル先に行きつく。地球を26周する計算だ」

デジタルカメラの歴史から学べること

イーストマン・コダック

イーストマン・コダック社は1975年に世界初のデジタルカメラを開発しながら、その「エクスポネンシャル」な技術の持つ可能性を無視し、2012年に連邦倒産法の適用を受けて会社再建の道を歩むこととなった(写真は2014年の再上場時のもの)。

REUTERS/Lucas Jackson

要するに、エクスポネンシャルな増加や成長は、爆発的で飛躍的だということです。ディアマンディスはこれを技術進歩による連鎖反応に当てはめ、「六つのD」と名付けました。すなわち、「デジタル化(Digitalization)→潜行(Deception)→破壊(Disruption)→非収益化(Demonetization)→非物質化(Dematerialization)→大衆化(Democratization)」という流れです。

ディアマンディスは、エクスポネンシャルな成長の例としてデジタルカメラを挙げています。

フィルムカメラが「デジタル化」した時、いきなり市場を席巻できたわけではありません。世界初のデジタルカメラが誕生した当時の画素数は0.01メガピクセルで、そこから倍々で増えても0.02,0.04,0.08,0.16,0.32,0.64…と、しばらくはあまり変わり映えしないのです。このように変化や成長が目に見えない状態が「潜行」というわけです。

ところが、先ほどの「家から歩く」例のように、整数の壁を突破すると、途端に爆発的な成長が始まり、あっという間に億の壁を超えていきます。そして、そこまで画素数を増やしたデジタルカメラは、フィルムカメラ市場を「破壊」し「非収益化」し、間もなくデジタルカメラはスマートフォンに内蔵されて「非物質化」し、最後には誰もがそれを所有する「大衆化」の時代がやってくるのです。

SBIグループの成長は「エクスポネンシャル」

SBI証券のサービス画面

SBI証券のサービス画面。他社サイトと比較しても圧倒的に豊富な情報量は、同社の「顧客中心主義」を体現している。

SBI証券HP

SBIホールディングスはまさにこの爆発的、飛躍的成長の道を歩む「エクスポネンシャル企業」だと、私は考えています。

同社は1999年、金融事業をネットインフラに乗せるという挑戦を始めました。バブル崩壊に伴う不況の真っ只中で、多くの金融機関は高金利環境のために貸出先がなくなった上、巨額の不良債権の処理に苦しんでいた時期のことです。

「デジタル化」を真っ先に果たし、証券、銀行、保険などさまざまな金融会社を傘下に収めてネットインフラに組み込み、「潜行」したまま水面下で成長を続けてきたSBIは、ついに金融市場の他のプレーヤーたちを圧倒する「破壊」のフェーズを迎えようとしています

他社が「失速」する中、SBI証券が圧倒的な好業績をあげていることは冒頭に書いた通り。さらに、住信SBIネット銀行の2018年4〜6月期決算における経常利益は前年比33.9%増の39億9900万円、投資利益は同36.2%増の11億7700万円。預金残高は4兆6500億円でネット専業銀行の中でダントツの首位を確保しました。主力商品である住宅ローン取扱額の増大も著しく、残高は3兆3145億円と、こちらもネット専業銀行の中で圧倒的な数字を残しています。

2008年に開業したSBI損保も、保有契約件数がほぼ100万件に到達。2015年に子会社化したSBI生命は、住宅ローンを組む際に加入を求められる団信(団体信用生命保険)が大きく伸び、申込件数は1年間でおよそ4倍に膨らみました。

他にも、少額短期保険を扱う子会社3社がいずれも保有契約件数を大きく増やすなど、SBIグループの既存分野における金融事業に死角は見当たりません。

「金融」を超えて「生活」に寄与する企業へ

SBIホールディングスの北尾吉孝社長

SBIホールディングスを率いる北尾吉孝社長。1995年に孫正義氏の招聘で野村證券からソフトバンク常務に就任。1999年に現在のSBIホールディングスを設立した(写真はBusiness Insider Japanによるインタビュー時)。

撮影・小田垣吉則

同社は以前から「金融を核に金融を超える」をスローガンに掲げていますが、ここまで紹介してきた証券、銀行、保険に加えて、人工知能(AI)やブロックチェーンなど新たなテクノロジーを取り入れ、SBIグループ241社が多角重層的に提供するサービスは、まさに「金融」という狭い分野を超えて、人間の「健康」「ライフスタイル」に寄与するものと言えないでしょうか。

そういう意味で、SBIグループは一時期アメリカでブームとなった「コングロマリット」(相互に関連のない多様な業種の企業を取り込み多角的な経営を行う巨大企業)とはまったく異なるのです。北尾社長はこう語っています。

「どの業界でも、インターネットが登場する前は、個別企業が価値を競い合うのが主でしたが、インターネットが登場してからは、複数の企業のシナジーから生まれる『ネットワークの価値』で競い合うようになる。そう予測していました。だから、企業生態系(あらゆる金融サービスを網羅するグループ)を意識的につくりあげていったのです」(SUPER CEO、2018年6月28日付)

このため、銀行、証券、保険など生態系内のさまざまなサービスが、面倒な資金の移動なしにシームレスに利用でき、グループシナジーを得られるわけです。

貸し出したお金の利ざやで稼ぐ、金融商品の手厚い販売手数料で利幅を増やす、そうした単純で旧態依然としたやり方に依存したまま生き残ろうという金融事業は「破壊」され、間もなく「非収益化」の波にさらされて、デジタルシフトに適応できないプレイヤーにとっては一切対価を得られないサービスになるでしょう。

コインチェック記者会見

仮想通貨不正流出事件の後、金融庁から業務改善命令を受けたコインチェックはマネックスグループに買収された。規制強化で停滞中と見られる仮想通貨市場だが、水面下では「潜行」企業の成長が続いている。マネックスグループの松本大社長(左)とコインチェックの和田晃一良社長。

REUTERS/Toru Hanai

SBIは2016年に「ブロックチェーン推進室」を設立し、フィンテックへの挑戦をいち早く開始SBIバーチャル・カレンシーズの設立をはじめ、ここ数年で仮想通貨関連のサービスを一挙に拡大しています。今回の決算発表会では、北尾社長から「その多くが2、3年以内に収益化に向かうだろう」と強気の発言がありましたが、私は現実にそうなると見ています。

同社は今まさにフィンテックを成長させる「潜行」期におり、それが「破壊」期に移行する時、金融業界に何が起こるのか注視したいと思います。次回記事では、このSBIのフィンテック事業の本質を「グローバル」「ローカル」という二つの視点から明らかにしたいと思います。


田中道昭(たなか・みちあき):立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスMBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。主な著書に『アマゾンが描く2022 年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『「ミッション」は武器になる あなたの働き方を変える5つのレッスン』がある。NHK WORLD経済番組『Biz Stream』のコメンテーターやNewsPicksのプロピッカー等も務める。

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