ロシア、NATOの弱点「スヴァウキ・ギャップ」近くに軍事拠点を展開

プーチン大統領とトランプ大統領

プーチン大統領とトランプ大統領。

AP

  • ロシアは近年、軍の拠点とその能力の拡大を進めている。
  • 特にここ数カ月は、バルト海に面した飛び地、カリーニングラード州において軍事拠点の新設および増設の動きを見せている。

ロシアはバルト海に面した飛び地、カリーニングラード州での動きを活発化させている。

地球画像観測事業を展開するプラネット・ラボ(Planet Labs)が収集した衛星画像から、カリーニングラード州の町バルチースにある複数の掩体壕(兵士や物資を攻撃から守るための施設。通常、かまぼこ型のコンクリート製で上を土で覆う)で何らかの動きがあることが判明したと軍事情報誌ディフェンス・ワン(Defense One)は伝えた。バルチースクにはバルト海に面する不凍港と2つの空軍基地がある。

2018年3月から6月にかけて「目に見える変化があった。建造物の要塞化を進めているようだ。建造物には爆発物を保管する掩体壕の特徴が見受けられる。また構造を強化するために盛り土が行われている」とコンサルティング会社3ジンバルズ(3Gimbals)の上級地理空間アナリスト、マット・ホール(Matt Hall)氏はディフェンス・ワンに語った。

ロシアの軍事演習の様子

ロシア・カリーニングラード州のフミリエフカ演習場で行われた大規模軍事演習「Zapad 2013」。2013年9月26日。

Thomson Reuters

ホール氏は衛星画像に映っている他の建造物も、同じ時期に強化された形跡があると語った。この地域は森林に覆われているため、ロシア軍の活動の詳細は分からない部分があるものの、木々の間にはさらに多くの建造物があるようだ。そして要塞化のレベルはそれぞれ違っている。

「一部の建造物に変化が認められる。天井を覆う構造物や防水シートが撤去され、保管されている物資が見えているところもある」とホール氏。

「加えて、新しい物資、あるいは再度補給された物資もあるようだ。輸送コンテナらしきものもある」

ホール氏はまた、衛星写真から線路が敷設されたことが分かるとディフェンス・ワンに語った

カリーニングラード州はポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地、旧ソ連時代からの重要拠点だ。近年のロシア軍の増強の中で、カリーニングラード州での軍の活動は活発化している。さらに同州には、ロシア海軍のバルチック艦隊が配備されている。

カリーニングラード州のロシア軍は、NATO(北大西洋条約機構)との間の摩擦の原因となってきた。

2016年10月、リトアニアのダリア・グリボウスカイテ(Dalia Grybauskaite)大統領は、カリーニングラード州に核弾頭が搭載可能なイスカンデル・ミサイルが配備されたことに対して、「軍事力を誇示する攻撃的な行為であり、バルト3国のみならず、ヨーロッパ各国に対する侵略行為」と非難した。

イスカンデル・ミサイル

Russian Defense Ministry

イスカンデル・ミサイルの最大射程距離は約500キロ、過去にも一時的にカリーニングラード州に配備されたことがある。だが2018年2月、グリボウスカイテ大統領はロシアはミサイルの数を増やし、「恒久的に」カリーニングラード州に配備したと語った。

ロシア議会防衛委員会の委員長はイスカンデル・ミサイルの配備を認め、東ヨーロッパにおけるNATOの勢力拡大への対抗策と語った。ロシアの広報官はまた、ロシアには自国の領土に軍を配備する「主権国家としての権利」があると述べた。

さらに6月に発表されたアメリカ科学者連盟(FAS)の報告書は、カリーニングラード州の他の地域にある核兵器保管施設とみられる場所でも、改築の動きがあることを明らかにした。

衛星画像から「クリコヴォ(Kulikovo)付近にある3つの掩体壕のうちの1つが2106年に掘り起こされたことが分かった。改築のためと思われ、2018年には再び覆われたことから、まもなく稼働状態に復帰するとみられる」と報告書は記した。

施設の詳細を決定づける衛星画像は少ないものの、報告書によると「施設の特徴から、ロシア空軍もしくは海軍の共同利用施設と考えられる。または、各軍の共同施設として、この地域の空軍、海軍、陸軍、防空部隊、沿岸防衛部隊のために核弾頭を保管している可能性もある」

対立は“驚くべきスピードでエスカレートする”

ポーランドとリトアニアに挟まれたカリーニングラード州

約100キロにわたってポーランドとリトアニアが国境を接する「スヴァウキ・ギャップ」。カリーニングラード州とベラルーシを隔てるように位置している。

Google Maps

カリーニングラード州に配備されたミサイルは、西ヨーロッパ各国への脅威として懸念が高まっている。さらに、カリーニングラード州はNATOのウィークポイントとされるスヴァウキ・ギャップ(Suwalki Gap)の近くに、ロシアが軍を配備することを可能にしていると欧州戦略分析センター(CEPA)が7月に公開した報告書は指摘した。報告書の著者の1人は、かつてアメリカ欧州軍の司令官だったベン・ホッジス(Ben Hodges)元中将。

スヴァウキ・ギャップは、カリーニングラード州とベラルーシの間に広がる地域。NATO加盟国であるバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)と他のNATO加盟国を結ぶ唯一の陸上経路となっている。

「スヴァスキ・ギャップには、NATOの戦略と配置における多くのウィークポイントがある」とCEPAの報告書は記した。

「仮にロシアがスヴァスキ地域の掌握を試みた場合、あるいは当地域でのNATOの人員や装備の自由な通行を脅かしただけでも、バルト3国は他のNATO加盟国から切り離されてしまい」、バルト3国への増援は妨げられてしまう。

NATO軍は2018年、スヴァスキ地域における機動力および相互連携能力に注力した軍事演習を実施している。

この地域をめぐって対立が起きれば「驚くべきスピードでエスカレートする恐れがある」と報告書は指摘した。だがホッジス元中将は、冷戦時代のような地上侵攻作戦にロシアが踏み切る可能性は低いと考えている。

「かつてのように、ロシアがヨーロッパに侵攻する意図を持っているとは思えない。そのような能力も持っていない」と元中将はディフェンス・ワンに語った

ロシアはこの地域での危機を利用し、NATOが脅威に対して適切に、あるいはまったく対応できないことを示し、NATOを弱体化しようとしているのかもしれない。

「仮にNATOが加盟国を守れないことを示すために、ロシアが限定的な攻撃を行えば、それは大きな問題となる」

ロシアはNATOと接する国境に沿って、かなりの戦力を配置していると考えられる。また部隊を急速に展開する能力も持っているため、NATO軍にとっては、軍事演習なのか、実際の軍事作戦なのかを見分けることは難しい

2013年と2017年に行われたロシア軍の軍事演習Zapadは、スヴァスキ・ギャップに侵攻し、バルト3国を他の西ヨーロッパ各国から切り離すというシナリオで行われた。

またバルト3国の上空空域ではNATOとロシアの航空機が異常接近するケースが増えている。

スヴァスキに向かう米軍の車列

スヴァスキに向かう米軍の車列。ポーランドの町、アウグストゥフ。

Thomson Reuters

2014年のロシアのウクライナ侵攻以降、バルト3国は同様の可能性を懸念している。

2017年、リトアニアはロシアがプロパガンダとデマを用いる「キネティック・オペレーション」を準備していることを危惧していると語った。ロシアのクリミア併合の前にも同様の作戦が行われた。

リトアニアはロシアから、カリーニングラード州への通行路を永続的にロシアの管理下とするように圧力を受けている。そのような状況のもと、リトアニアはアメリカ軍に永続的な常駐を要請し、カリーニングラード州との国境にフェンスの建設を始めた

CEPAの報告書は、スヴァスキ地域に対する行動を正当化するためにロシアが危機を誘発する複数のシナリオを提示した。シナリオではデマや政治的な手段を含む複合的な作戦を展開、非難をそらし、外部から見たときに状況を分かりにくくしている。

「もし(ロシア軍が)何かを企てるとしたら、非対称的なものとなるだろう。NATO側が察知する前に目標を達成するために」とホッジス元中将はディフェンス・ワンに語った。

[原文:Russia appears to be building up its military bases near a weak point in the NATO alliance

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:増田隆幸)

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