フリーマーケットアプリのメルカリが2018年6月に株式を上場して以来初めて通期決算を発表した。2018年6月期(2017年7月~2018年6月)の連結売り上げは、前年度から62%増え357億6500万円。営業損失額は27億7500万円から44億2200万円に膨らんだ。
REUTERS/Issei Kato
「Go Bold(大胆にやろう)」をモットーの一つに、メルカリは創業から3年目(2015年6月期)に40億円を超える売上高を計上。その規模は8倍以上に拡大している。メルカリが目指す「世界的なマーケットプレイスの創造」が実現すれば、収益は現在の10倍、100倍にも膨れ上がることが期待され、市場の期待値はメルカリの時価総額(約6500億円)に反映される。
メルカリの山田進太郎会長兼CEOは8月9日、東京・六本木の同社オフィスで会見を開き、「現在は、成長を目指しているフェーズで、いつまでに黒字化できるかは明言できない。上場時から高い株価になっている。(期待に)答えていく」と話した。また、「人材では特に人工知能(AI)において40、50人のエンジニアをインドなどのアジアやイギリスで採用した」と述べ、同社が「海外」と「人材」、「テクノロジー」に対する投資を強化していると強調した。
メルカリの「Factbook」から改めて創業5年のプラットフォーマーの実力とポテンシャルを見ていこう。
mercari FACTBOOKより
フリマアプリの市場規模
7.6兆円 —— メルカリを語るときによく耳にするこの金額は、経済産業省が推定した日本で1年間に生み出される不用品の価値の総額である。経産省が「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る 基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」としてまとめた報告書によると、日本国内のネットオークション全体の市場規模は推定1兆1200億円(2017年)。そして、メルカリが位置するオンラインCtoC市場におけるフリマアプリの市場規模は4835億円で、前年から約6割増加している。
巨大で多様性に富む人口基盤を持つアメリカは、メルカリがその壮大なミッションを実現するための重要市場だ。そのアメリカ市場におけるフリマアプリの規模は明らかではないが、報告書はアメリカeBayのネットオークションにおける流通総額が2017年に884億ドル(約9兆3700億円)と述べている。eBayだけでも日本のネットオークションの8倍以上の規模があり、アメリカ市場がいかに巨大であるかがわかる。
経済産業省より
メルカリのキーデータ
1億——メルカリはアプリ「メルカリ」の累計ダウンロード数が日本とアメリカあわせて1億を突破したと伝えている。2018年3月現在、国内の7100万ダウンロードとアメリカ市場の3700万を合算すると1億800万となる。累計の数字は、2年前(2016年3月)の3700万ダウンロードと比較するとその増加ペースの速さがよくわかる。
1000億円——ダウンロード数の増加に合わせて、メルカリを利用した流通総額は1四半期(2018年1月〜3月)で、1000億円までに拡大している。そのうち、国内での流通額は930億円でそのほとんどを占める。同じく2年前(2016年1月〜3月期)の410億円と比べると倍以上になった。
mercari FACTBOOKより
一方、アメリカでの流通額の増加ペースは国内流通額に比べるとはるかに遅く、メルカリは今後、人材と資金を最大限に使い、アメリカ戦略をさらに強化していく。
2017年6月、メルカリはFacebookの経営メンバーだったジョン・ラーゲリン(John Lagerling)氏をチーフビジネスオフィサー(Chief Business Officer)として招き入れた。ラーゲリン氏は現在、Mercari, Inc.(アメリカ)のCEOとして、アメリカ事業を牽引している。
メルペイのポテンシャル
金融としてのメルカリ——創業からわずか5年ではあるが、メルカリは連結ベースで約1000人の従業員を抱える企業に育った。連結の従業員数は、2017年6月期が596人で、1年で倍増したことになる。
メルカリグループは、アプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリをコアに、決済プラットフォームを開発するメルペイ、Mercari, Inc.(アメリカ)、Mercari Europe Ltd(イギリス)、Merpay Ltd(イギリス)、ソウゾウの5社の連結子会社で構成されている。
メルカリCEOの山田進太郎氏(2018年1月に撮影)。
撮影:今村拓馬
メルカリを利用するユーザーはそれぞれがIDを持ち、メルカリが築くエコシステムでサービスを受けることができる。メルカリは、そのIDを通じてユーザーの取引履歴や評価情報などのデータを活用して、メルペイが開発している決済プラットフォーム「メルペイ」の利用を可能にしていくという。
実店舗でも使うことができるモバイル決済機能に加えて、将来的には総合的な「金融サービス」を始めることも視野に入れていると述べている。
この事業エリアでは、メッセージアプリのLINEがLINE Financial構想を掲げ、あらゆる金融サービスを始めようとしている。ヤフーとソフトバンクとの合弁会社PayPay(ペイペイ)も2018年秋に、バーコードやQRコードを利用したスマートフォン決済サービス「PayPay」を開始すると発表したばかりだ。
「メルペイの登場は決済市場に大きなインパクトを与えた」とする市場関係者の声も聞かれる。
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2018年8月9日、山田CEOは上場後初となる決算記者会見を東京・六本木のメルカリ本社で開いた。
撮影:木許はるみ
メルカリファンドとその投資シナジー
メルカリはメルカリファンド(mercari FUND)を組成し、すでに10以上のスタートアップ企業に投資をしている。資金の支援だけでなく、メルカリのノウハウやリソースを活用したサポートをしながら、出資先とのサービス連携を今後は検討していくとしている。
【メルカリファンドの主な投資先企業(mercari FACTBOOKより)】
- BASE—— eコマースプラットフォーム「BASE」の運営
- レンティオ——カメラ・家電のレンタルサービス「Rentio」の運営
- フラミンゴ——語学サービス「フラミンゴ」の運営
- ポケットマルシェ——農家や漁師がスマホを通して生産物を消費者に直販できるアプリを運営
- Baycare——訪問介護のマッチング「ベイケア」の運営
- キッチハイク——みんなでごはんを食べる地域コミュニティサイトの運営
- BrainCat——ソーシャル基金サービス「Gojo」の開発
- ジラフ——検品済みスマートフォンのフリマサイトなどの運営
- aMi——フォトグラファーデータベース、予約サービスの運営
- ecbo——店舗の遊休スペースを利用した荷物預かりプラットフォームの運営
- tsumug——コネクティッド・ロックの開発
(文・佐藤茂)
(編集部より:メルカリ・山田進太郎CEOのコメントをを加え、記事を2018年8月9日16:25に再度、更新しました)