公務員が兼業したら社会は変わる?本業にいい影響は出るのか?

企業の社員だけでなく、公務員にも副業・兼業を認める動きが本格化している。

行政、企業、NPOの有志でつくるSOZO日本プロジェクトが7月31日に開催したイベント(※第1部のリポートはこちら)では、公務員の働き方改革が社会に与えるインパクトについて議論が交わされた。

副業・兼業の拡大による人材の流動化は、社会を、個人をどう変えるのか?

第2部では、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香人事総務本部長がモデレーターを務めた。

左から、島田由香さん、伊藤禎則さん、小沼大地さん、松尾真奈さん。

左から、島田由香さん、小沼大地さん、伊藤禎則さん、松尾真奈さん。

撮影:今村拓馬

スピーカー・プロフィール

伊藤禎則:経済産業省 参事官 :1994年東京大学法学部卒業後、入省。米コロンビア大学ロースクール修士号、NY州弁護士資格取得。筑波大学客員教授、大臣秘書官などを経て、2015年末より経産省の人材政策の責任者として、政府「働き方改革実行計画」の策定にかかわる。副業・複業、フリーランス、テレワークなど「多様で柔軟な働き方」の環境整備に取り組む。人材投資、「経営リーダー人材育成指針」策定等も担当。

松尾真奈:霞ヶ関ばたけ代表/農林水産省 林野庁木材利用課:1989年生まれ。大学在学中、京都府・京丹後市にある野間地域にて「田舎で働き隊」として活動。そこで出会った人や風景に魅了され、2013年農林水産省に入省。現在は、林野庁木材利用課にて国産材の利用促進を担当。丹後の食材を都会で楽しむ「丹後バル」プロジェクトを立ち上げる他、食や農林水産業をテーマにした早朝勉強会「霞ヶ関ばたけ」の代表を務めるなど幅広い活動を行っている。

小沼大地:NPO法人クロスフィールズ 代表理事/NPO法人新公益連盟 理事:一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアで活動後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2011年5月、ビジネスパーソンが新興国で社会課題解決にあたる「留職」を展開するNPO法人クロスフィールズ創業。2016年にハーバード・ビジネス・レビュー「未来をつくるU-40経営者20人」に選出。国際協力NGOセンター(JANIC)の理事、約90のNPOのネットワークである新公益連盟の理事も務める。

島田由香さん(以下、島田):ここからは「公益兼業(公益的活動等を目的とした兼業)」について具体的にどんなことが展開できるのか、考えていきたいと思います。まずは伊藤さん、「公益兼業」が認められたことの意義について聞かせてください。

伊藤禎則さん(以下、伊藤):働き方改革というと、長時間労働の問題にずっと焦点が当たってきました。大事なことですが、働き方改革とはそれだけでなく、働く人の「選択肢」を広げることです。キャリアは誰に与えられるものでもなく、自分でつくるもの。そのために自分で学ばなくてはならないのです。学ぶにも副業から、リカレント教育などさまざまな方法がある。それらも働き方改革の中に位置づけてきました。

民間企業でいえば、「副業・兼業を認めてよいか」という議論はある意味で終わっています。政府として、副業・兼業を認める方向で企業の「モデル就業規則」を改訂したからです。もちろん実際に、企業や働く人が副業をやるかどうかはあくまでも選択肢です。ただ、副業を禁じることには説明責任が発生するようになりました。

公務員も「関係ない」とは言えません。公務員が営利企業で働くことについては議論もありますが、まずは公益性のある兼業なら推進していいのではないか。それが2018年6月、政府の方針に盛り込まれたということです。

マイクを握る伊藤さん。

公務員がキャリアを自分で切り開くことができるようになればハッピー、だと伊藤さん。

撮影:今村拓馬

島田:伊藤さんとしては、ハッピー?

伊藤:ゴールではありませんが、ハッピーの途上にあると思います(笑)。公務員がキャリアを自分で切り開くことができるようになればハッピーですね。

島田:私は省庁の研修の講師をさせてもらったことがあるのですが、皆さん志を持って仕事をされているのに「なんか輝いていないな」という印象も持ちました。この改革の流れはすごくよい影響を与えると思います。

松尾さんは、いつから「霞ヶ関ばたけ」の活動を?

松尾真奈さん(以下、松尾):私が入省したのは2013年で、今29歳です。2009年からスタートしていた「霞ヶ関ばたけ」の存在を知ったのは、少し経ってからでした。

入省当初は、業務に慣れるのに必死でした。1年目は、ランチをしに外へ出ることもできない状況。帰るのは夜中だったので「日の光を浴びていないな」という日々が続きました。

霞が関では一言一句をとても大切にするので、発言に気を遣います。上司の発言に反するような自分の考えは言いにくい雰囲気もありました。一時期は、働く意味を見失いかけることもあったのですが、そんな中で知人に誘われて参加したのが「霞ヶ関ばたけ」でした。立場に関係なく意見が言えたり、民間の方と意見交換できたりしたことが、本業のモチベーションにつながったと思います。

これまでの「当たり前」に疑問を持とう

島田:日の光も浴びられない、だなんて……。行政で働く人は社会をつくっていく人たちなのに、残念なことです。小沼さん、NPOとしては公務員に対してどういうニーズがありますか。

小沼大地さん(以下、小沼):NPOは現場を知っていますが、国の仕組みの変え方が分かりません。制度などの動かし方を知っている公務員と組めれば、社会の変化を加速できると思います。一方で、公務員の人たちには現場を知るための機会として、NPO活動を活かしてもらえたらと思います。法案を書く公務員の皆さんは、忙しくて現場を見ていないケースもあるからです。

プロボノやボランティアなどに加え、新しく道が開けてきたのが副業・兼業という関わり方 —— つまり、有償で業務外活動をやっていくというものです。出向という形でも、実は法的な問題はありません。多様なかかわり方があるので、ぜひ一歩を踏み出してほしい。

マイクを持ち笑顔を見せる島田さんと小沼さん。

公務員のNPOでの副業・兼業が進めば双方にメリットがあると語る小沼さん。

撮影:今村拓馬

島田:SDGsの広がりにも見られるように、公益性の高いビジネスをしている企業、事業部もあります。一緒にやっていく道もあるのでは。

伊藤:その通りだと思います。全てを行政が担える時代ではない。行政、企業、NPOのセクターを超えて、人材が行き来できるようにしなければならない。もちろん公務員が特殊な面は実際、あります。

私も新人のときには、上司に「君の仕事は、誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰ることだ。その間は何していても構わない」と言われたものです。それはもう通用しない。働き方改革の下で、今はチャンスです。少なくとも経産省では、急激に業務改革が進んでいる。空いた時間を自分の生き方にどう還元していくか。

島田:仕事なんていつだって、どこだって、できる。これまでの「当たり前」に疑問を持って、本当に大切なことに時間やエネルギーを使ってほしいですね。

「花粉の運び手」がイノベーションを起こす

質問者A:内閣人事局の者です。私も人材流動化が次のテーマだと考えます。実際にNPOで兼業している人数を調べたのですが、過去3年ほどで人事局に申請があったのは20件でした。有償です。「できない」と思い込んでいる人へ、後押しになる情報を届けていきたい。いい知恵はありますか。

小沼:NPOと兼業を希望する公務員をマッチングする窓口を設けてもらえたらうれしいです。国であれば、まさに内閣人事局になるのかもしれませんし、地方であれば県庁などに置かれる形でしょうか。

伊藤:公務員側で「ここまでだったらできる」という基準を明確化し、NPO側の需要とマッチングすれば、一緒に取り組めることが広がっていくと思う。

松尾:国家公務員でNPOを立ち上げている知り合いは何人かいます。同じ公務員の活動なら参加しやすいので、初めはそこからアプローチしていく方法もある。

日が差しこむ国会議事堂

公務員側で「ここまでだったらできる」という基準を明確化し、NPO側の需要とマッチングすれば、一緒に取り組めることが広がっていくのではないか。

Getty Images

島田:松尾さんはすでに、いろいろな方と交流されているんですよね。

松尾:霞が関で、業務外の活動をしている人はまだマイノリティー。マイノリティー同士でつながっている部分はありますね(笑)。他の人の活動状況も含め情報交換をしています。

質問者B:今回、SOZOプロジェクトが兼業に着目した理由を聞きたいです。兼業より、例えば出向などでまとまった時間を活動に振り向けられないと、せっかく参加しても充実した体験にならないのでは。

というのも、私はプロボノをしていた経験があるのですが、参加できるのが就業後や週末だけで、業務のほんの一部にしか関われませんでした。

小沼:大変重要な点です。プロボノは否定しませんが、確かに限界もある。NPO側としても、対価を支払って業務としてお願いしたほうが、安心して成果を出していただけるという思いがあります。そういう流れで、(有償の)兼業というメニューを増やしたいと考えたわけです。出向も制度的に不可能ではないので、兼業だけに注目しているわけではありません。

伊藤:兼業と出向の最大の違いは、「出向は最終的に人事当局が行き先を決める」ということです。そこは押さえておく必要がある。

一方で、副業・兼業だと上司の了解が得られればできる。さらに取り組みながら、「何をやりたいか」をじっくり考えられることです。新卒で就活をしたときは、時間もない中で「えいや!」と決めざるを得ない部分もあったと思いますから。

質問者C:今この時点で、副業・兼業を進めていく意味は何でしょうか。近い将来、副業が当たり前になったときに個人の働き方がどう変わるのか、展望を聞きたい。

マイクを持ち話す松尾さん。

松尾さんによると、行政、企業、NPOで立場は異なっても、社会課題を解決するという目的を共有しながら、組織にとらわれず働けることが理想的。

撮影:今村拓馬

松尾:私は、兼業をしたことで入省した原点を取り戻せている感覚があります。行政、企業、NPOで立場は異なっても、社会課題を解決するという目的を共有しながら、組織にとらわれず働けることが理想的かと思います。

伊藤:最近の仕事は、一つの企業や組織の中で完結しにくく、官庁ですら「プロジェクト単位」でチームとして取り組むことが増えてきました。これに伴い、副業・兼業は当たり前になっていくでしょう。

また、イノベーションを担う人材に求められることとして「花粉の運び手」という概念があります。花粉を外から持ち帰ってきて花を成長させるミツバチのように、業務外の活動で得た知見を所属組織に持ち帰り、イノベーションを起こしていく。これからの日本に必要なことです。

小沼:ソーシャルセクターで盛んにいわれている言葉があります。「コレクティブインパクト」です。一つの団体がいくら頑張っても、変えられることは限定的になる。そうではなく、複数の団体、セクターが同じビジョンを共有し、集合的に活動を仕掛けていこうということです。これを実践していくためにも、人材の行き来をスムーズにし、互いのビジョンを理解することの重要性が増していくと思います。

(構成・加藤藍子、撮影・今村拓馬)

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