職場の飲み会でも「とりあえず生」ではなく、1杯目から「ゆず蜂蜜サワー」を頼みたい、という人も多いのでは?
上司にはお酌、「1杯目はビール」、席の上座・下座を気にする……。そんな謎の“ビジネスマナー”が多い職場での飲み会を、わずらわしく思う新人世代は多い。
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外食市場に関する調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」が2017年に実施したアンケートでは、職場の飲み会に関して、全体としてはポジティブなイメージの比率はネガティブなものをやや上回る。ただし、年代別の結果を見ると、年代が若くなればなるほど職場飲み会に対するネガティブな印象が強くなる。
とくに20歳代、30歳代の女性は唯一、ネガティブがポジティブなイメージを上回った。「職場の飲み会」を新人世代にもポジティブな印象にできないか? そんなことを考える企業が出てきている。
「ホットペッパーグルメ外食総研」が実施したアンケート。女性の20歳代と30歳代では、ネガティブなイメージが優勢。
出典:リクルートライフスタイル
若手社員が関わった「チーム“ビール”ディング」
ヤッホーブルーイングでは、社内では互いにニックネームで呼び合うカルチャーがあるほど、雰囲気はフラットだという。
クラフトビールの製造・販売を行うヤッホーブルーイングは8月3日、飲み会を通じたチームづくりを実現させるプロジェクト「チーム“ビール”ディング by よなよなエール」を発表した。
この企画のチームメンバーとして活躍したのが、よなよなエールのプロモーションを手がける部署にいる渡部翔一さん(25)だ。
渡部さんは2017年に新卒で入社。ヤッホーブルーイングでは、飲み会で新人が店の予約をしたり、お酌をする文化がなかった。しかし、同級生から他社の「飲み会文化」を聞き、衝撃を受けたという。
よなよなエールの新しいプロモーション施策をチームで話し合っていた時、同じように考えている社員が多いことに気づいたことが、今回のプロジェクトにつながった。
発表したプロダクトは2つ。
「先輩風壱号」は、「俺の若い頃は……」「近頃の若者は……」など“先輩風”を感じる発言や感情をAIで解析し、風を吹かせることで“見える化”するマシンだ。20代から40代までのチームメンバーで、飲み会特有の「あるある」を出し合う中で生まれたアイデアだという。
実際のプロダクトはよなよなビアワークス赤坂店にあるので、試すことも可能だ(8月17日まで)。
「無礼講ースター」を試してみた。真ん中にあるカードには、さまざまな質問が書かれている。
もうひとつは、コースター型のトークゲーム「無礼講ースター(ぶれいこーすたー)」。「お金を使うならモノより思い出だ」「鼻毛が出ている人に指摘できてしまう」などの質問に対してイエスかノーで答え、その答えを予想して話し合う、というゲームを、専門家監修の下で独自開発した。
プロジェクトは反響を呼び、「無礼講ースター」は30個の限定セットが販売開始後1分で完売、「先輩風壱号」はYouTubeで公開後、1週間で140万再生を突破した。
「誰もがかつては後輩だった。上司が何度も同じ話をする、などは誰でもわかる『あるある』なので、幅広く受け入れられているのかな、と思います」(渡部さん)
飲み会の“嫌なこと”を全部やめてみた
ALAN BARでバーテンダーとしてお酒と軽食をふるまう、社長の花房弘也氏(左)と、執行役員の新藤裕介氏。
提供:アラン・プロダクツ
「上司にお酌」「閉鎖的な空間で上司の愚痴ばかり聞かされる」「しかも割り勘」といった、職場飲み会にありがちな「嫌なこと」。これを社内飲み会からなくしたら参加者は増えるかもしれない。
髪の毛の総合研究サイト「ヘアラボ」などを運営するアラン・プロダクツでは月に1回、「ALAN BAR」という飲み会イベントを開いている。そのルールがユニークだ。
- バーテンダーは社長と役員。大前提として、「経営陣が、社員らに軽食とお酒を直接ふるまう会」
- 参加費無料。費用は会社と経営陣のポケットマネーで負担
- 家族、友人、取引先など「社外の人」の招待を推奨
「飲む人いるかな?」と、自ら歩いてお酌に回る社長の花房氏(写真中央)。その後ろにあるのは卓球台。
提供:アラン・プロダクツ
アラン・プロダクツの社員平均年齢は30台前半と若い。執行役員の新藤裕介氏によると、それまでも1カ月に一度の業績や進捗などの報告会のあとに飲み会はあったが、「経営陣から社員にあらためて日頃の感謝を」と、5月に開始した。
社外の人も積極的に呼ぶようにしてオープンなパーティーにした結果、回を重ねるごとに参加人数が増えた。これまで3回実施したが、直近は、社外の関係者や家族を含め35人程度の規模になった。今後は、採用候補者などを招き、このイベントを採用活動にもつなげていきたいという。
「席が決められていないので、メンバーごちゃまぜのコミュニケーションが自然と生まれています」(同社広報)
飲み会補助制度「Know Me」を作ったSansan
Sansanの社内イベント「つまみーの」の様子。
提供:Sansan
飲み会を活用して、他部所を巻き込む活性化につなげた企業もある。クラウド名刺管理サービスのSansanは、2009年頃から「Know Me(ノーミー)」と呼ばれる飲み会補助制度を導入している。
Know Meは、一定の条件を満たせば一人あたり3000円までの飲み会補助(ランチの場合は1000円)を支給するという制度。適用条件は、「しっかり話せるようにMAXで3名まで」「3名のうち最低1名は、他部門に所属し、かつ過去にKnow Meを利用して飲みに行ったことがないこと」だ。
Sansan広報によると、「(飲み会では)目上の人とも話しやすくなる。楽しくお酒を飲むだけではなく、部署をまたいだコラボの機会など生産性の向上につながることも期待している」という。
Sansanには「つまみーの」というイベントもある。こちらは月に1回、会社の多目的スペースで社員らが軽食とお酒をつまみながら気軽に会話できる会だ。
社員同士は、つまみーので知り合い、Know Meで親睦を深める、という流れがあるという。現在、Know Meはひと月に、スタッフ400名中およそ130名に利用されている(7月までの実績)。
「職場飲み会をオープン化」していくのが飲み会2.0?
職場飲み会にも生産性とエンタメを?
Shutterstock / MAHATHIR MOHD YASIN
結局のところ、職場飲み会をネガティブだと感じる人は、「リラックスの場にならない」だったり、「半分仕事なのに、何も生産性がない」ところに、無意味さを感じているのではないだろうか。
日本マイクロソフトが2018年4月に行なった記者発表「最新の働き方改革 実践事例」での分析によると、マイクロソフトのトップ営業社員は、「社外との共同作業の時間が週に3.7時間多い」「社内ネットワークのサイズが26名多い(平均の1.6 倍)」という明確な違いがあったという。
飲み会を「他部署を巻き込める場にする」「イベント化して社外との交流の場にする」のは、こうした巻き込み力(巻き込まれ力)の底上げにつながり、個人や企業のパフォーマンス改善にもメリットがありそうだ。
下積みレス社会という価値観が当たり前の若手世代にとっては、「上司の愚痴をひたすら聞く」というマインドはそもそも薄い。職場飲み会にも生産性とエンタメが必要というのは、もっと多くの企業が気づいていくべきなのかもしれない。
(文、写真・西山里緒)