「ゆっくり育てていく」再スタートのVALU小川社長 —— 騒動から1年

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東京・代官山のオフィスでインタビューに応じるVALUの小川晃平社長。

撮影:西山里緒

個人の価値を株取引に似た仕組みで売買できるプラットフォームVALU(バリュー)。2017年夏には、YouTuberのヒカル氏らが、VALU上の株式にあたるVAを公開した後、高騰した自身のVAを高値で売り抜けたため批判が殺到した。

騒動から1年が過ぎた2018年8月、iOSアプリをリリースし、新たなスタートを切った。社長の小川晃平氏(32)は「健全なコミュニティを、ゆっくりゆっくり伸ばしていきたい」と話す。

個人や団体を応援できる

VALUは、個人や団体の価値を売買する独特なプラットフォームだ。あらためてその仕組みをみてみたい。

「人に価値がついたらおもしろいよね、というところから始まった」と、小川氏は説明する。

例えば、資金を必要とする写真家が、株に相当するVAを1000VA(VA:VALUの数量を表す単位)発行し、利用者に「VAを買ってくれたら、ポートレートを撮影します」と優待を提示する。

VALU_Chart

VALUの仕組みのイメージ

制作:小島寛明

VAの売買にはビットコイン(BTC)が用いられ、発行時の価値はSNSのフォロワー数などを基に算出される。

写真家がVALUで得た資金で活動し、知名度が向上した場合、VAの価値が上昇する可能性がある。VAを保有する人は、優待を受ける権利を行使して写真家にポートレートを撮影してもらったり、価値の上昇したVAを売却して利益を得たりすることもできる。優待を設定しなくてもVAは発行できる。

利用者は、VAの購入を通じて発行者を応援でき、これから活躍しそうな人の将来的な価値の上昇を見込んで投資することもできる。

ヒカル騒動は「プラットフォームにも責任がある」

YouTuberヒカル氏

ヒカル氏は、VALUでの売り抜け騒動の後、一時活動休止に追い込まれた(その後11月に復帰した)。

撮影:竹井俊晴

VALUがサービスを開始したのは、2017年5月31日のことだ。仮想通貨への注目が高まっていた同年夏、VALUも高い注目を集め、一気に利用者を増やした。

そんな中、大きな騒動が起きた。

2017年8月、絶大な人気を誇っていたYouTuberのヒカル氏がVAを発行。ヒカル氏がSNS上で「明日一気にバリューで動く!」と発言したこともあって、VAの価格は一気に上昇した。

数日後、ヒカル氏は、自己保有のVAを大量に売却。VAの価格は急落した。インターネット上で「インサイダー取引ではないか」との批判が相次ぎ、ヒカル氏らは一時的に活動停止に追い込まれた。

小川氏は「こうした行為が、とてもやりやすい仕組みになっていた。プラットフォーム側にも責任がある」と話す。

株式市場などで考えると、相場操縦を思わせる行為だ。一連の騒動でVALU自身も批判にさらされた。

8月、仮想通貨交換業の自主ルールまとまる

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YouTuberヒカル騒動のあと、VALUは再発を防ぐルール改正などの対応に追われた。

撮影:西山里緒

1日の取引量を制限するなど、再発を防ぐルール改正もしたが、利用者は一気に減った。「感覚的だが半分ぐらいになったのではないか」(小川氏)という。

2017年秋、仮想通貨の価格が高騰し、関連のプロジェクトは高い注目を集めた。周囲は騒がしかったが、VALUは露出を控えざるを得なかった。

小川氏は「盛り上がりすぎて投機的になっていた。システムや運営体制を整えてから、もう1回、リブートしようと考えた」と振り返る。

騒動から1年近くが過ぎた2018年6月ごろから、小川氏は、仮想通貨関連のイベントに登壇するなど、少しずつ露出をはじめた。

8月にiOS版のアプリをリリースしたのは、少しずつ環境が整備されてきたタイミングを見計らっての動きだった。

金融庁に登録済みの仮想通貨取引所が立ち上げた日本仮想通貨交換業協会は8月2日、同庁に正式な自主規制団体としての認定を申請した。

複数の関係者によれば、協会は、このタイミングで自主ルール案もまとめ、金融庁に提出したという。

「ずっと、きついですよ」

小川氏は、業界の自主ルールの確立に期待する。

「こうやれば健全に運営できるというガイドラインができたのは大きい」

VALU自身も、VAが仮想通貨に該当するかどうかなど、いまだにはっきりしない部分を残している。このため同社は、交換業者としての金融庁への登録の準備も進めている。

現在、VALUは10万人ほどの登録利用者がおり、そのうち10〜20%が頻繁にサービスを利用しているという。仕事の対価としてVAを受け取る人も現れたという。

企業に投資をする際に、その企業をどう評価するか。株式市場では、この難しい課題に長い年月をかけて取り組んできた。

一方で、VALUが挑むのは、個人や企業が、個人の価値を評価し、取引の対象とする仕組みの確立だ。「買う側がどうやって個人の価値を評価するのか。人は多様だから、評価の仕組みをつくるのは難しい。でも、ゆっくりやっていくしかない」と小川氏は言う。

サービスの開始から間もなく、YouTuberをめぐる騒動に直面し、2018年1月末以降は、コインチェックから巨額の仮想通貨が流出した事件をきっかけに、仮想通貨は逆風にさらされた。

この1年をくぐり抜けてきた小川氏の、肩の力は抜けていた。「ずっときついですよ。でも、そんなもんなんじゃないのかな」

(文・小島寛明)

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