「キャリアプラン」は必ず立てなければいけないものなのだろうか(写真はイメージです)。
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20代の若手ビジネスパーソンのみならず、30代~60代まで世代を問わず常に「これからのキャリア」は悩みのタネの一つ。そうしたもやもやを晴らすための手段の一つとして、自分の職業人生を建築物のように捉え、キャリアプラン(職業計画)を設計することがスタンダードとされています。
そうした「べき論」に対して疑問を投げかけたツイートが話題となりました。
20代のころに作ったキャリアプラン通りにいってますわー!という人に出会ったことないので、キャリアプランとかは作る必要殆どないのでは、と思ってるのですが、つくったほうが良い、という人の意見も聞いてみたい。
— けんすう (@kensuu) 2018年7月31日
起業家や起業家のタマゴを中心に、20~30代の若手ビジネスパーソンから圧倒的な支持を受ける「けんすう」こと、nanapiの創業者で現在はSupership社の取締役として新規事業を統括する古川健介さんのツイートに対して、20代を中心に共感の声が大きく集まりました。
*反対意見も聞いてみたい、と常にフラットなところがけんすうさんらしい。
「キャリアプラン通りにいかない」は理論的に正しい
筆者も、普段は「複業研究家」なぞと得体の知れない肩書を名乗っていますが、これでも人事・キャリアカウンセラーの端くれとして、「キャリア論」を専門領域の一つとしているので、けんすうさんのツイートを引用する形で次のようにツイートをしました。
僕は「キャリアプラン」はなくてもいいけれどあった方がいい、派。
— 西村創一朗@複業研究家 (@souta6954) 2018年8月5日
クランボルツの研究によれば、成功者の8割が「計画外」のキャリアを歩んでいて、これをプランドハプンスタンスセオリー(計画的偶発性理論)と呼びますが、予想外のハプンスタンスは一定の計画のもとに起こした行動から生まれるもの。
「成功者」と言われる起業家や経営者などのビジネスパーソンを対象に調査を行ったところ、実に80%もの対象者が「まさかこんなキャリアを歩むことになるとは思いもしなかった」と語り、成功者ですら、キャリア形成は予期せぬ偶然によるところが大きいことが明らかになったのです。
つまり、けんすうさんの「20代のころに作ったキャリアプラン通りにいってますわー!という人に出会ったことない」というツイートはキャリア理論的にも正しく、裏付けのある主張だと言えそうです。
「キャリアプラン」はなくてもいいけれどあった方がいい理由
100%の偶発性からキャリア形成がなされるのではなく、「計画的な偶発性」がポジティブなキャリア形成においては重要(写真はイメージです)。
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では、やはりけんすうさんが仰る通り「キャリアプランは不要」なのでしょうか?この疑問に対する筆者なりの答えは「なくてもいいが、あったほうがベター」というものです。
昨今の「キャリアプランニング優位論」の弊害の一つは、「キャリアプランを持つべき」という「べき論」が行き過ぎて、キャリアプランがないことが悪であるかのように感じさせてしまっていること。
特にビジネス経験が少ない20代でキャリアプランを持つことは至難の業で、地元の街の外にすら出たことのない少年に対して「世界のどこを目指すの?そこにはどうやっていくの?」と詰問するようなものです。
「べき論」によって窮屈な気持ちになるくらいなら、キャリアプランなんてなくたっていい、と筆者は思っています。おそらく、けんすうさんもそうした「キャリアプラン持つべき論」に悩む若者を見かねて、救いのご信託をツイートされたのだと思います。
ただ、筆者は「キャリアプラン不要論」の立場は取らず、「なくてもいいけれどあった方がベター」という中道派の立場を取ります。それはなぜか。
そのヒントが、先ほどのクランボルツの「計画的偶発性理論」という言葉に隠されています。つまり、100%の偶発性からキャリア形成がなされるのではなく、「計画的な偶発性」がポジティブなキャリア形成においては重要なのです。
人生やキャリアにポジティブな変化をもたらす「偶発性」はどのように生まれるのでしょうか。「クランボルツ理論」を非常にわかりやすく解説されている『クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方』によれば、「変化」と「出会い」がその本質なのだそうです。
夢や目標の一つである「キャリアプラン」は決して無用ではない(写真はイメージです)。
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まず、「夢はアップデートされ続ける」ということ。どんな壮大な夢でもはじめは小さな夢から始まり、その夢の実現に向けて走り続けているうちに、どんどんアップデートされ続け、まるで雪だるまのようにどんどん大きくなります。そうして変化と出会いを繰り返しながら、たくさんの人を巻き込めるようになります。
そういう意味で、夢や目標の一つである「キャリアプラン」は決して無用ではありません。今は取るに足らない小さな夢でも、言い続け、行動し続けるうちに、少しずつ夢はアップデートされていきます。また、夢や目標に対してひたむきに頑張る姿が人の心を動かし、自分の人生の転機となる出会いが生まれる確率が高まります。
「キャリアプランがない」ことを悔いたり、自分を責める必要は全くありませんが、「自分は、自分という人生を使って、誰を幸せにしたいんだろう?誰の課題を解決したいんだろう?」と考えてみることは、幸せな人生を送る上で、きっと有益なはずです。
西村創一朗:複業研究家、HARES・CEO。2011年リクルートエージェント(当時)で中途採用支援、人事・採用担当を経験。2015年に複業の普及や育児と仕事の両立を目指すHARESを設立。会社員との兼業期間を経て、2017年に独立。