「スマホゲーム一本足打法」を脱却できないゲーム会社の行く末 —— 日本企業が取るべき「メタモルフォーゼ」という選択

テクノロジーの進化と顧客ニーズの多様化を受け、一つの事業の“賞味期限”が3〜5年程度と短くなり、企業を長期的に存続させることはそう容易ではなくなってきている。危機感が高まる中で、企業はどんな生き残り策を考えているのだろうか。

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千葉で開催された東京ゲームショウの様子(2016年)。世界のゲーム市場規模はますます拡大していくと予想されるが、そこで日本企業が覇権を握るのは簡単ではない。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

今日、優良企業と言われる企業の多くは、環境変化に対して本業を変化させて生き残ってきた。

著名なところで言えば、カメラ事業が本業だったキヤノンは、光学技術を活かして多角化を進め、現在では複写機事業が売上高のおよそ半分を占める主力事業になっている。ヤマト運輸は百貨店配送、大口貨物事業から個人向け宅配事業へ、ジャパネットたかたはカメラ販売からテレビショッピング(通販)事業へと本業を移している。

しかし、これらの本業変化は、優良企業であっても20年、30年に1度しか起きないような極めて稀なものだった。近年は生き残りに向けた変化のスピードが格段に上がっており、10年あるいは5年サイクルで本業を入れ替える企業も少なくない。

サイバーエージェント

撮影:今村拓馬

例えば、サイバーエージェントは創業当初のネット関連営業代行からクリック保証型のバナー広告、コミュニティサービス「Ameba(アメーバ)」、スマートフォン広告、そしてゲームへと事業を大きく変化させている。また、DeNAはオークションサイトからゲーム、広告事業へと、ZOZOは輸入レコード通販からアパレルEC、さらにSPA(製造小売業)へと、短期間のうちに本業を柔軟に変化させている。

環境変化のスピードがますます上がっていく中で生き残るためには、柔軟な業態転換が不可欠だ。そうした変化を実現している企業を「メタモルフォーゼ型」企業と呼ぶことにしたい。

毀誉褒貶が激しいモバイルゲーム市場

世界のゲーム市場

オランダの市場調査会社newzooによる2018年の世界のゲーム市場見通し。モバイルゲームはゲーム市場全体の半分以上を占めるとみられる。

出典:Newzoo 2018 Global Games Market Report

メタモルフォーゼ型企業の本質をより詳しく探るために、今回はモバイルゲーム業界にスポットを当てたい。

オランダの市場調査会社newzooによると、日本のゲーム市場規模は2018年に約2兆円、うちモバイルゲームが占める割合は、PCゲームや家庭用ゲーム機のそれを大きく上回っている。一方、モバイルゲームを手がける企業も急増しており、2018年8月時点で618社ものプレーヤーがひしめく激戦区だ。

初期のモバイルゲーム市場を制したのは、DeNAやグリー、ドリコム、バンダイナムコといったガラケー時代の覇者たちだった。特にDeNA、グリーはそれぞれ「モバゲー」「グリー」というSNSプラットフォームを運営し、自社製ゲームへの課金だけでなく、他のゲームデベロッパーからの手数料、広告などで収益を伸ばした。

しかし、2012年5月に「コンプガチャ問題」(モバイルゲームのコンプリートガチャによる高額課金が問題視され、消費者庁が景品表示法違反であるとしてゲーム会社に注意を促した問題)が起きると、DeNAやGREEなどの株価は軒並み大幅下落。モバイルゲーム業界の「成長神話が崩壊した」と評された。

パズドラ

ガンホー・オンライン・エンターテイメントのモンスター級ヒット作「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」。SNSプラットフォームの「中抜き」から抜け出した点でも注目された。

ガンホー・オンライン・エンターテイメント

それとほぼ同時期、基本無料で遊べる「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」をガンホー・オンライン・エンターテイメントが発売。従来のモバイルゲームと異なり、DeNAやグリーのSNSプラットフォームを介さず、App StoreやGoogle Playで直接販売したことは、プラットフォームという軛(くびき)を逃れる意味で画期的だった。

パズドラが牽引役となって、モバイルゲーム業界は2013年頃から再活性化に向かい、ミクシィの「モンスターストライク」やLINEの「ディズニーツムツム」、アニプレックス(企画・開発ディライトワークス)の「Fate/Grand Order(フェイト・グランドオーダー)」などの大ヒットアプリが生まれた。いずれも今日まで人気は衰えておらず、各社の稼ぎ頭となっている。

競争激化でゲーム制作コストが増加中

リネージュ2

韓国のネットマーブルのヒット作「リネージュ2 レボリューション」。

netmable

すでに述べたような新規参入の激化のために、リリースされるゲームタイトルは増加しており、ずば抜けた成功例が登場する一方で、差別化のための高いクオリティが必須になってきている。以前は数千万円の予算でも1タイトルを制作できていたところが、いまや2、3億円はかかる。もちろん、いくらかけて作ったところで、当たるか外れるかはリリースしてみなければ分からない。

そうしたコスト増に対し、IP(Intellectual Propertyの略、認知度のあるキャラクターやストーリーなどの知的財産権を指す)を活用して投資リスクを下げるのが一般的な開発戦略になっている。とはいえ、キャプテン翼やマクロス、アイドルマスターといった根強いファンを抱える人気IPを起用したタイトルですらも、多くはリリースから数カ月後には売上を大きく下げているのが現状だ。

しかも、競争激化は日本企業の間だけでは済まなくなってきている。韓国や台湾、中国のゲーム会社が日本市場にタイトルを投入するようになり、例えば、韓国でゲームコミュニティサイトを運営するネットマーブルの「リネージュ2 レボリューション」が、リリース後わずか18時間でセールスランキング1位になるなど、成功を収めている。

「モバイルゲーム一本足打法」の恐ろしさ

メイプルストーリー

ネクソンのヒット作「メイプルストーリー」。コアなファンを抱え、売り上げの安定に貢献している。

NEXON

さらなる競争激化が予想される中、ゲーム会社はどのような戦略を取ればよいのか。その答えこそが「メタモルフォーゼ型」企業への転換、つまり本業を変化させることである。

モバイルゲーム事業を手がける会社の売上の推移を見てみると、現状の厳しさがさらによく分かる。

最も大きな成長を遂げているのは韓国系のネクソンで、「メイプルストーリー」「アラド戦記」といったコアなユーザーのいるPCゲームも手がけ、売り上げは安定している。モンストを手がけるミクシィ、サイバーエージェントがネクソンを追う。

ところが、それ以外は売上が伸び悩んでいるか、減少傾向にある企業がほとんどだ。市場の急成長とは反比例する実態がある。

例えば、「白猫プロジェクト」で知られるコロプラが発表した2018年9月期の第3四半期決算(日本基準)は、売上高が前年比13.5%減、経常利益が54.1%減、純利益も52.6%減。通年予想でも純利益が41.3%減だった。前年期の決算も芳しくなく、売上高が前年比40.8%減、経常利益が61.6%減、純利益も60.0%減と、苦しい決算が2年続いている。

ドリーミング

コロプラが2018年8月にリリースした新作ゲーム「DREAM!ing」。同社初の女性向けゲーム。苦境を乗り切るための試行錯誤が続くが、“一本足打法”は苦しいか。

コロプラ

数十億円という広告費を投下できるゲーム会社でもこうした状況なので、中小のゲーム会社の経営はさらに厳しい。筆者もあるゲーム会社のコンサルティングを手がけているが、ご相談に来られたきっかけはやはり、業績がなかなか安定せず、売上の割に利益が出ないということだった。

1つのゲームタイトルの運営に数十名規模の人手が必要で、人材確保のためにコストがかさむため、利益が出にくい。大手IT企業の傘下に入るなどの手を打ちたくても、ゲームビジネスは「水モノ」との認識があるためか、合併・買収(M&A)のニーズは薄く、ジリ貧のままなかなか身動きが取れない。これが“モバイルゲーム一本足打法”の恐ろしさである。

「メタモルフォーゼ型」企業の具体例

メタモルフォーゼ型企業は、こうした現状の中で静かに業態転換を進めている。

サイバーエージェントがその代表格だ。ゲーム事業の売上高が伸び、本業であるインターネット広告に並びかけている現状だが、近年はマッチングアプリやクラウドファンディング、さらにはインターネットテレビ「AbemaTV」など、コンテンツやプラットフォーム事業への投資を積極的に進めている。

サイバーエージェント中長期計画

サイバーエージェントの中長期営業利益イメージを示した模式図。投資と事業の柱の相関関係が明確だ。

出典:サイバーエージェント2018年4〜6月期決算説明会資料

DeNAもゲーム事業を維持しながら、EC事業やスポーツ事業(横浜DeNAベイスターズ)、その他新規事業の開発を進め、本業の変化に向かっている。売上高に占めるゲームの比率はこの1年間で5%減少しており、すでに約30%はゲーム事業以外からの収益となっている。

さらに、ゲーム業界の業態転換の際立った例として、名古屋の上場会社であるエイチームを挙げておきたい。同社はSNSプラットフォーム向けアプリをはじめとするゲーム(エンターテインメント)事業を本業としていたが、引越し比較・予約サイトや車査定・買取サイトなどのライフスタイルサポート事業が大きく伸び、売上高に占める割合はすでに同程度となっている。

エイチーム業績推移

エイチームの四半期業績の推移。業績拡大とともにライフスタイルサポート部門が大きな割合を占めるようになっている。

出典:エイチーム2018年7月期決算説明資料

同社の決算説明資料にも開示されているように、ゲーム事業は既存タイトルの売上が減ったり、新タイトルのリリース時期がずれたりすると、業績に大きな影響を及ぼす。一方で、ライフスタイルサポート事業は順調に利用件数を積み上げ、その安定した収益増を背景に自転車通販サイトなどEC事業への投資を進めたことで、新たな事業の柱が生まれようとしている。

世界のモバイルゲーム市場は大きな拡大が予想されているが、そこで覇権を握るのは決して容易なことではない。「一本足打法」の厳しさはここまで実例を挙げて示した通りだ。メタモルフォーゼ型企業でなければ、生き残りは難しい。

次回は、金融・決済分野のメタモルフォーゼ型企業を取り上げたい。


森泰一郎(もり・たいいちろう):森経営コンサルティング代表。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。中堅企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略の立案、M&Aコンサルティングを行う。

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