君たちはどう休むか。2週間の夏休みとるロレアルが成長し続ける理由

有給消化率ワースト1位の日本にあって、多くの社員が2週間のサマーバケーションをとる企業がある。世界最大手の化粧品会社「ロレアル」だ。

参考記事:新入社員の「夏休み2週間取得」は非常識? 有給消化率ワースト1位の日本

夏休み

夏本番。あなたは夏休みを取れていますか?(写真はイメージです)。

shutterstock/ imacoconut

サマーバケーションという名の“有給消化”

ロレアルは1909年にフランスのパリで創業。ランコム、イヴ・サンローラン、シュウ ウエムラ、メイベリン ニューヨークなど34ブランドを世界140カ国で展開する、世界最大の化粧品会社グループだ。

その日本法人である日本ロレアルでは、ほとんどのオフィススタッフが約2週間の夏休みを取得している。冬も同じように約2週間の休みをとるスタッフも少なくないそうだ。

しかし、いわゆる“バケーション”のための長期休暇制度があるわけではない。

例えば夏休みは「お盆」などカレンダー通りの休みはなく、どこでも好きなときに5日間の連続した休みをとっていいことになっている。そこに有給休暇を各自でプラスして、2週間から長い人では3週間のサマーバケーションにするのだ。

厚生労働省によると、2016年に企業が付与した年次有給休暇日数は労働者1人平均 18.2 日。そのうち労働者が取得した日数は 9日で、取得率は 49.4%。実は、ロレアルの長期休暇の取り方は多くの人が「有給消化」で実践できる。

トップも実践、休むのは「お互いさま」

前田ジェームス

「何の遠慮もなく休みが取れるようになるのが理想」と話す、前田ジェームスさん。

撮影:竹下郁子

ロレアルでは部署ごとにカレンダーがシェアされ、そこに記入するかたちで休みを申請する。もちろん部下が上司の顔色をうかがうようなことはない。

経営戦略・マーケティング開発本部でチーフコンシューマーオフィサーを務める前田ジェームスさんは、ロレアルに入社して約16年。大学卒業までを暮らしたカナダや前職の日系企業では、ここまで長期のバケーションをとる習慣はなかったが、社長や経営陣が率先して休みをとるなど自らの行動で示しているため、入社直後から戸惑いなく休むことができたという。

もちろん休みをしっかり取る、という慣習が徹底しているフランスが本社の企業だから、という事情は大きい。だが、取引先や店舗など仕事の相手は日本企業であり、日本社会だ。その中で“休む”と言うことを徹底させるには何が必要なのだろうか。

前田さんには現在5人の部下がいるが、「もっと休んでもいいんじゃないの」と声をかけることもある。休みを強制しているわけではないが、会社にも上司にも「何の遠慮もなく」休みがとれるようになるのが理想の状態だと考えているからだ。

一緒にプロジェクトを進めている他社には、夏休みをとることはメールなどで事前に伝えている。社内のチーム内では、「休み期間中に発注先からこういうメールが来るかもしれない」など休暇中に起こりそうなことを事前に共有し、進行が滞らないようワークシェアリングすることも。

「社外のみなさんにもご理解いただけていますし、社内のチームメンバーもお互いに休みをとるので、負担に感じるようなことは全くありません」 (前田さん)

美容部員には制度化、人事評価も連動

ロレアル

写真提供:日本ロレアル

一方で、美容部員には2015年から「LOVE & CAREプログラム」というプロジェクトで有給消化を推奨してきた。入社2年目以降の美容部員を対象に1年間に最低でも10日は有給を消化、5連休を少なくとも1回は必ず取れるような仕組みだ。

1〜2月にどのタイミングで5連休を取るのか希望を聞き、多くの人が重ならないように店長(カウンターマネージャー)が調整する。

制度化したきっかけは、美容部員は接客業で土日も働くことが多いことに加え、ヒアリングしてみると、いまだ販売業特有の有給取得の難しさがあることが分かったからだ。

松下奨平

「美容部員が組織の中心」と話す、松下奨平さん。

撮影:竹下郁子

美容部員には毎月の売り上げ目標を設定しているが、5連休をとった場合は勤務日数が減るので、目標からもその分を減らすようにして、人事評価制度とも連動させている。

このプログラムを担当してきた松下奨平さん(人事本部HRマネージャー)は言う。

「私たちのビジネスは美容部員が組織の中心であり、最も大切な存在です。これまでもさまざまな制度をつくってきましたが、使ってもらえなかったら意味がありません。ブランドごとに店長を集めて『美容部員が組織の中心であること、そして働きやすい環境、よりよいワークライフバランス、最終的にはお客様へよりよいサービスを実現することを目指す』という社の方針を徹底的に伝えるようにしています」

その結果、2015〜2016年は約1500人いる美容部員のうち約97%が5連休を取得し、年10日の有給も消化できたという。美容部員からも「海外旅行に行けるようになり、お客様との会話の幅が広がった」「リフレッシュできて仕事にさらに邁進できる」などポジティブな声が上がっている。

休みをどう過ごしたかがアピール材料にも

日本人にはまだ休むことに罪悪感を抱く人も多い。その空気から変えていかなくては休めない(写真はイメージです)。

shutterstock/metamorworks

前出の前田さんはこれまで、フランスでワインの名産地を巡ったり、日本国内を「ものづくり」や「スピリチュアル」などテーマを決めて旅行して夏休みを過ごしてきた。

長期バケーションのメリットは、体を休ませてリフレッシュすることはもちろん、その間に経験したことも仕事にポジティブな影響があると前田さんは考えている。例えば、ロレアルの本社はフランスだ。フランスを旅行してその文化を体験すれば、企業理念をより深く理解できるようになる。ロレアルは日本にも化粧品などの研究所があり、前田さんは 研究所に消費者のニーズを伝える仕事もしている。日本の伝統的なものづくりから得た創造力は、今後の研究にも生きてくるだろう。

何より、 休みをどう過ごすかは私たちのアイデンティティの根幹に関わることだ。

前田さんがフランス本社に4年間勤務していたとき、夏休み明けの1週間は上司も部下も互いが何をして過ごしていたかを「熱っぽく」語っていたという。先日、アジアエリアのトップが日本に出張に来ていたときも夏休みに何をしたか聞かれ、伊勢神宮を参拝したことなどを話すと、すごく興味深そうに聞いてくれ、自分も「行きたい」と言ってくれた。

休みの過ごし方からその人がどういう人なのかが見えてきますよね。会社の中で上司に自分を印象づけたりアピールしたり、新たなネットワークをつくるきっかけにもなります。休むことは仕事をする上でも武器になるんです」 (前田さん)

ロレアルの2017年12月通期決算は、売上高が前期比0.7%増の260億2370万ユーロ(約3兆4611億円)、営業利益が同3.0%増の46億7630万ユーロ(約6219億円)と増収増益。営業利益率は過去最高の18%を記録している。休むことのデメリットは見当たらない。

(文・竹下郁子)

編集部より:初出時に掲載した美容部員の写真は、記事中の「LOVE & CAREプログラム」の対象でないものだったため、正しいものに差し替えました。 2018年8月16日 11:50

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