NYだけで8万人。増えすぎUber運転手の生活が困窮—— NY市規制に

ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は8月14日、全米で初めて、ライドシェアアプリUberなどの運転手の数を暫定的に制限する法律に署名した。今後1年間、ニューヨークで展開するUber、Lyft、Juno、Viaなどのアプリ4社は、新たに運転手を雇用してはならない。

法律の狙いは近年、Uberなどに収入を脅かされているイエローキャブ(タクシー)運転手と、攻めるUberなどの運転手、双方の収入を改善し、生活を安定させることだ。法律は、双方の運転手の時給を最低17.22ドルにすることも盛り込んだ。それほどタクシーだけでなく、Uber運転手らの生活さえ困窮しているのが実態だ。

タクシー時代から6.7倍に

ニューヨークのタクシー運転手によるデモ

マンハッタンで行われた、イエローキャブ運転手やその家族によるデモ。ライドシェアアプリの運転手の数を制限する法律の支持を表明している。彼らの願いは8月14日に実現することになった(2018年7月31日)。

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アメリカ最大の都市で、最も煩雑なニューヨークの運転手間の競争は、Uberなどの台頭で急速に熾烈なものになった。もともとタクシー運転手の数も全米一で、約1万4000人。これに対し、Uberなど4社のライドシェアアプリの運転手は、2015年に1万2500人だったのが、2018年7月現在8万人に上っている。ニューヨーク市全体で、Uber参入前のタクシーしかなかった頃に比べ、いまや6.7倍もの運転手がひしめいていることになる。

Uberなどが、タクシーの客を奪っているのは明らかだ。出張先のアメリカ各地の空港で、タクシー乗り場はどこもガラガラなのに対し、Uberなどのピックアップ広場は混雑している。ニューヨークのイエローキャブ運転手の間では、収入減による生活苦が広がっており、2018年前半に6人の運転手が自殺したと報じられている。そのたびにタクシー運転手がデモを行い、Uberなどの規制を訴える声を上げていた。

タクシー乗り場。

アメリカ各地の空港のタクシー乗り場は、Uberなどのカーサービスに客を奪われてどこも空いている。生活苦による運転手の自殺も相次ぐ(写真はジョン・F・ケネディ国際空港)。

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Uber運転手も生活苦

ニュースクール大学(ニューヨーク)が2018年7月にまとめた調査によると、Uberなど4社は2018年第1四半期で、1日約60万回の運転サービスをニューヨーク市で提供。年間のサービス回数は、2016年に前年比で100%増、2017年に71%増と大幅に伸びた。

かと言って、Uberなどの運転手の生活が潤っているわけではない。筆者がUber運転手の過酷な労働環境を知ったのは2015年末。友人のフォトグラファーが家賃の足しにUberの運転手になったが、ほとんど稼げず、2カ月で「撤退」した。

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筆者はUber、Lyftをよく使うが、運転手に話を聞くと、みなどうやって収入を増やすか苦労している。ほとんどの運転手が、2つか3つのアプリを併用し、お客が近くにいて早くつかまるアプリに応答して客を奪い合う。ある時はUber運転手としてお客をピックアップし、次はLyft運転手としてピックアップするという具合だ。このため、お客も乗る際に「Are you Uber now?(今はUber だよね?)」と聞いて、車のナンバー以外に自分が乗るべき車両なのか確認する。

Uber

ほとんどの運転手がUberやLyftなど複数のアプリを併用し、客が近くにいて早くつかまるアプリに応答して客を奪い合っている。

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中には、イエローキャブ運転手が、家計の赤字を埋めるためにUber運転手をやっていたりする。ガソリン代を浮かせるため、真夏でもエアコンをかけていない車両もある。比較的涼しい日に「エアコンなしでもいいよ」というと、喜ぶ運転手は少なくない。

3分の2は「本業」

前出の調査によると、ニューヨーク市内の4社の運転手のうち90%が移民。3分の2がUberなどの運転手で生活を立てており、Uberが宣伝するように副業による収入増を狙っているのではない。80%が運転手になるために車両を購入し、ローンを返すために転職しにくい状況に置かれている。

調査報告書は、「業界の急成長に比べ、運転手に対する報酬は比較的低い」と指摘。平均時給は、タクシー運転手の規制団体であるニューヨーク市タクシー・リムジン委員会(TLC)が要求している時給17.22ドルを下回る14.25ドルで、この水準ではニューヨーク市では家計を支えてはいかれないという。このため2015年以降、毎年Uberなどの運転手の1週間あたりの労働時間は増え続けている。

運転手の売り上げからは、Uberに40%を支払い、ガソリン代、メンテナンス代、高速代、車両のレンタル代などを支払うため、時給17.22ドルを確保するには、30ドル以上の売り上げが必要となるが、それも毎時間可能な訳ではない。

Uber運転手によるデモ。

Uberの運賃引き下げに抗議し、ニューヨーク事務所の前でストライキを行うUber運転手たち(2016年)。彼らの生活も潤っているわけではない。

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ブルームバーグの2018年3月の記事によると、2017年までに96%のUber運転手が1年以内に運転手を辞めているという。期待したほど収入が増えなかったのが理由で、実際にUberは2017年、連邦取引委員会(FTC)が「収入が増えるという見通しについて、間違った、あるいは根拠がないミスリーディングをした」とする追及に対し、2000万ドルの和解金を払って、手を打っている。

マイノリティからは反対の声も

運転手の数を規制し、競争を抑えることで、最低時給を確保するというニューヨーク市の政策は、現実的と言えるかもしれない。これで市内の運転手らの収入が改善すれば、全米の他の都市のモデルとなる可能性もある。

一方で、マイノリティのコミュニティからは、反対の声が上がっている。

イエローキャブは、市内5区のうち中心のマンハッタンの南半分でしか運行していない。これが、マンハッタン以外でUberなどの急速に利用が増えている理由だ。

また、アフリカ系アメリカ人を乗せないタクシー運転手も中にはいる。アフリカ系アメリカ人の人権運動で有名なアル・シャープトン牧師はメディアに対し、「黒人がイエローキャブを止めるのがいかに難しいのか、分かっていない」と訴えている。

(文・津山恵子)

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