アマゾン、Airbnb、Yelpに学ぶ「評価経済」を機能させるための3つの法則

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ウーバーをピックアップスペースで待つ人(写真はイメージです)。

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こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。

UberとLyftがついに、ニューヨーク市で規制されました。「タクシー業界を守るため」ということです。同じ規制の波が西海岸にわたるのも時間の問題かもしれませんが、私が住むカリフォルニアでは是非規制を蹴飛ばしてほしいと願っています。

さて、今回はそのUberを始めとするユーザー評価をもとにエンゲージメントが変わってくるサービス、いわゆる「評価経済」を軸にしたサービスについての話題です。

日米を行き来して日米両方のサイトやプロダクトを比較してみると、その使われ方に違いがあることに気がつきました。そして評価経済が成り立つプロダクトの中で、どんなAI技術が使われているかを書きたいと思います。

「評価経済」とはそもそも何なのか?

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評価経済とはそもそも何なのでしょうか。

私は、ユーザー自身が感じる「自分の気持ち、感想」を「評価」という形で他者に与えることで成り立つシステムと定義しています。他人からもらった「評価」がその後の経済活動(売り上げ向上や新規顧客獲得など)に直に影響することがポイントです。評価経済を使ったサイトといえば、AmazonやUber、Airbnbなどが挙げられます。これらには、常に評価を与える側(客)と与えられる側(サービス提供者)がいます。

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Airbnbのとある宿。

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例えば、Airbnbではホスト(宿を提供する側)にとっては、ゲストからの評価が何より大事です。実際に私のアメリカ人の友人で、Airbnb上で物件を出してホストをしている人は、ユーザーレイティングが下がることを常に気にしていて、レスポンスタイム(ゲストからの質問に返答するのにかかった時間)を最短1時間以内にすることに心血を注いでいる人もいます。

レーティングの「質」と同じくらい、「数」も大事です。過去に1人しか泊まったことのない物件はなかなか信用できませんが、過去に100人が泊まって、平均レーティングが4つ星だったら信用できる、というようなイメージです。

評価経済をうまく機能させた店舗検索サイト「Yelp」

同じ仕組みが、「Yelp」(米国版「食べログ」のようなサービス)にも言えます。

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ユーザーによる評価が非常に詳細で、まるで友人からレストランやその他の店の推薦をしてもらうような細かな情報が人気。

Yelpは私と同じくハーバードビジネススクールに通ったJeremy Stoppelman氏が立ち上げた、ローカル店舗検索サイトです。

Yelpはレストラン以外にも、美容院や医者、ペットショップ、はたまた近所の郵便局や引越し斡旋業者まで、地図に存在するほとんどのローカルなビジネスの評価と情報をまとめたサイトになっています。

Yelpでレビューの数と質をあげることは、今やローカルビジネスにとっては死活問題になってきました。Yelpがビジネス側にレビューを客に依頼してはいけません。レビューを書いてもらう代わりにインセンティブをあげることはガイドラインに反していますと何度も声をあげても、効き目はありません。ビジネスサイドがその声を聞く理由が見当たらないからです。

ローカルビジネスにとっては、「Yelpシステムの中でいかにレビューの数を増やすか」ということが、一種のゲームプレーになっているためです。

「ゲームプレー」を阻止するための高度なAI技術

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Yelpの最新のレビュー数。6月時点で1億6300万ものレビューがあるという。

そこでYelpでは、そのようなビジネスを規制して処罰を与えるような人海戦術的な努力を諦め、年々増え続けるレビューの中で(2018年6月時点でのべ163Millionレビュー数)、どれが「割引きなどの何かしらの動機を与えられて書いたレビューか」を見極めることに力を注いでいます。

怪しいレビューは表示しない、またはランクを下げるといったアルゴリズム開発をしているのです。Yelpの発表によると、2017年ですべてのレビューの72%しか、レコメンドしていない、ということです。(レコメンドしないレビューが21%、残りの7%は削除レビュー)

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Yelpが公開しているレコメンドの比率。不正レビューを分別するにはレビューの数が多すぎるため、AIの力を借りて良い体験になるよう選別している。

もう1つYelpのレビューでAI技術が活用されているのが、自然言語処理(NLP)技術を使った、レビュー文からのキーワード抽出です。レビューの数が増えるほど、ユーザーはレビューを読むのに苦労します。そこでYelpは関連性が高いと思われるレビューの中から、キーワードを抽出し(例:このお店はベジタリアンに最高だ)、その箇所をうまく表示してくれます。

Yelpのようなサイトはサービスを買った客がレビューを書くことは任意です。任意の場合、私の考えではほとんどの客がレビューを書いていないと想定され、8対2の法則が成り立つと考えられます(8割のレビューが2割のユーザーによって投稿されている)。その2割の熱心なユーザーは、ゲーミフィケーションというインセンティブが与えられており、レビューの質や数が良いとレビュアーとしてのランクが上がります。

このように、評価経済が本当に機能しているサイトには3つの共通する特徴があります。

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1. レビューを促すゲーミフィケーション等のシステム作り

2. フェイクレビューを罰するAI技術活用

3. サイト全体のエンゲージメントを高めてレビューの価値を最大化させるNLP技術活用

逆に言うと、ユーザーからレビューコンテンツを集めているサイトの場合、上記3つをやらないと競合に負ける、または機会損失が大きいと言えます。

反対に、差別化しにくい商品やサービスを提供している人が集まるレビューサイトでは、レビューを促すよりもレーティングだけに特化してシームレスなUXを作る方がよほど効果的でしょう。   

自社サービスを「評価経済スペクトラム」に当てはめて見えてくる「課題」

評価経済の歴史は長いが、

日本においても評価経済の歴史は長いが、すべてがうまく機能しているかといえばそうではない。うまく活用できている事業者と、そうでない事業者がいる。

評価経済を使ったプロダクトには、何の評価をするかによって、以下のようなスペクトラムに分けられます。

不良品ダメージリスクとは、ここでは不良品または自分が満足出来ない商品やサービスを買ったときに被るダメージの大きさを差します。取り替えがきくものやダメージが少ないものはリスク小、取り返せないものやダメージが大きいものはリスク大となります。

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評価経済スペクトラム。

構成:石角友愛

このスペクトラムを見て分かるのは、

  1. 不良品ダメージリスクが大きいサービスを提供しているビジネスは、ユーザーの「パーソナル」で「正直」かつ「具体的」なレビューを手に入れることが今後より一層重要になる
  2. 逆に、交通手段(ウーバーなど)や洋服のようなコモディティを売っているビジネスは、レビューの内容より相対的な数の方が比較的大事。レビューを書かせてUXを下げるより、サイト上の取引数を増やす方が大事
  3. 中央に位置するサービス提供者の場合、レビューの質が大事。スペックなどに統一したレビューを集めることでユーザーのエンゲージメントが上がる

ということです。

私が今後期待しているのは、「パーソナルで正直なレビュー」という非常に高付加価値なコンテンツを、AI技術で最大限活用することです。

特に医療業界や人事業界など、サービスを提供する側と受ける側で情報の非対称性が大きい領域でAI活用が広がれば、より個人のニーズに合わせた選択ができるようになり、もっとオープンな環境になると考えています。

日本で「評価経済がうまく回らないサービス」が生まれる理由

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撮影・今村拓馬

日本では多様な評価がどれだけ本質的に経済活動へ貢献しているでしょうか。レビューやレーティングを促すサイトの中には、表面的になっているものが少なくないように見受けられます。

例えば私がよく使う仕事マッチングプラットフォームでは、仕事が終了した際に雇用主側にレビューを強制するのですが、「とりあえず5つ星でいいだろう」という感じで、それ以外の詳細なレビューを与えるインセンティブ作りがありません。完了作業間際にレビューを強制されるため、星をつける作業さえも鬱陶しく感じるUXとなっています。

一方で、Airbnbのように「評価経済を分かり尽くして、ユーザーに正直でパーソナルなレビュー」というリッチコンテンツで参入してくるプレーヤーがいます。

日本のサービス事業者は、どう立ち向かえば良いのでしょうか?

そのポイントは、リアルな本音レビューをどのように集めるかを徹底的に考えたUIとUXデザイン、そしてレビューに対するAI活用にあると言えます。

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特に不良品ダメージリスクが高い商品を提供している会社では、リアルな本音レビューを持つ会社とそうでない会社は、今後大きな差が生まれてきます。

リクルートが先日約1300億円で買収したGlassdoor(グラスドア)というアメリカの会社は、いろいろな会社のレビューが載っていて、元社員などの口コミが非常に詳細に記されています(例:面接でどうだったか、給料はどのくらいか、など)。

これほどの会社のレビューを集めているサイトはあまりなく、アセットとしても非常に価値が高くなります。また、いろいろなAI技術でこのデータセットを活用し、経済活動につなげることもできるでしょう。

弊社でも、近年このような評価コンテンツとAIを組み合わせたビジネスデザインの案件が増えてきています。これは、決して偶然ではないと思います。

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(文・石角友愛)

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