トヨタも虜にする「天才が憧れる天才」AI企業、PFNゴールデンチームの全貌

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研究者やグーグル、Apple、CYBERDYNEなど名だたる企業から人材が集まる(画像をタップすると高解像度版を表示します)。

取材をもとにBusiness Insider Japanが作成

メルカリが上場し、日本で有数のユニコーン(未上場で企業価値10億ドル以上の企業)とされるプリファード・ネットワークス(以下、PFN)。

トヨタやファナック、日立製作所など日本を代表する技術系大手企業から資金を調達し、事業面でも連携を進める、いま日本でもっとも注目を集めるスタートアップの1社だ。

PFNが開発したオープンソースの深層学習フレームワーク「Chainer」は、世界中の企業や開発者に利用され、AIの研究開発の最前線に食い込んでいる。

そのPFNは、プリファード・インフラストラクチャー(PFI)から分社する形で2014年3月に創業、現在の社員数は150人を超えた。そして、いまなお優秀な技術者が集まり続けている。

ツイッターやブログで「転職しました」と書く人も珍しくなくなったが、優秀なAI人材が次々にPFNに流れている現状に対し、ツイッター上では「僕のTL、任意の優秀なエンジニアがどんどんPFNかメルカリに転職していってる」という投稿も見られる。

さらに、 2018年8月にはグーグルから1人、業界で知られたエンジニアが転職した。

「shinhさんもGoogleからPFNへ転職するそうです。ICFPCを1人で優勝したり、G社でもmakeクローンを1人で作ったりと、個の力が圧倒的で常人では何人集まってもできないことを成し遂げる人なので楽しみです。」

このツイートをしているいもすさんもグーグル出身で、国際情報オリンピック出場や、ACM-ICPC国際大学対抗プログラミングコンテスト世界大会出場など輝かしい実績を持つ。

なぜこれだけのそうそうたる面々がPFNに集まるのか。

最先端の技術の刺激を受けられる環境

コンピューターサイエンスの分野において、PFNほど、優秀な人の密度の高い企業は日本で他にない

IBM基礎研究所所長や統計数理研究所教授など、日本と世界を代表する研究所で多くの技術者を見てきた、PFNフェローの丸山宏さん(60)はそう断言する。

丸山さんは統計数理研究所で教授をしていた2015年にPFNの副社長である岡野原大輔さん(36)に誘われて、2016年に入社。最高戦略責任者として、マイクロソフトとの提携などを進め、2018年4月から「PFNフェロー」に就任した。

現在は、政府の委員会出席や学会活動、講演など渉外全般を担う。

丸山宏

PFNに転職して来て、社内の意思決定の早さにとても驚いたと語る丸山宏さん。

なぜ日本の統計数理研究の中心的存在である統計数理研究所を辞めて、PFNに転職したのか?

「岡野原の存在が一番大きい。岡野原のアンテナはすごくて、彼の近くにいると、世の中で技術的に何が起こっているのか知ることができる

2006年にPFNの前身となるプリファード・インフラストラクチャー(PFI)を西川徹社長と共同で創業した岡野原さんは東京大学在学時に東京大学総長賞を取り、1週間に100本もの論文を読む。

もちろん、岡野原さんだけではなく、PFNは優秀な理系社員だらけだ。IBM基礎研究所などにも優秀な人はいたが、その「密度が違う」と丸山さんは言う。

ここにいれば、岡野原だけではなく、他のメンバーからも、最新の技術の刺激を受けられる。それが一番の理由でみんな集まってくるんだと思う」(丸山さん)

あらゆる分野に精通

自動運動

PFNは機械学習や深層学習などを応用し、主に自動運転やロボット、バイオヘルスケアの分野で事業を行う(写真はイメージです)。

出典:shutterstock

PFNの採用条件は厳しい。公式Webサイトに掲載されるリサーチャーの応募条件には高いハードルが並ぶ。

・メジャーな国際学会に継続的に(年2本以上)論文を通していること

・コンピューターサイエンス分野に限らずさまざまな分野へ精通できる積極的な姿勢

・自分の研究分野に対しては、世界で一番優れている/唯一といえる要素があること

技術を実用化する高い意思があること(オープンソースやプロジェクトでの成果を高く評価します)

・高い意思を継続できること

リサーチャーとして2016年に入社した、現執行役員・チーフリサーチストラテジストの秋葉拓哉さん(29)は入社して「ショック」を受けたと語る。

「自分の技術力に自信があったんですが、周りの人たちのレベルがかなり高かった。希望して転職してきたものの、大きな差を感じた」

秋葉拓哉

チーフリサーチストラテジストとして、自身で研究開発もしながら、社内の研究開発レベルを上げるための仕組みづくりを行う秋葉拓哉さん。

秋葉さんは、プログラミングコンテストで数々のメダルを獲得し、アカデミアの世界でも国立情報学研究所の特任助教として海外のトップカンファレンスで論文を採択されるなど、界隈では知られた存在だった。「秋葉拓哉」で検索しようとすると、いまだに関連キーワードには「秋葉拓哉 天才」と出てくるほどだ。

その秋葉さんでも、PFN社員の守備範囲の広さには驚いたという。

「アカデミアは、極端な話、若手の間は論文を書いていれば評価される。そうすると、一点尖っていれば、やっていける。けれど、PFNでは、社長と副社長だけではなく、アルゴリズムやコンピューターアーキテクチャ、数学、プログラミング言語など広範囲に詳しい人がたくさんいる」

PFNでは、応募条件に明記されるように「あらゆる分野への精通」が求められる。共同創業者の2人が体現し、積極的に啓蒙しているという。

技術力の評価と発信で好循環が回る人材採用

PFN共同創業者

PFN共同創業者の西川徹社長(左)と岡野原大輔副社長(右)。2014年3月にPFNを創業。重要な意思決定は必ず2人で行う。

出典:PFN

「PFNでは、技術力が高い人が正当に評価される。自分は技術が高いことが大きな価値だと思っているが、一般の企業などでは技術力が高いかどうかがあまり重要でないことも少なくなく、モノが売れるかどうかが重視される。実際、技術力をお金につなげるのは難しい。けれど、PFNは高い技術力を直接的に生かして、大きなインパクトをどんどん出している」 (秋葉さん)

PFNでは、事業に技術力を生かすだけではなく、論文を書いて、積極的に学会にも参加している。論文執筆は業務の時間を使うことが許されているが、それにももちろん意味がある。

論文を書く価値はプレゼンス。論文の前に特許を出しており、(事業の)優位性が失われることはなく、その論文を読んで他の人たちも研究をしてくれる。最終的に、我々のメリットにもつながっている。それに、成果を世の中に出すことにより、『自分もやってみたい』と人材を惹きつけ、良いサイクルが回っている」(秋葉さん)

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2018年5月には世界最高峰のロボットの国際学会でHuman-Robot Interaction部門の最優秀論文賞を受賞するなど、PFNは研究の分野においてもプレゼンスを発揮している。

出典:PFN

あらゆる企業の中からPFNを選択

秋葉さんは将来的には「グーグルやFacebookにも『こいつら無視できない』と思われるような成果を出していきたい」と語るが、今ではグーグルから転職してくる人も多い。

ロボット関連のプロジェクトでエンジニアをしている吉野剛史さん(34)は10年間勤めたグーグルを辞め、2018年4月にPFNに入社。

西川社長が学生時代に所属していた研究室の1つ下の学年にいたのが、吉野さん。冒頭で紹介したshinhさんやいもすさんとはまた別のグーグル出身者だ。グーグルにいる間にもたまにPFNの話を聞く機会があったが、10年目の節目で、「違うことをやろう」と退職を決意。

自分が知っているありとあらゆる企業をリストアップし、売上高や業種、リンクトイン(LinkedIn)でどういう社員がいるのかも調べ、数十ページものレポートを作成。その中からPFNのみに応募し、入社した。

吉野剛史

グーグルでやっていたようなtoCのビジネスではなく、toBで新しい分野に挑戦したかったと話す吉野剛史さん。

「社長の西川が昔と変わらない志を持って会社を大きく成長させていて、リンクトインでPFNのメンバーを見ると、以前よりもすごく多様になっていて、ここまで来たのかと、感動した。一緒に頑張るならこの会社だと思って、入社を決めました」

実際、冒頭のチーム一覧図を見ると、研究者やアップル、ロボット関連企業、グーグルなど、多様な分野から精鋭人材が集まる。

一覧図に載っていないメンバーでも、国際情報オリンピック銅メダルで、ロボット自動運転のデモ動画をネット上で公開し、注目を集めた松元叡一さんや、プレイステーション3のネットワーク開発を担当していた執行役員最高業務責任者の長谷川順一さんなど、名前を挙げたらキリがない。

吉野さんは、入社してまだ4カ月程度だが、次世代の産業を作っていく過程に関われていることに大きなやりがいを感じていると話す。

「エンジニアに限らず、自分が提案したことに対して、すぐに対応してくれたり、意思決定が早い。今後はPFNをグーグルのような成熟した強い会社に育て、ロボットなどによって、日本や世界に存在する社会的な問題を解決していきたい」(吉野さん)

技術力の正当な評価と、積極的な情報発信によって、「天才」が「天才」を惹きつけるPFN。

丸山さんは、「ソニーや松下電器も昔は小さいベンチャーだった。この会社がいずれIBMやマイクロソフトなどのような大きな会社に育った時に、PFNフェローという人たちが何十人もいて、その1番最初に自分の写真が並ぶ姿を想像すると非常にワクワクする」と、PFNの今後に大きな期待を寄せる。

これだけの優秀な人材を抱え、PFNは今後どのようなインパクトを社会に生み出すのだろうか。

(文、写真・室橋祐貴)

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