いま、クラブやフェスを中心にブームを巻き起こしているリキュール「コカレロ」。パリピたちの新定番ドリンクの人気の秘密は、インスタ映えする「ショット」のトレンドにあった。
コカレロは、特徴的なひょうたん型のグラスに入れて飲む「コカボム」という飲み方が人気だ。
爆発ヒットの小悪魔リキュール「コカレロ」
「コカレロ(Cocalero)」という名前のリキュールがある。
六本木のクラブ・1OAK Tokyoのコカレロ特設ブース。
コカレロは南米・アンデス山脈で栽培されたコカの葉と、ジュニパーやオレンジピールなど16種類のハーブをブレンドしたお酒だ。
飲んでみると、シロップのような甘ったるさのあとに身体にアルコールが一気にめぐってくる、小悪魔のようなリキュールだ。SNSで「キマる」と話題が沸騰し、2016年から2017年にかけて爆発的にヒットした。
コカレロの仕掛け人は、世界中の酒を輸入・販売しているアイデイ商事取締役の土居影久さんだ。
2000年代から2010年代にかけて香港に滞在していた土居さんは、2000年代後半に花開いた香港のバー文化に影響を受け、リキュールの輸入を手がけ始める。おいしく、しかも気軽にカクテルが飲めるようなリキュールを求めていた2012年頃、出合ったのがコカレロだった。
「コカレロ」のGoogleトレンド。2017年に知名度が急上昇した。
データ:Googleトレンド
コカの葉から生まれたお酒というコンセプトに、29度と高すぎないアルコール濃度。これは日本人に合うのではと、大阪・心斎橋のバー50軒ほどにコカレロを仕入れてもらうと、大阪の「ちょっとワルいことをしたいような若い子たち」にコカレロはすぐに受け入れられたという。
2015年には東京進出が決まり、そのタイミングで土居さんは日本に本帰国。香港時代にDJをしていた経緯もあり、その時培ったつながりを通じてイベントやバーなどに物品協賛をしていくと、徐々に東京でもコカレロの名前は広く知られるようになっていった。
2018年に入りブームは落ち着いているが、それでも今夏の週末には10件以上のコカレロ関係のイベントが開催され、パリピの定番ドリンクとして定着しつつある。
ショットも「インスタ映え」重視
コカレロ人気の背景として、ハードリキュールを氷やほかのドリンクで割らずにショットグラスでそのまま一息で飲む「ショット」のトレンドがある。
新宿三丁目のあるバーのオーナーは、「ここ数年のショットのトレンドとしてテキーラ、イェーガー、コカレロという流れがあった」と証言する。
レッドブル・レモン・塩など、クラブであおるショットにはさまざまなお作法がある。
ショットといえばかつてはテキーラだった。くし形に切られたレモンを口にしぼり、テキーラのショットをグッと飲みほして、親指と人差し指の間に乗せた塩でサッと口を洗う。メキシコから由来したといわれるその飲み方は、パリピの夜の儀式として定着した。
その牙城を崩したのが、2010年代にクラブで流行し始めた「イェーガー・マイスター」だ。「ドイツの養命酒」とも言われるそのお酒はうがい薬のような味で飲みやすいとは言えないが、なぜかその苦味を我慢してショットするのがイケている、とされて世界的に流行した。
アメリカの経済誌「TheStreet.com」の報道によると、イェーガー・マイスターは2016年10月時点でアメリカでもっとも売れている輸入酒だとされている。
イェーガー・マイスターのドイツ語表記と英語表記を比較してみると、2008年から2009年にかけて英語表記がドイツ語表記を上回るようになり、世界的に流行し始めたことがわかる。
データ:Googleトレンド
イェーガー・マイスターがパリピ界に遺したカルチャーといえば「イェーガー・ボム」だ。
イェーガー・ボムは大きめのグラスに注いだレッドブル(ほかのドリンクの場合もある)の中に、イェーガー・マイスターをショットグラスごと沈めて飲むというカクテルだ。
まるで爆弾(ボム)のようにイェーガーがドリンクの中ではじけるその様子が「インスタ映え」すると人気になり、一気にパリピの支持を獲得した。
2013年には「Jägerbomb」というタイトルの曲まで出ている。PVの冒頭に出てくるのがイェーガー・ボムだ。
出典: CrossfaithOfficial
そんな「イェーガー・マイスター」人気の流れを汲んで登場したのが「コカレロ」だ。コカレロは、独特のひょうたん型のグラスにコカレロとレッドブルなどを割って飲む「コカボム」という飲み方が流行の火付け役となった。
「#コカレロ」をインスタグラムで検索すると、6万8000件以上の投稿がある。その多くが「コカボム」に関するもの。
音楽フェスのPRを多く担当するPRディレクターの石山明日香さんは、「コカボム」の人気について、飲みやすさ、そして「インスタ映え」しやすい色と形をしていたからでは、と分析する。
移り変わるショットトレンド
国税庁が2018年3月に発表した資料によると、2016年の日本国内の酒類消費量は1996年のピーク時の約9割。成人1人当たりの酒類消費量も1992年のピーク時のおよそ8割になっている。
若者がお酒を消費する場であるクラブやバーも減少している。警察庁の発表によると、バー・クラブ・キャバレーなどを含む接待飲食等営業の営業所数は、2013年には6万7488件だったが2017年には6万3956件と、ここ5年で6%ほどが姿を消した。
前出の土居さんは、コカレロをきっかけとして、良質なカクテル文化を普及させ、日本のナイトライフをより豊かなものにしたいと意気込む。次のブームを起こしたいと注力しているのは、クラフトジンを使ったカクテルだ。
クライナー・ファイグリングのボトル。いちじくの味がする。
一方で、ショット界には新しいトレンドが生まれてもいる。それが「クライナー・ファイグリング」だ。可愛らしいボトルといちじくの甘さでジュースのように飲めるリキュールだ。
楽天市場をみると、8月6日~8月12日のリキュールランキングで「テキーラローズ ストロベリークリーム」と「コカレロ」を抑えて1位になっているのが、クライナーだ。新宿のバー界隈では品切れ状態が続いている、と前出のバーのオーナーは語る。
パリピたちが一緒にショットすることで絆を確かめ合い、夜をあざやかに彩るリキュールのトレンド。その移り変わりも、パリピが過ごす一夜と同じように、刹那的だ。
(文・写真、西山里緒)