電通の働き方改革担う「ロボット人事部」—— 600工程の効率化はロボット“だけ”では無理

電通

高橋まつりさんの事件以降、50以上の“改革”を実施し、労働環境の向上を進める電通。

人手不足を背景に、生産性を高める手段として注目を集めるRPA(Robotic Process Automation=ロボットによる業務自動化)。

三井住友銀行は運用報告資料の作成、休日・夜間を利用した業界情報の収集といった、約200業務を自動化し、40万時間の業務量削減に成功。自治体でも、つくば市が一部試験的に導入し、確定申告の税務処理などを自動化し、3カ月で約137時間を削減、本格的に導入を進めようとしている。

あるITの市場調査によると、2016年から2021年までのRPA市場成長率は年間平均59.3%と急成長が期待されるという(AI/RPA市場2017、ITR調べ)。

しかし、「ロボット人事部がなければ、RPAはブームで終わりかねない」と指摘する人がいる。全社を挙げて働き方改革に取り組む電通のビジネスプロセスマネジメント局局長・小栁肇氏だ。

600工程の自動化で約1万6000時間を創出

2016年11月、新入社員だった髙橋まつりさんの過労死事件を受けて、電通は「電通労働環境改革本部」を設置、本気の働き方改革を始めた。社会から非常に厳しい批判に晒され、経営トップは交代、中途半端な改革では済まされなかったという背景もある。

22時以降の業務原則禁止や勤務間インターバルなど、これまでに実施した改革は50を超え、2018年6月には毎月1回、全社が一斉に平日に休暇を取る「インプットホリデー」も試験的に導入した。

2017年の社員1人あたり総労働時間は前年比で135時間削減され、2031時間となるなど、一定の成果を出している。

労働時間削減にあたり、徹底して業務も見直した。業務の効率化に大きく貢献しているのがロボットの活用、RPAだ。

従来は月末に深夜遅くまで行っていた営業の受注登録を自動化させるなど、600工程をロボットが代替し、月に合計約1万6000時間もの時間創出(短縮)に成功した。

ロボットを導入するだけでは「すぐ使わなくなる」

shutterstock_400106332

RPAはロボットがエクセルやウェブサイトの情報を取得し、基幹システムに打ち込んでいく。

shutterstock

しかし、「ロボット人事部がなければ、成功しなかった」と前出の小栁氏は振り返る。

RPAは単に導入して終わりではない。実際には社員一人ひとりが立ち上げ、使い続けなくては成果は出ない。しかし、導入当初は「すごい」と思って使っても、2、3回すると「使わなくなる」のだという。

「今までずっと手で作業してきたので、ロボットを立ち上げるのが面倒に感じたり、ロボットがしょっちゅう止まるようだと、嫌気が差してやめてしまうんです」(小栁氏)

ロボットが止まる理由はさまざまだが、例えばロボットがデータを読み取るウェブサイトのUI(ユーザーインターフェース)が変わるだけで機能しなくなることもあるという。

RPAは「Digital Labor(デジタルレイバー)」とも呼ばれるが、勝手に自動的に“働いて”くれるわけではなく、実際には「働き手の一人」として業務を教えながら一緒に仕事を進めていかなければならない。

社員番号を与えられた600台のロボット

電通小栁肇

4桁のロボットを扱うには、まとめる役割が必要だと考え、最初から「ロボット人事部」を設置したと小栁氏。

多数の取引先を抱える電通では、個人によって仕事内容が大きく異なるため、ロボットが個々の社員の「アシスタント」として業務をサポートする。そのためロボットの種類も多く、現在は約600台のロボットに社員番号が与えられ、「配属」されている。

そのロボットの使用状況を見守り、改善を続けるのが「ロボット人事部」だ。

「『ロボットって簡単そう』だけで始めてもうまくいかない」(小栁氏)

ロボット人事部は現在30人ほど。ロボットの使用方法を説明する社内向けの広報ビデオを用意し、ダッシュボードで各ロボットの稼働状況を見て、使用されていなければ、「エラーっぽいですが、大丈夫ですか?」と問い合わせたりしている。不満や要望があれば改善する。

まるで社内向けに、一つのサービスを展開しているようだ。ある段階でロボットの開発自体は少なくて済むようになるが、保守・改善はずっと必要だ。それが、小栁氏が「ロボット人事部がなければ、RPAはブームで終わりかねない」と指摘する理由だ。

取引先にも効率化の手法を提示

他方、RPAによって単に効率化できただけではなく、社内の働き方を変えるために会社がこれだけの投資をし、本気の姿勢を見せたことで社内の雰囲気も変わったと、ビジネスプロセスマネジメント局の髙橋統氏は語る。

『22時に電気を消します』と言われても、そういう時に何も具体策がないと、とにかくどうにかしろ、みたいな話になる。そうした意味でも、ロボットによって具体的な時間創出の方法を提示できたことは大きい」(髙橋氏)

電通髙橋統

具体的な時間創出の方法を社員に伝えられたことは大きかったと語る髙橋氏。

実際、ロボットへの投資を皮切りに、会社の中で無駄をなくすための改善策が相次いで提案されるようになったという。

「『媒体社に言わないと解決しない』と言われれば、じゃあ申し入れに行こうとか、『取引先に言わなければ』と言われれば、じゃあ業界として申し入れをしようとか、そういう動きにつながっていっている」(小栁氏)

「取引先から『うちのロボットがうまくいっていない』という相談があったら、全ノウハウを公開している。いろんな会社で効率化が進めば、直接的にはその会社からの広告の仕事も効率化できるし、ひいては他の業種にも貢献できるかもしれない」(小栁氏)

一方で、ロボット人事部のような体制をすべての企業が整えられるわけではない。

そのため、電通では他の大手ユーザーとともに、「ロボット人事部」を日本中に共有できないか模索していきたいという。

今は電通の社内SaaS(ソフトウェアの機能をネットワークを通して提供する方法)になっているが、これを日本のSaaSにしていきたい。積極的にノウハウを外に出すだけではなく、モジュール(部品)を安価に提供できないかも考えている。日本経済が人手不足や生産性の低さで停滞してしまったら、我々の取引先もいなくなってしまう。だからこそロボット人事部を積極的に広めて、少しでも日本経済の活性化に貢献できればと思っている」(小栁氏)

(文、写真・室橋祐貴)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中