サザンの桑田さんは最後の一言に注目!「仕事っぽくなくやりたい」の本音は

サザンオールスターズの桑田佳祐さんの場合、最後の一言に要注意。勝手にそう思っている。前回もそうだったから。そうしたら、今回もそうだった。

まずは、今回の話から。8月8日の「クローズアップ!サザン」(NHK)だ。

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズによる、スタジオライブ。大ヒット曲から最新曲まで13曲をたっぷり聴かせて、メンバーへのインタビューも織り交ぜた70分。硬派の看板番組「クローズアップ現代」の冠を貸し出すということで、NHKの力の込めぶりが分かろうというもの。桑田さんも、オープニング曲「茅ヶ崎に背を向けて」の最後の歌詞を「おかげさまで40年。ここは天下のNHK」とシャレを効かせたアレンジで返礼した。

「あの、もう、仕事っぽくなくやりたい」

800人というファンを前にしたライブの合間に、インタビューがはさまれる。歌う桑田さんはアロハシャツだけど、答える桑田さんはジャケットにネクタイ。サザンの未来を尋ねられ、「新曲を作りたい。ポップグループの命だから」と答える。

メンバーたちのコメントからは仲の良さと真面目さ、桑田さんへのリスペクトぶりが伝わってきた。「いとしのエリー」「ミス・ブランニュー・デイ」などオールドファンの聞きたい曲がたっぷり入って、ラスト13曲目はやはり「勝手にシンドバッド」だった。

ノリノリで「ありがとー」と桑田さんが叫んで、ライブは終わり。画面下にはクレジットなども出て、番組終了モードとなったところで、桑田さんのインタビューに切り替わる。

「ずーっと思ってきたんだけどね」と桑田さん。「あの、もう、仕事っぽくなくやりたい、活動を」

え、なに? 脱仕事? 真面目な表情だ。

音楽ライブのイメージ

今回の番組を見て、2013年夏のことを思い出した人もいるのでは(写真はイメージです)。

Getty Images

「ずーっと思ってきたんですけどね。いつか言おうと思ってたんだけど」と桑田さんが続けると、インタビュアーらしき声が「いい機会」と入る。すると、桑田さん、ちょっと調子を変えてこう言う。

「あー、ウソだからね。仕事します」

そして神妙に頭を下げてみせ、ふふっふふっと笑う。番組が終わった。

終わりに、何かちょっと、意味深な一言。前回のことが、すぐに頭に浮かんだ。

「コンプライアンスをぶち破ろう」

それは2013年の夏。

5年ぶりにサザンが新曲「ピースとハイライト」を出した。2008年に「無期限活動休止宣言」をし、2010年に桑田さんが食道がんを手術。だから「帰ってきたサザン」は大歓迎された。お祭り騒ぎと言っていいくらいの中で放送されたWOWOWの特番を見た。無料放送だったが、プロモーションビデオのメイキング映像なども楽しく、最後に有料放送の案内があるのは当然で、締めくくりが桑田さんの一言だった。

ビル群

「コンプライアンス」という言葉はいつからここまで大きな顔をするようになったのだろうか。

撮影:今村拓馬

「コンプライアンスをぶち破ろう」

桑田さんは、そう言った。突然、何の脈絡もなく。それで番組が終わった。え、何?

その頃、ビジネスの世界で大手を振るい出したのが「コンプライアンス」だった。顧客、株主、取引会社、世論、そういうものを刺激しないでね。それが意味するところで、「縮こまれ」と同意義だよね、つまんないの。そう思っていたから、「さすが桑田さん、分かってる」と溜飲を下げた。が、ことはそれでは済まなかった。

2014年12月31日、サザンは紅白に出場した。彼らの大晦日年越しライブ会場からの中継だった。歌ったのは「ピースとハイライト」。

「何気なく観たニュースでお隣の人が怒ってた」で始まるその歌は、日本と中国、韓国の関係を示唆し、「歴史を照らし合わせて助け合えたらいいじゃない」という歌詞もあった。2013年に出した時はタイアップもついたし、問題視する人はいなかった。が、紅白で歌ったことで違う事態が起こった。

無意識のうちに警戒していたのだろうか

夜の国会議事堂

何か窮屈な空気が社会を覆っている。

撮影:今村拓馬

「安倍政権批判だ」「反日だ」と反応をする人々が現れ、桑田さんがチョビ髭をつけて歌っていたとか、前年にもらった紫綬褒章を持っていたが不敬じゃないかとかワーワー騒がれ、所属会社のアミューズに街宣車がやってくるまでになった。結局、株式会社アミューズと桑田さんが連名で「サザンオールスターズ年越しライブ2014に関するお詫び」という文章を出した。1月15日のことだった。

アーティストが曲を作り、ライブで歌った。どんな格好で歌おうが、それはアーティストの表現だ。センスは本人に返ってくる。お詫びする必要など全くない。桑田さんが喜んでお詫びしたとは思えない。アミューズという一部上場企業の「コンプライアンス」精神と大きく関係していたのではないか。

WOWOWで「ぶち破ろう」と言った2013年、2年も経たずにその「コンプライアンス」にしてやられるとは桑田さん自身、思ってもいなかったろう。だけど、「コンプライアンス」というものに何か嫌な雰囲気を感じ取り、無意識のうちに警戒していた。だから「ぶち破ろう」が出た。勝手にそう思っている。

さまざまな矛盾やストレスと戦いながら

と、ここからは「クローズアップ!サザン」に戻る。40周年に出した新曲3曲のうち2曲が歌われた。そのうちの1曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」には、こんな歌詞があった。

ビジネス街のイメージ

みんないろんな矛盾やストレスを抱えながら、それでも働いている。

撮影:今村拓馬

「自分のために人を蹴落として 成り上がる事が人生さ」「しんどいね生存(いきて)競争(いくの)は 酔いどれ涙で夜が明ける」

ナレーションがこう入った。

「さまざまな矛盾やストレスと戦いながら、現代社会を生きている人へのメッセージソング」

だけどテーマは、もう少しはっきりしているのではないだろうか。繰り返されるフレーズはこうだ。

「さあ、おいでタフな野郎は 根性ねえ奴ぁオサラバ Night and Day この企業(ばしょ)で 闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」

企業という場所が、働く人たちを追い詰めている。そのことをはっきり、桑田さんは歌っている。

そして最後に言った一言が、「仕事っぽくなくやりたい、活動を」。

「ウソです」と言っていたけれど、すでに桑田さんの嗅覚は何かを感じ取っているに違いない。きっと後から「ああ、このことだったか」と分かるはずだ。


矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

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