グノシー、bitFlyer……投資家・木村新司が没頭する投資領域 —— シンガポールライフを守る理由

木村新司 —— 起業家であり投資家、今年で40歳。これまでに約40社のスタートアップに自らの資金40億円あまりを投資してきた。「トリプル40」だ。

木村新司氏

「投資もやるし、事業もやるし、両方できるから事業もうまくいくと思っています」(木村新司)

撮影:今村拓馬

2006年の*ライブドア・ショックを経て、2008年の*リーマン・ショックの渦の中で資金調達を行い、東日本大震災に揺れる2011年に自らが作ったスタートアップ、アトランティスを売却。その後、自己資金を使って投資を本格化させると、木村はGunosyやWantedly、bitFlyer、メドレーなどへの投資を行ってきた。

2014年から家族とともにシンガポールでの生活を始めると、投資を事業の一つに位置づけ、日本に限らずインドやインドネシアなどの経済成長率の高い国々での投資活動を拡大している。愛妻家、子煩悩でも知られる木村がいま没頭する投資領域とは?シンガポールでのライフスタイルを大切にする理由とは?東京で話を聞いた。


ソーシャルは投資情報の宝庫

—— 木村さんは投資エリアやターゲットを探る時に、どんなところから情報を取るんですか?やはり投資家ネットワークを活用したり?

木村:僕はあまり投資家ネットワークの中にはいないんです。自分がこういうマーケットだとか、こういう事業が伸びるだろうなと思うところを決めて、そこに関係している会社に声をかけていって投資をすることをやっているので、ネットワークの中から集まって、少しお金を出させてもらってというのではない。

木村新司氏

「僕はあまり寝ないんです。起きればすぐに考え始めるんです。疲れる時はあるけど、この生活を謳歌してます」

撮影:今村拓馬

そっちの方が人より先に気づくことができるし、人のバイアスもかからない。自分の目線で見抜けるというか、投資を決められるので。

今は投資チームがいますが、シンガポールに移った当初は自宅で自分で投資テーマを決めて、会いに行って投資をしていました。*ブルームバーグの端末は今はあることはあるんですよ。ただ、ほとんどはソーシャルで、ツイッターやフェイスブックでみんながどういう風に考えているんだろうとかをすごく見てますね。実はあまり人と会わないんですよね。

ライブドア・ショックとは:2006年1月、証券取引法違反の疑いで、東京地検がライブドアに強制捜査を敢行。これが引き金となり、ライブドア関連銘柄の株価は暴落し、市場全体に波及した。


リーマン・ショックとは:2007年のアメリカで起きたサブプライム住宅ローン危機は、翌年にリーマン・ブラザーズを経営破綻に追いやり、世界的な金融危機を起こした。英語では「the financial crisis(金融危機)」と呼ばれるが、日本では「リーマン・ショック」として知られる。


ブルームバーグとは:ニューヨークに本社を置き、金融、経済、企業、商品(コモディティ)などに関する情報を配信する情報サービスの世界大手企業。独自のアプリケーションを使った情報端末には、インターネット経由の「ブルームバーグ・エニウェア」と、ユーザーが主に社内で利用する固定端末の「ブルームバーグ・プロフェッショナル」サービスがある。

平日の1日は本を読む日

—— 1週間の時間の使い方を教えてください。

木村:投資チームと時間を使うのが週の半分くらいです。投資先企業とのインタビューを残りの半分でやっている。平日の1日は自分で本を読んだり、調べ物をしたりします。

僕はあまり寝ないんです。起きればすぐに考え始めるんです。疲れる時はあるけど、この生活を謳歌してます。それを15年やってきてるから、やめようにもやめられないです。投資もやるし、事業もやるし、両方できるから事業もうまくいくと思っています。

—— 木村さんの投資家、起業家としての目的、ビジョンは何ですか?

木村:一つには人を育てたいというのがあって、*AnyPayでもそうですけど、全てを自分がやるのではなくて、経営の仕方とか、成功する人が増えるように、それを教えてあげられたらと思っています。

投資の成功、事業の成功はほとんど考え方だと思います。物事の考え方が大事で、その考え方や努力を継続させることを身につけると、ほとんどの人が成功するだろう。僕が身につけてきたことをみんなに教えられたらなと。

AnyPayとは:木村氏が2016年に創業した、割り勘アプリやオンライン決済、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)のコンサルティングなどを手がけるフィンテック・スタートアップ。

「失われた30年」のその後の日本

東京の地下鉄

「日本はITと金融で勝つことができなかった。であれば、その次をいかに作るかというのが重要だ」(木村氏)(写真は東京の地下鉄)

撮影:今村拓馬

2つ目として、産業の構造が変わっていかなければいけないと思っています。

働き方もそうですが、いわゆる昭和時代的な働き方の歪みや問題点が今すごく出てきている。モビリティ(移動手段)やフィンテック、ライフスタイル、都市設計でもそうですけど、今までとは違う生産性や効率性の高い社会を作っていかなければいけない。

「失われた30年」になるかもしれないけれど、日本はITと金融で勝つことができなかった。であれば、その次をいかに作るかというのが重要だなあと思っています。

工場は東南アジアや中国に移り、製造業はかなりとられていきました。金融では、そこまで日本はとれなかった。ITではシリコンバレーに大きく差をつけられた。中国・深センでは新しいテクノロジーを駆使した都市設計がされてきていて、人の暮らしが効率的になってきている。

一人当たりの効率性が上がると、人件費は増えていって、そうするとまたテクノロジーが発展していく。これは繰り返されることだと思います。

日本は変わるタイミングに来ていますよね。でも変わらなかったら、産業革命ができなかった国になってしまいます。過去の遺産で食いつないでいくのは厳しくなります。次のテクノロジーと社会の効率化、生産性を上げていくために、若者にお金が回ってきて、若者にチャンスがあるという状況だと思う。ベンチャー投資は積極的になってきているので、若者にとっては非常に良いタイミングだ。

ブロックチェーンとモビリティ革命

シェアリング・スクーター

シェアリング・スクーターのサービスを運営するLime(カリフォルニア州に拠点を置く)。

REUTERS/Gonzalo Fuentes

—— ビジョンを聞くと、木村さんがフォーカスする投資エリアが見えてきますね?

木村:そうですね。大きく分けると2つの領域を見ていると思います。GunosyとAnyPayが一緒にやっていきますけど、ブロックチェーンと仮想通貨の領域が一つ。ブロックチェーンで金融は大きく変わるだろうと思っていて、お金と若い人材はこの領域に多く入ってきていますよね。

もう一つは、モビリティとシェアリングエコノミーの部分が流れとしては大きいと思っています。Airbnbもそうですけど、今まではホテル業とか「業」をやらないとできなかったのが、個人が家を貸せるようになったり、車を貸せるようになったりできるのは大きな変化です。

特にモビリティのところですが、飛行機があって、電車があって、車があって、これをいかにつなげていくか。電車を降りてからのラストワンマイルのモビリティというのもありますし、それを全てシェアして一つのサブスクリプションで最短距離で乗れるみたいなサービスは出てくるだろうなと思います。そのために、シェアリング・アセットみたいなものが世の中にもっと必要になるだろうと思っています。

インド・ムンバイの交通渋滞

インド・ムンバイで頻繁に見られる交通渋滞。

REUTERS/Shailesh Andrade

僕たちが一番投資を大きくしているのがインドです。日本は多くの人が車を持っているけれど、インド、インドネシアだと車の保有率は10%以下なんです。新しい町を定義するのは、そちら(新興国)の方が速い。自動車ローンも整っていないので車を買うのも大変だから、シェアリングカーでいいよとなる。そこから、新しい都市デザインやモビリティ・デザインが作られていくと思っています。

AnyPayグループでは現在、3000台くらいの車とバイクをインドで展開していて、少しずつシェアリングエコノミーの中に入っています。次の2、3年で、他からの資金も含めて200億円くらい投資できればと思っています。このくらい投資しないと変わらないんです、モビリティは。例えば、インドで10000台の車を増やそうと思うと、100億円は必要なんですよ。それくらいモビリティ革命にはお金がかかるんです。

週末は働かないシンガポールでの生活

—— シンガポールでの生活で大切にしていることは何ですか?

木村:今までの日本の働き方みたいに、土曜日も日曜日も働くようなライフスタイルは成り立たないと思うし、家族も幸せにならないし、自分が子供に伝えたいことも伝わらないだろうなと思います。忙しくしていないと結果も出せないけど、同時に家族も大切にしていくことは僕がやらなければいけないこと。

AnyPayもGunosyもそうなんだけど、作った時から「土日は働くな」と言って、ずっとやっているんですよね。そうでもしないと日本人は仕事ばかりしすぎてしまう。家庭とか子供を顧みないということを変えていく必要がありますよね。リーダーの人がそうしないといけないですよね。

木村新司氏

「日本は変わるタイミングに来ていますよね。でも変わらなかったら、産業革命ができなかった国になってしまいます」

撮影:今村拓馬

例えば、スタートアップだから給料が低くて、日本の優秀な人材がスタートアップに入ってこないという事実は、シリコンバレーとは大きく違うところです。土日も働いてなんていうのでは、サステナブルにイノベーションが起きる仕組みにはならないので、やっぱりバランスが取れた、根性だけの世界ではないものを作らなければいけない。

それをやらなくても稼いでいるのが海外の人たちだと思います。

シンガポールは、皆が多様性の中に生きています。文化の多様性もそうだけど、失敗もあってもいいし、成功もあってもいいし、それぞれ違う人たちを受け入れる社会はいいですよね。

—— 投資家・起業家としてシンガポールに住んで、贅沢を求めたりしないんですか?

シンガポールのオフィス街

シンガポールのオフィス街を歩くオフィスワーカー。

REUTERS/Edgar Su

木村:ないですね。時計も買わないし、服も買わないです。それより、考え事をしている時間の方が長いです。新しいテクノロジーを見たりだとかね。(敬称略)

(インタビュー、構成:佐藤茂)

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