マネーフォワードとSBIにあって、レガシー金融機関にないもの——企業にとって「本業」とは何か

メガバンク

金融庁が先陣を切る形でフィンテック分野への投資環境を整備した日本だが、現状は世界に大きく遅れを取っているのが現状だ。

撮影・今村拓馬

本業をすばやく変化させ、ビジネスモデルを変革していく「メタモルフォーゼ型」企業が世の中を席巻している。前回記事では、ゲーム業界について「モバイルゲーム一本足打法型」企業と比較し、メタモルフォーゼ型の優位性を確認したが、今回は金融業界に目を向けてみたい。

参考記事:「スマホゲーム一本足打法」を脱却できないゲーム会社の行く末——日本企業が取るべき「メタモルフォーゼ」という選択

日本のフィンテック投資は少なすぎる

近年の金融業界で最もホットなキーワードは、間違いなく「フィンテック」だ。2015年12月に金融庁がいち早く「FinTechサポートデスク」を設置し、翌年には「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」(銀行法改正)が成立。ブロックチェーン、仮想通貨、ソーシャルレンディングなどの新しい概念が急速に広まった。

しかし、こうした先進的な取り組みに水を差す事件が相次いで起こる。

まず、2018年1月にコインチェックが引き起こした仮想通貨不正流出事件。不十分なセキュリティ対策とずさんな経営管理体制が原因とみた金融庁は、同社を含めた仮想通貨交換事業者に業務改善命令を出すなど規制強化の方針を打ち出し、結果として今日に至るまで市場の停滞が続いている。

スルガ銀行

不正融資問題の発覚後、社員(現在は退社)による顧客預金の流用なども明るみに出たスルガ銀行。「お客さまの夢をサポートする」はずが……。

スルガ銀行HP

さらに、2018年3月。ネットを通じた全国展開と個人向け融資に特化する戦略で業績を拡大し、金融庁から「地方銀行のお手本」と称賛されたスルガ銀行に、不正融資問題が発覚した。シェアハウスオーナー向け融資で書類の偽造や改ざんを重ねるなど、悪質な行為が次々と明るみに出た。

続く7月にも、東日本銀行の不正融資と手数料の不正徴収に関する問題が発覚。金融庁が業務改善命令を出した。スルガ銀行と同様、金融庁がここ数年、改革の柱に据えてきた「顧客本位の業務運営」の徹底どころか、強引な融資、手数料で荒稼ぎという旧態依然としたやり方でしか業績を維持拡大できていなかったことが露呈したのである。

フィデューシャリー・デューティー

「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」を掲げる金融機関だが、次々に発覚する不正融資問題をどう説明するのだろうか。画像は東日本銀行の「宣言」ページ。

東日本銀行HP

こうした現状が示すように、日本の金融業界のビジネスモデル革新は、諸外国に大きく遅れを取っていると言っていいだろう。アクセンチュアが2018年5月29日に公表した調査結果によると、2017年の日本におけるフィンテック企業への投資額は1億500万ドル、対GDP(国内総生産)比でアメリカや中国、イギリス、インドの30分の1程度にとどまっている。

マネーフォワードの「現時点での」稼ぎ頭

マネーフォワード

マネーフォワードの主要事業の一つ、家計簿アプリ「マネーフォワード」のサービス紹介画面。

Money Forward HP

そんな金融業界にも、他社をリードするメタモルフォーゼ型企業がいくつかある。その一つが、会計ソフト開発のマネーフォワードである。個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード」と、法人向け会計システム「MFクラウドシリーズ」を運営するフィンテック・ベンチャーで、2017年9月にマザーズ上場。時価総額は約800億円(2018年8月21日時点)となっている。

最新の2018年11月期第2四半期決算を見ると、個人向け家計簿アプリに関連する売上高(第2四半期までの累計)は、対前年同期比+38%の7億9300万円と大きな成長を遂げている。さらに、法人向け会計システムに関連する売上高(同)は+89%の11億8700万円で、個人向けを上回る伸びを見せている。

マネーフォワード決算

マネーフォワードの2018年11月期第2四半期決算で示された、主要事業の順調な成長を示すグラフ。

Money Forward

しかし、メタモルフォーゼ型企業であるマネーフォワードは、これらの好調な主要事業に安住することはない。同社はすでに、個人・法人向けのいずれにおいても、まったく新しいビジネスモデルを描き始めている。

仮想通貨、リアル店舗、回収代行……新規事業が続々

個人向けサービスで注目すべきは、「マネーフォワード(MF)フィナンシャル」の設立だ。ブロックチェーン・仮想通貨に関するメディアの運営、仮想通貨交換所の開設、さらには「法定通貨や電子マネーなどあらゆる決済手段がつながる送金・決済プラットフォームの構築」を目指すという。既存サービスと絡めて、ユーザーのお金に関するあらゆるニーズに応えるのが究極的な狙いだ。

参考記事:マネフォ仮想通貨事業を本格化——メディア開設は2018年夏、交換所との連携を拡大

mirai talk

お金の相談窓口「mirai talk」のサービス紹介画面。ビジネス誌などで人気の「家計再生コンサルタント」横山光昭氏を監修者に迎えた。

mirai talk

また、東京・新宿にオープンさせたお金の相談窓口「mirai talk」にも、筆者は注目している。家計簿アプリに蓄積された大量のデータを活用し、ユーザーそれぞれに最も適したファイナンシャル・プランニングを提供する試みだ。実際、650万人を超える(2018年5月末時点)ユーザーの膨大なデータが持つ価値は計り知れず、既存の金融機関の対人型サービスを超える存在になっても何の不思議もない。

一方、法人向けサービスで注目したいのは、2017年6月に始めたファクタリング(売上債権の回収代行)を行う企業間後払い決済サービス「MF KESSAI」だ。ユーザーが入力した取引データに基づき、マネーフォワードの子会社であるMF KESSAIが売掛金の回収を代行。ユーザーは実際の回収を待たずに最短5営業日で入金を受けることができるため、資金繰りの安定につながる。8月には中小のソフトウェア開発事業者向けのファクタリングを行うことも発表している。

MF KESSAI

マネーフォワードの企業間後払い決済サービス「MF KESSAI」サービス紹介画面。売上債権の回収代行事業(ファクタリング)という強力なツールが追加された。

MF KESSAI

同じ金融業界でも、急成長に満足することなくビジネスモデルの革新に挑み続けるメタモルフォーゼ型企業が、手数料収入で「高利多売」型のビジネスに執着する金融機関とは、まったく異なる事業展開を行っていることが際立つ例ではないだろうか。

SBIは注目のグローバル投資案件が目白押し

もう一つ、フィンテック分野に積極的な投資を続けているメタモルフォーゼ型企業が、SBIホールディングスだ。同社は住信SBIネット銀行、SBI証券といったネット金融の先駆者だが、いまや銀行や証券といった枠を超えて、投資会社あるいは投資ファンドの運営会社とも言うべき立ち位置にシフトしている。

SBIの大きな戦略については、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授がBusiness Insider Japanに書いているので、以下のリンクを参照いただきたい。本稿では、筆者が注目する最近の投資を紹介しておこう。この数カ月だけでも重要な案件がいくつも出てきている。

参考記事:SBI決算から見えた“旧態依然”金融業界の終わり——「エクスポネンシャル企業」が破壊するもの

ベトナム「Sendo」

「ベトナムのメルカリ」と呼ばれる、CtoCオンラインマーケットプレイス最大手「Sendo」のサービス画面。SBIの先行投資はさらなる起爆剤になるか。

Sen Do Technology

注目すべき投資としてまず挙げたいのが、「ベトナム版メルカリ」を運営するSen Do Technologyへの出資。2014年12月に続く追加投資を2018年8月に行い、出資比率は20.8%になった。同社はベトナムの大手IT企業であるFPTグループ傘下の企業で、年間流通額は366億円相当に達する(メルカリの国内流通額は約2300億円)成長株だ。

さらに、シンガポールでロボットによる業務処理自動化サービス(RPA)を展開するAntWorksに1500万ドルを出資したのに加え、同社との合弁会社設立を発表していることにも注目したい(2018年7月)。また、人工知能(AI)を活用した投資家向けのトレーディングシステムを提供する、アメリカのPotamusにも出資比率15%となる投資を行っている(2018年6月)。

投資ファンドについては、2015年12月に300億円を集めたFintechファンドからの投資先が早くも評価益を計上してSBIの業績に寄与しているが、何より2018年1月に設立した「SBI AI&Blockchainファンド」の存在が際立つ。

ファンドに名を連ねた地方銀行

合計800億円超の大規模ファンドとなった「SBI AI&Blockchainファンド」と「Fintechファンド」に出資した地方銀行のリスト。SBIと地方金融機関の強力なネットワークは、今後どんな展開につながるのだろうか。

SBI Holdings

地方金融機関40社に加え、機関投資家や大手金融機関、企業年金基金などから500億円を集め、募集上限を600億円に拡大。22社に対して約87億円を投資することがすでに決まっており、今後の動きから目が離せない。

店舗の自動化や統合再編、ATMの削減など、非効率極まりない従来のオペレーションをいかに改善するかといった足下の問題に絡め取られている旧態依然の金融機関と、事業の柱を柔軟に変化させ、多角的なビジネスモデルを生み出すことに挑戦し続ける、マネーフォワードやSBIのようなメタモルフォーゼ型企業との差は、今後ますます大きくなっていくに違いない。

次回は、小売業界のメタモルフォーゼ型企業を見てみることにしよう。


森泰一郎(もり・たいいちろう):森経営コンサルティング代表。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。中堅企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略の立案、M&Aコンサルティングを行う。

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