【バスケ不祥事】性売買への意識「最低ランク」の日本——世界のスポーツ界で進む反売買春活動との格差

ジャカルタ・アジア大会のバスケットボール男子日本代表選手4人が公式ウェアで市内の歓楽街を訪れ、買春行為に及んだことが発覚。代表認定が取り消され、事実上の選手団追放というかたちで帰国させられた。

あまりに自覚のない行動は当然批判されるべきだ。ネット上には意外にも「提供したインドネシアが悪い」「選手はある意味被害者」などと、売春した側を責めたり、買春した選手を擁護する声もある。

売買春を容認する10、20代

バスケットボールのイメージ

アジア大会での不祥事が明らかなったバスケ界(写真はイメージです)。

Getty Images/MakiEni's photo

「日本は悪い意味で性風俗におおらかな国。だから(選手団を追放された)4人も買春することに抵抗がない。売買春の裏には人身取引や児童買春などの犯罪が必ず潜んでいる。自分の行動に責任を感じないのは社会で容認されているからでしょう。JKビジネスは高校生が悪い、AV強制出演問題は出たい人たちがいる、と。でも、高校生を性暴力から守るのが大人の役目であり、AVに出演する人たちについても、多くの出演者が騙されたり、脅されたりして強制出演させられていたことが明らかになっています」

そう話すのは、特定非営利活動法人「ライトハウス」代表の藤原志帆子さん(37)。児童買春、売春やアダルトビデオ(AV)出演への強要といった人身取引被害者を15年近く支援している。

歓楽街のイメージ

Getty Images/tobiasjo

「特に、中高年より10代、20代の若者が性の売買に寛容なのは悲しい事実です」

国立女性教育会館リポジトリが2011年に報告した売買春意識調査によると、男性が性的サービスを買うことを「仕方がない」と考える割合は、10~20代男性で約65%。30%台の60代と比較すると容認派は倍近くいることになる。この傾向は女性も同様で、60代が20%台後半なのに、10~20代は50%と、若い女性の半分が男性の買売春を「仕方ない」と考えている。

本来なら、人権教育が進んできた現代に育った若者のほうが売買春を否定するはずだが、実情は真逆だ。セクハラについて諸外国は高齢者よりも若年層が敏感なのに対し、日本の若年層は高齢者よりもハラスメントを容認する傾向にある。

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バスケ不祥事の背景には、若者のゆるい買春意識が横たわる。今回のバスケ選手の買春問題についても、SNS上に「選手村でわがまま言うな」「ウェアを着ていたからNG」といったコメントも並んだが、問題を履き違えてはいないか。

東京五輪で性売買のトラブル頻出も

「このままでは、2年後の東京五輪で性売買のトラブルが頻出するのではないか。海外から来た観光客をターゲットにした性産業が活発になる恐れもあるし、脆弱な環境にいる子どもや若者が人身取引の被害に遭いやすい環境にもなる。他国から指摘を受けるのではないか」

そんな不安を訴える藤原さんによると、五輪やサッカーのW杯といったスポーツのビッグイベントを開催しているときは、買春の需要が高まる傾向があるという。選手や観客に男性が多いうえに、開催期間が長いからだ。

このことは以前から問題視されており、海外の人身取引防止団体が実施する「It's a penalty」(イッツ・ア・ペナルティ)という買春に反対するキャンペーンはサッカーW杯や五輪に合わせて展開されてきた。特徴的なのは、トップアスリートたちがこの運動をサポートしていること。ウサイン・ボルトやサッカーのブラジル代表だったダビド・ルイス、ラグビーのイングランド代表マロ・イトジェ、Jリーグ名古屋で活躍したゲイリー・リネカーらが名を連ねる。

規模が大きくなったのは、2014年のW杯ブラジル大会からだ。児童買春が社会問題化していた同国はこのあとのリオ五輪も開催。選手らが協力した「買春に加担するな」「子どもを守れ」と訴える公共広告ビデオが流され、ポスターが貼られた。キャンペーンは冬季五輪平昌大会でも継続された。

スーパースターがこのような活動をサポートしていることを、あの4選手は知らなかったのだろうか。

米国務省が6月に発表した人身取引報告書によると、日本は買売春などの人身取引問題への対応が「最低基準」として2018年「第1ランク」に。報告開始から18年目にして初めてで、これまでは米国当局の監視対象の第2ランク国だった。藤原さんが活動するライトハウスらの尽力もあって、AV出演強要やJKビジネスなどの課題への対応が認められたものだが「あくまで最低基準。第1ランク(39カ国)のなかでもかなり低いほうだと思う」(藤原さん)。

よって、日本に関する指摘は以下のような厳しい文言が並ぶ(米大使館・領事館HPより一部抜粋)。

「政府は最低基準を満たしてはいるが、より軽微な刑の法律に基づき人身取引犯を訴追し、裁判所は多くの場合刑務所に収容せずに刑の執行を猶予した。性的搾取目的の児童の人身取引や強制労働が疑われる事案の多くは、刑事捜査や刑事訴訟を通じてというよりも、行政処分や営業許可の取り消しにより処分された」

つまり日本は、人身取引の加害者がきちんと罰せられない国だと指摘されている。「軽微な刑の法律」の下、「刑の執行を猶予」している国から、他国で買春をするアスリートが現れたのはある意味自然なことなのだ。

東京五輪の公式マスコット、ミライトワ

選手や関係者はいかに多くのメダルを取るかだけでなく、五輪が重視する人権問題の解決についても考える必要がある。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

サッカーやラグビーのW杯や五輪を開催しながら、FIFA(国際サッカー連盟)やIOC(国際オリンピック委員会)が最も重要視する人権問題を、選手や関係者は果たして十分に理解しているのだろうか。


世界に大きく後れを取る日本の権利意識

国際基準との乖離は性売買の問題だけにとどまらない。

東京五輪の選手村や会場で提供される食事で使われる畜産物「調達基準」の動物福祉のレベル(アニマルウェルフェア)が、過去の大会と比べて非常に低いことが指摘されている。世界最大のスポーツイベントである五輪は今や環境や社会、人権や動物に配慮することが求められている。

例えば卵でいうと2012年ロンドン五輪では、放し飼い以上(放し飼いもしくはオーガニック)の卵が提供された。2016年リオデジャネイロ五輪ではケージ飼育ではない(平飼い・放し飼い等)ものだ。

養鶏場

日本では一般的なバタリーケージ飼育による養鶏は多くの国で廃止されている。

Getty Images/iryouchin

ところが日本は、東京五輪では現時点で飼育方法の規定はなく、「バタリーケージ飼育」(ケージの中に鶏を入れ、それを何段かに重ねる日本では一般的な飼育方法)の卵も可となっている。バタリーケージ飼育は、欧米、中南米、南アフリカ、韓国などでは動物福祉の観点から廃止されている。

アニマルウェルフェアも、イッツ・ア・ペナルティも、もしかしたら日本では理解してもらえないかもしれない。藤原さんも「世界の人たちがなぜ気にしているかがわからないのでしょう」と話す。

だからこそ、これからラグビーW杯や五輪を開催する国の責任として、スポーツ界がリードしていかなくてはいけないのではないか。

女子レスリング、アメリカンフットボール部員の悪質タックルを機に問題が噴出した日大、そして、ボクシング連盟の会長問題。この半年間、スポーツ界の不祥事は引きも切らない。

問題報道で組織改革の見本として挙げられたのが、日本バスケットボール協会だった。分裂した2リーグがBリーグに1本化され、野球、サッカーに次ぐスポーツビジネスへと期待されるなか、今回の不祥事が起きた。ドラスティックな変化に、すそ野が置き去りにされてはいないだろうか。

目の前の事象がフェア(正しい)か否かを判断する力を育てる育成環境は整備されているのか。指導者の質の担保は?仕組みの改革は?

不祥事のピンチは、そんなことを改めて見直すチャンスかもしれない。


島沢優子:フリーライター。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。週刊誌やネットニュースで、スポーツ、教育関係をフィールドに執筆。『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『部活があぶない』など著書多数。

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