地方創生の切り札はフィンテックであると言える理由——SBIの「地銀再興」戦略が教えてくれること

地銀のイメージ

閉塞感に苛まれる地域金融機関が「再興」を遂げるには、テクノロジーの導入がカギを握る。問題は、どうやってそれを実現するかだ。

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地域金融機関が隘路(あいろ)に陥っていると言われます。

日本銀行の超低金利政策が長期化し、本業である融資からの収益が低迷。それ以前から地方共通の課題だった人口減少と相まって、存続を危ぶまれるケースも出てきています。金融庁の調査(2017年3月期決算ベース)によれば、地方銀行106行のうち半数を超える54行が本業で赤字に陥っているとのことです。

朝日新聞が2018年7月に地銀90行を対象に行ったアンケート調査(複数回答可)によると、地銀の8割以上が「日銀の金融緩和の長期化」と「地域の人口減少」を経営の懸念材料として挙げています。また、5割以上が「収益力向上の難しさ」を訴えていることからも、地銀の苦しい経営状況が実感されます。

業績維持を期する重圧から、組織そのものにも軋みが生まれ始めています。「地銀の雄」と呼ばれたスルガ銀行では、2018年3月に審査書類改ざんなどの不適切融資問題が発覚し、その規模は1兆円にのぼるという報道もありました。7月には、東日本銀行でも不適切な融資や手数料の不正徴収が明るみに出ています。

スルガ銀行ホームページ

ネットを通じた全国展開と個人向け融資に特化する戦略で業績を拡大してきたスルガ銀行だったが、経営管理体制に生じた軋みが不適切融資問題へと広がっていった。

スルガ銀行HP

「県境を越えた再編などに活路を求める動きもある」(毎日新聞2018年8月22日)とは言うものの、延命策にこそなり得ても、課題の根本的な解決につながるとは到底思えません。

SBIと地域金融機関の提携は1年半で30行に

そうした状況の中で、地銀との連携を通じて地域の活性化を実現しようという前例のないプロジェクトが本格化しつつあります。前々回の記事で、これから爆発的・飛躍的成長を遂げる「エクスポネンシャル企業」と位置づけたSBIグループがその旗振り役です。

参考記事:SBI決算から見えた“旧態依然”金融業界の終わり——「エクスポネンシャル企業」が破壊するもの

同社の躍進を支える「グローバル」「ローカル」「エクスポネンシャル」という三つの要素のうち、最後にご紹介したいのが「ローカル」における戦略です。その手法はいずれも斬新かつ網羅的で、地銀の収益力を上げるだけにとどまらず、地方のビジネスのあり方をまるごとアップデートするという、壮大ながら考え抜かれた戦略なのです。

世間ではなぜかあまり知られていませんが、実はSBIグループはここ数年、地域金融機関との提携を積極的に進めてきました。

清水銀行ホームページ

2017年3月にSBIの「地方創生事業」として最初に提携を結んだ清水銀行のサービス画面。SBIが仲介したBASEとの提携プロジェクトが大きく宣伝されている。

清水銀行HP

2017年3月の清水銀行との提携を皮切りに、2018年8月までのわずか1年半で30行との提携を実現し、SBI証券が取り扱う金融商品やオンラインサービスを地域金融機関の顧客に提供する仕組みを構築。とりわけ、清水銀行・筑邦銀行とは現地に共同店舗を構え、地方の顧客にワンストップサービスを提供することで、預かり資産や口座数を増やしています。

グループのSBI損保が提供する火災・がん・自動車などの保険商品や、SBI生命が住宅ローン向けに提供している団体信用生命保険(いわゆる団信)を、地域金融機関が取り扱うケースも2018年夏から急増しており、SBIグループと地域金融機関の関係は実績をもって強化されつつあると言っていいでしょう。

地方銀行に投資し、フィンテック導入支援の足がかりに

SBIの資産運用

地域金融機関に投資する「SBI地域銀行価値創造ファンド」の概略図。

SBI Holdings

このような地方との関係強化をベースに、SBIグループはより具体的な地方銀行のサポートに動き出しました。2018年1月に設立された「SBI地域銀行価値創造ファンド」はその最重要の一角です。

日銀の超低金利政策や人口減少の加速に苦しむ地方銀行ですが、最先端のテクノロジーを活用できれば企業価値を向上できる可能性は(すべての地方銀行ではないにせよ)十分にあります。そうした期待のできる地方銀行に投資(=株式を取得)し、SBIグループが保有するフィンテック関連などの技術を導入し、企業価値を向上させて投資資金を回収するという息の長い取り組みが、このファンドの持つ意味なのです。

SBIはこの価値創造ファンドに100億円を出資。他の適格機関投資家からの出資も加え、最大で1000億円という大規模なものになります。

また、地域金融機関との共同出資で立ち上げた資産運用会社「SBI地方創生アセットマネジメント」も、具体的なサポートの一つです。SBIグループの抱える資産運用ノウハウを活用することで、地域金融機関が提供する自己資金と顧客預かり資産の実際の運用に貢献し、なおかつ共同出資会社の運営を通じて、地域金融機関の運用実務を担う人材育成を支援することもできる、一挙両得の取り組みと言えるでしょう。

「グローバル」展開の果実を「ローカル」に還元

SBIのFinTechプラットフォーム

合弁会社SBIフィンテック・インキュベーションが運営する「フィンテック・プラットフォーム」の概略図。

SBI Holdings

これらの多様な取り組みの肝は、何よりフィンテック導入を推進し、地域金融機関のサービスの高度化を図ることにあります。

前回記事で、仮想通貨を含むデジタルアセットは、SBIにとってあくまで「グローバル」展開のためのツールでしかないと書きました。優れた技術を持つ世界のデジタルアセット関連企業への出資とそれを通じて結集された技術、そのような「グローバル」展開の果実を「ローカル」に結びつけることが、地方における営業基盤の強化につながるとSBIは判断したわけです。

そのための体制構築をSBIは急速に進めており、その核になるのは、SBIホールディングス(60%)とソフトバンク(20%)、日本IBM(10%)、凸版印刷(10%)の合弁会社であるSBIフィンテック・インキュベーションが運営する「フィンテック・プラットフォーム」です。地域金融機関はこれを導入・接続することで、SBIの出資先をはじめとする国内外のフィンテックベンチャーが提供するサービスとその機能を、低コストで自在に活用できるようになるのです。

フィンテック・プラットフォーム以外にも、アメリカのネオバンク(提携金融機関向けにフィンテックなど新たな価値を提供する企業)Movenが開発するモバイル専用の銀行アプリをカスタマイズして提供したり、スイスのFinance Appが運営する保険商品仲介アプリ「Wefox」を活用した保険コンサルティング支援プラットフォームを提供したり、地域金融機関がサービスを高度化させるために必要な多岐にわたるサポートが準備されています。

銀行の新たなビジネスモデル

第二地方銀行協会

地域金融機関が従来の株式持ち合いや護送船団方式のビジネスと訣別し、テクノロジーを武器に収益力を上げる日は来るのか。

撮影・今村拓馬

金融事業をネットインフラに乗せる取り組みにいち早く乗り出し、信用と実績を築き上げてきたSBIホールディングスの北尾吉孝社長が、決算発表(2019年3月期第1四半期)の席で、テクノロジーには地方銀行を再生させる大きな潜在力があると強調していたことが、私には今も強い印象として残っています。

欧米ではすでに、銀行の新たなビジネスモデルとしてプラットフォーム化の流れが鮮明になってきています。「チャレンジャーバンク」と呼ばれる新興系バンクが、オープンAPI(プラットフォーム側の汎用性の高い機能を手軽に利用できるように提供する仕組み)を推進しているのはその一例です。

顧客データを基軸とした連携。オープンプラットフォームにどれだけB2BとB2Cの流れをつくることができるかが、大きなポイントになっています。SBIはソラリス銀行というドイツのチャレンジャーバンクにも出資していますが、地銀との連携は日本からプラットフォーム金融機関が生まれる可能性を感じさせるものです。

通貨は地域を越え、同時に地域に力を与える

日本の地方と老人

急速な少子高齢化が進む日本の地方。地方金融機関は地方活性化の動力源となれるか。

REUTERS/Issei Kato

金融の基盤となる「通貨」という概念や言葉には、地域を越えてさまざまな価値観を持つ人々の差異を打ち消し、グローバル化させるパワーを感じます。そしてそれと同時に、地域(ローカル)がそれぞれの通貨で独自のパワーを持つ可能性を感じるのです。

日本の大きな課題である地方創生を考える時、もはや「グローバル」と「ローカル」を対立させる発想は意味を持ちません。そういう意味で、グローバルとローカルを金融という切り口で結びつけるSBIグループの戦略は、極めて理にかなったものと言えないでしょうか。

次に示した図は、国家やメガテック企業の競争戦略を分析する際に、筆者が使っているフレームワーク「5ファクターメソッド」を用い、SBIグループの戦略を分析したものです。

田中道昭氏の戦略図

「5ファクターメソッド」によるSBIグループの戦略分析。

各種資料と調査から筆者作成

ここですべてを解説するわけにはいきませんが、同社の躍進を説明する「グローバル」「ローカル」「エクスポネンシャル」という三つの要素が、いかに有機的に絡み合って戦略を成しているかが見て取れるのではないかと思います。

参考記事:「仮想通貨はすでに死んでいる」説をくつがえす米金融界の“ある動き”——SBIも投資を加速

この大きな戦略は、金融のためにあるのではありません。これまで3回にわたるSBI関連記事でも指摘してきたように、「革新的な技術に投資をし、金融分野を超え、戦略的な事業イノベーターとして新技術をさまざまな産業向けに拡散し、次世代の社会変革をもたらす」ことこそが、同社の究極的な目的なのです。

バーゼル銀行監督委員会は、フィンテックの急速な普及を背景に、銀行の新たな選択肢として五つのシナリオを示しています。その詳細は省きますが、いずれにしてもそこで想定される新たな金融ビジネスは、評価経済、ICO、ブロックチェーン、サブスクリプションなどとフュージョンする動きになるでしょう。

そうなると、デジタルビジネスという本業の中で金融を垂直統合しようとするアマゾンやアリババは、金融を本業とする旧来型のプレーヤーにとって本当に大きな脅威になります。だからこそ、デジタルから出発したSBIグループに私は期待しているのです。


田中道昭(たなか・みちあき):立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスMBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。主な著書に『アマゾンが描く2022 年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『「ミッション」は武器になる あなたの働き方を変える5つのレッスン』がある。NHK WORLD経済番組『Biz Stream』のコメンテーターやNewsPicksのプロピッカー等も務める。

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