「子連れ商談できない相手とは契約しない」ポストイクメン世代の公私混同仕事論

「イクメン」が流行語大賞のトップ10入りしたのは2010年のこと。男性の育休取得率はいまだ一桁台だが、この8年の間に父親になった若い世代には「育児をするのは当たり前」という価値観が浸透しつつある。

ひと昔前であれば、育児に深く関わる男性は「出世のレールを降りた人」「仕事より家庭を大切にする人」というレッテルを貼られる印象もあったが、最近は経営者の中にも日常の子育て風景をSNSに頻繁にアップしたり、自ら育休取得を宣言したりする例も増えている。

そんな変化の兆しをとらえようと、40代以下の男性経営者の子育てについて取材してまとめた『子育て経営学』が出版され 、8月8日(パパの日)に社団法人「PtoC(Papa to Children)」も産声をあげた。

台風接近の中、仕事帰りの男性たちが駆け込むようにして集まった出版記念&法人設立合同イベントでは、ポストイクメン世代の実像が見えてきた。

新世代パパネットワーク「PtoC」の新しさとは

イベントの風景

左から西村創一郎さん、筆者、柴田雄平さん、川元浩嗣さん。

PtoCは、パパ同士の自然なつながりから生まれている。きっかけは2年ほど前、人事コンサルタントであり複業研究家の西村創一朗さんが会社員時代の先輩を通じて、4社を経営するmannaka代表・柴田雄平さんと出会ったこと。NPOファザーリング・ジャパン(FJ)の理事として父親支援に関わってきた西村さんは、原則土日休みの飲食店を運営するなど「家族重視経営」を実践する柴田氏と意気投合。さらに、子育てをきっかけに大手銀行を辞めて起業したMi6代表の川元浩嗣さんも加わって、Facebookグループでネットワークを広げていった。

招待制で集まったメンバーは140人を超え、年齢は30代が中心。リアルに顔を合わせて子連れで交流する「パパ未来会議」はこれまで10回以上開催。「産後のセックスレス」「子どものためのお金の使い方」など、本音で知りたいテーマをパパ目線で語り合う。仕事も子育ても楽しむためのパパの悩みを共有し、一緒に解決するための場づくりを盛り上げている。

参加者の様子

当日のイベントの様子は会員に生中継された。

印象的なのは、彼らに全く「社会貢献のために」といった気負いや義務感がないことだ。「自分の人生として、純粋に子育てを楽しみたい。そのための仲間が欲しい」という自然な思いがベースになっているから、冗談が飛び交い、とにかく肩の力が抜けている。

父親支援団体の“老舗”といえば2006年に設立されたFJが有名だが、その活動の詳細さえ知らないメンバーも少なくなく、「父親が育児をするのは当たり前なのだから、“イクメン”という言葉には違和感がある」と口をそろえる。FJの代表理事・安藤哲也氏が設立当初から目標としていた「“イクメン”が死語になる社会の実現」を、まさに体現しているのだ。

PtoCの代表理事を務める柴田氏と川元氏は共にスタートアップの経営者。会社経営の知見を子育てに活かし、従業員が子育てしやすい環境づくりにも積極的だ。当日は、あらかじめ登壇者から挙げられた「パパ育児で気になるキーワードリスト」の中から、会場の挙手で議題が決定。絞られたキーワードは「家族間エンゲージメント」「パパの満足度」「経営と子育て」の3つだった。

新世代パパが気になるキーワード1 「家庭内エンゲージメント」

西村創一郎さん(以下、敬称略):エンゲージメントというのは、「結束」という意味。仕事を頑張りながらも子育てにも深くコミットしていきたいときには、妻との結束感をいかに高めていくかは大事なテーマですね。

柴田雄平さん(以下、敬称略):わが家では家庭内エンゲージメントを全て数値化して夫婦で共有しています。ビジネスの目標管理に使われる「KGI」や「KPI」を家庭内の行動にも導入して、エクセルシートに記入しているんです。問題解決の際には、「最低・不幸・普通・幸福・優良」の5段階で評価して、どんな行動が解決に役立ったのかを記録しています。

左に柴田さん、右に川元さん

夫婦間でのタスク管理が重要だと語る柴田さん。

川元浩嗣さん(以下、敬称略):すげー(笑)。

柴田:なぜそこまでやるかというと、うちの家族がちょっと変わっていて、僕が出張が多くて奥さんも旅好きな会社員で忙しいので、一緒に居られる時間が限られるんです。

例えば、今日は奥さんが子ども2人連れて中国に行っているですが、僕もこの後に国内出張が続き、1週間後に奥さんの実家がある鹿児島で合流の予定で(笑)。こういう生活では、夫婦間でのタスク管理が重要になります。

西村:川さん(川元さん)はいかがですか? 子育てをしていると、“夫婦間のエンゲージメントの危機”もありがちですが。

川元:ありましたね。PtoCの活動は、僕の「ダメパパからの脱却」が起点になったと言ってもいい。

川元さんが話す様子

実際に朝食作りや、娘2人の保育園へ送り迎えをしているという川元さん。

起業直後の忙しい時に、妻に負担がかかり過ぎて何度か倒れてしまったんです。ある朝、妻がなかなか起きてこないので「会社に遅れるよ」と声をかけたところ、「起きたくない」と言われた時には、鈍感な僕でもさすがに「マズい」と気づきました。週末は家族と過ごす生活を心がけてきたつもりだったので「何が足りなかったのか教えて」と聞くと、「あなたは確かに土日に家に居るけれど、ここに居ない。いつも事業のことばかり考えている」と言われて……。今では毎日朝食を作って、娘2人を保育園に送り、週2回はお迎えにも行く生活が定着しました。

西村:今はスマホでどこでもリモートワークできるから、仕事と子育ての時間の切り替えがしづらい時代になっていますよね。僕もよく「トイレ長かったね。またツイッターやってたでしょ」と睨まれます(笑)。

解決策としては、家ではスマホを「機内モード」に切り替えて着信が鳴らないようにしたり。「Apple Watch」は手元をサッと見るだけでメールの件名が分かるので、家族との会話を止める必要がなくなりオススメです。

新世代パパが気になるキーワード2 「パパの満足度」

柴田:何をもって父親としての満足度を高めていくかという問題。自分も奥さんも子どももハッピーだと思っていたら、「あなたの自己満足でしょ」と叱られることも多い(笑)。

最近よく、知らないうちに大量の本が僕の部屋の前に積まれていて「これ、読んで感想聞かせてね」と言われる。「結果を出せ」みたいなタイトルの本がやけに目に付いたりして。

西村:本を介して言いたいことを伝える。奥さん、高度なコミュニケーションスキルをお持ちですね(笑)。

柴田家庭では受動型でパートナーの満足度を高める努力をするほうが、結果として自分の満足度も高まるのかなと感じています。

西村:いわゆるサーバント型リーダーシップですね。

新世代パパが気になるキーワード3 「経営と子育ての融合」

イベントの風景

もはやイクメンという言葉にすら違和感?新世代パパたちは育児をすることを当たり前にとらえている。

宮本(筆者):若手経営者を取材していると、子育てと経営を地続きのものとして語る人が多かった。特に、「人を育てる」ための手法を活かしたり、家族をチームに見立てて会社経営と同じように連携するなど、共通点を見出している。ひと世代前の「オンとオフは明確に分けるもの」という価値観は見られず、むしろ「オンとオフは融合させたほうが合理的」という意見が目立ちました。

川元:たしかに、僕も仕事とプライベートの垣根はまったくありません。どちらも「ライフ」として一体化している感覚です。だからこそ、分けるべき時に難しくなる面もある。

西村:落合陽一さんの言葉を借りるなら「ワークアズライフ」。人材開発の面でも、これからは公私混同した人が勝ち抜く時代だと思います。

僕自身も基本的に17時台には帰宅して夕食は家族と食べ、残業は週1回までと、家族に集中する時間を意識的に確保していますが、地方出張と家族旅行を兼ねるなど、公私をミックスできる時には積極的に組み合わせています。

柴田:うちの会社は、「子連れで商談できない取引先とは契約しない」というルールを徹底しています。社員の大半が子育て中で完全リモートの職場環境をつくっているのですが、商談は出向く必要がある。その数時間のためだけに託児を確保しなければいけないのは、働きづらさにつながるので。理解いただける会社とだけパートナーシップを結んでいます。

宮本:「土日休みを徹底する飲食店経営」にこだわったのは? 稼ぎどきの機会損失にはならない?

柴田:むしろ採用コストが減って、優秀でやる気がある仲間が集まってくれるので、売り上げは好調です。これからは特に労働力不足で採用面のリスクマネジメントが重要になる。公私混同経営を目指すほうが合理的だと思っています。

西村:「うちの会社、働きやすいよ」と口コミでつながるリファラル採用は定着率も高く、立ち上がりも早い傾向が強い。家族重視の経営は、組織を強くする戦略として正しいと思います。

宮本:子育ての経験を通じて気づいた「家事代行サービス」や「子育て世帯向け空間貸し」を事業化する男性も増えてきた。かつては「生活者視点は女性の強み」と言われたが、パパの視点がより可視化され共有されていけば、“私事”を“仕事”にする男性はもっと増えていくのではと期待しています。

(構成・宮本恵理子、写真・鈴木愛子)

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