日大アメフト部、日本ボクシング連盟……事件続発でも「体育会系人材はやっぱり貴重」と言える理由

アメフト人材

「体育会系人材」の典型とされる上意下達型の人物イメージが一連の事件を通じて強調されたが、スポーツが育む肉体と精神の価値は変わらない(写真はアメフト「富士通 vs. 関西学院大学」の模様)。

Matt Roberts/Getty Images

日大アメフト部や日本ボクシング連盟をはじめ、組織内における不条理な上意下達の関係に起因すると思われる事件が、ずいぶん長期間にわたりマスメディアの話題をさらった。いずれもスポーツに関する組織であることから、いわゆる「体育会的組織の終えん」として論じられた向きもある。

企業の組織人事を支援するコンサルタントである私にとって、一連の事件は決して他人ごとではない。なぜなら、このような組織は社会にまだごまんとあるからだ。

オーナー経営の中小企業はもちろん、行政や公益団体、さらには風通しのよさを売りにした大企業の中にも、目を凝らせばところどころに存在する。自制心の低いリーダーと、無責任な同調を繰り返すメンバーという構図は、まだまだ日本的組織の日常風景である。

日大アメフト部や日本ボクシング連盟の問題はさすがに極端な例と思われるが、これだけ大きな話題になったということは、現在の社会がこの手の組織にいかに強い嫌悪感を抱くようになっているかを表していると言えるだろう。

体育会系人材は、実はまだまだ人気がある

日本大学

アメフト部の危険タックル問題に揺れる日本大学。

REUTERS/Toru Hanai AUNIV

組織そのものだけでなく、それが涵養し、輩出する人材への視線にも変化が起きている。いわゆる「体育会系人材」の価値の低下だ。

今でも体育会学生は就活で人気か——『絶対服従人材はいらない』採用やめた企業も」(Business Insider Japan、2018年6月7日)「就職で『体育会系』を売りにするのはやめた方がいい」(ハフィントンポスト、2015年2月23日)といった記事はまさにそうした論調だ。

学生時代にスポーツに取り組んだ人が実際にどんな人物であるかは別として、体育会系人材の典型とされる上意下達型の人物像は、確かに極めて弱腰で魅力のないものになってしまった。筆者も最近、学生の息子がいるというあるビジネスパーソンから、「今どき体育会で頑張るなんて、時代遅れになるのではないか。就活の際に困りはしないか」といった相談を受けた。

「体育会系」という言葉に、より侮蔑的なニュアンス、陰影がついたことだけは確かだろう。

しかし、実際にさまざまな企業の人事を支援している筆者の目には、体育会運動部出身という経験は、いまだ輝きを失っていないように見える。率直に言えば、まだまだ人気である。なぜなら「体育会運動部出身者=いわゆる体育会系人材」と短絡的に考えることはできないからだ。

大手企業への就職は「売り手市場」ではない

新卒人材

2018年4月、住友商事入社式の様子。大手中小に関わらず、最近は入社後まもなく転職活動を始める新卒社員が多く、なおかつすぐに転職先が決まるケースも相次いでいるという。

REUTERS/Toru Hanai

体育会運動部出身者に対する企業のニーズを説明するために、まずは現在の新卒市場で起こっている三つの現象を説明しておきたい。

一つ目は、求人倍率の「二極化」だ。

リクルートワークス研究所の調査結果によれば、2019年3月卒業予定の大卒求人倍率は1.88倍。求人に対して人材が約38万人足りない「超売り手市場」である。ところがその内訳を見ると、従業員5000人以上の大企業の求人倍率は0.37倍と前年より低下。一方で従業員300人未満の中小企業は9.91倍と過去10年間で最高だった。その格差は実に27倍、強烈な二極化である。

就職氷河期に比べれば、採用市場全体は学生にとって別次元の緩さになったが、就職人気ランキング上位企業への就職はより狭き門になったと言える。大企業側から見れば、人事部門は未曽有の厳選採用を求められていることになる。

二つ目は、早期離職者向けの転職市場の整備が進んだこと。

入社後数日の離職者であっても、大企業や魅力的なスタートアップ企業からのスカウトメールが来る時代。嫌なことがあって転職したいと思えば、そこそこの転職先がすぐに見つかる。だから「石の上にも3年」理論はもはや通用しない。新人が辞めはしないかとビクビクしながら育成に取り組んでいるというのが企業の現実である。

三つ目は、企業が求める人材像の多様化。人事部の責任者たちはこんな風に話す。

「10年前にエース候補として採用した層とはまったく異なる人材が、若手のエースとなっている」(大手電機メーカー人事部長)
「5年後に何が本業になり、どんなスキルや技術が重要になるか分からない大変化の時代。だからこそ多様な人材を確保しておきたい」(大手損保グループ人事部長)
「多様な学生と接点を持ち、多様な対話方法を用いて、似たような人材ばかりにならないよう苦慮している」(グローバルIT人事GM)

投資家がポートフォリオを組んで多様な投資先を持つように、画一的ではないさまざまな人材を採用することが、企業人事にとって目下最大の課題なのだ。

体育会運動部出身の「やり抜く力」

カリスマ窃盗犯ダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)率いる、史上最強の犯罪ドリームチーム「オーシャンズ・イレブン」。こんな新卒採用は(犯罪目的でなければ)理想だが、人気の大企業でもそんな多様で優秀な人材を集めるのは簡単ではない。

Warner Bros Japan

企業人事は現在、①限られた少ない枠の中で、②多様かつ優秀なメンバーを集め、③短期的な離職を防ぎつつ育成していく、という三つのことをかつてないほどに求められている。

「たった11人しか採用枠がないのに、映画『オーシャンズ・イレブン』みたいなスペシャリストだけで枠を埋めろと言われているイメージ」(グローバルIT人事)

こうした厳しい条件がある中で、「スポーツという実力主義の世界で、少なくとも大学4年間を一つの分野に継続して取り組み、多様な役割があるチームスポーツの一員として活躍してきた人材」が魅力的に映るのは当然だろう。まず初めに枠を設けて軸として採用したい人物、映画ではスペシャリスト集団のまとめ役であるジョージ・クルーニー枠にあたるのが、体育会運動部出身者なのだ。

もちろん体育会運動部出身者だけで採用枠を埋めるわけにはいかない。11人全員がジョージ・クルーニーでは会社が機能しなくなるし、多様性が確保できない。

それでも、中期的な目標に継続して取り組んできた実績は、この時代きわめて貴重な存在だ。「同じアルバイト先でやめないで続けました」といった単なる惰性ともとれる継続性とは違って、アメリカ社会でグリット(GRID)と呼ばれ最重要の能力とされる「やり抜く力」にも通じる。

「エセ体育会系」に惑わされてはいけない

新卒入社式

2017年4月、新日鐵住金入社式でお辞儀の練習をする新卒社員たち。「上意下達」のイメージに惑わされず、中期的な目標に継続して取り組んできた体育会運動部出身の実績を高く評価する人気企業は少なくない。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

残念ながら筆者自身は体育会運動部とは縁がなく、人気企業に入社することだけがゴールだとも思っていない。しかし、スポーツが多くの若者を洗練し、その自尊意識を育んできたこと、そしてこれからもスポーツで肉体と精神を育んだ学生たちが、貴重な人材として社会に期待されて迎え入れられることを美しいことだと考える。

パワハラ組織から脱し、グローバルな実力主義に立ち向かう日本の組織のチャレンジに早くから取り組んできたのは、実は体育会運動部出身の人材でもあるのだ。

大学時代はサッカー部主将として活躍し、現在は体育会運動部出身の人材育成や活動支援を手がけるベンチャー企業の経営者は、彼ら彼女らの大手企業などでの活躍の実例を示してくれた上で、筆者にこう語ってくれた。

「体育会系人材という先入観に満ちたレッテルを貼って、『前近代的』と嘲笑する人たちは、その人材が本当の『体育会系人材』かどうか見きわめた方がいい。体育会系人材の評判を落としているのは、たいてい群れているだけの“エセ体育会系”の連中でしょう」

(文・秋山輝之/人事コンサルタント)


秋山輝之(あきやま・てるゆき):株式会社ベクトル取締役副社長。1973年東京都生まれ。東京大学卒業後、1996年ダイエー入社。人事部門で人事戦略の構築、要員人件費管理、人事制度の構築を担当後、2004年からベクトル。組織・人事コンサルタントとして、のべ150社の組織人事戦略構築・人事制度設計を支援。元経団連(現日本経団連)年金改革部会委員。著書に『実践人事制度改革』『退職金の教科書』。

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