海外経験なしでシンガポールで就職。パラレルキャリアから独立するまで

いつかは海外で働いてみたい。でも留学経験もないし、帰国子女でもない自分に果たしてできるだろうか——。そんな思いを抱き、一歩を踏み出せない人は少なくない。

全く海外経験もないままにシンガポールで現地就職、さらには海外でパラレルな活動をしている1人の日本人女性がいる。彼女はなぜ一歩を踏み出せたのだろうか。

Girls Beeのイベントを他の企業や団体とコラボでシンガポールで開催したときの写真

シンガポールで他の企業や団体とコラボして開催したGirls Beeのイベント。シンガポール在住のさまざまな国籍の女性たちが集まる。

提供:小川麻奈

8月9日、建国記念日の休暇でお祝いムードが国中に溢れるシンガポールのビジネス街の一角にある、モダンなベジタリアンレストランで、1人の日本人女性に会った。

米系のエキスパート・サーチ会社Guidepoint Globalのシンガポールオフィスに勤務する小川麻奈(33)だ。彼女は2015年、現地採用で今の会社に就職し、シンガポールに移住。同社では、大手戦略コンサルティングファームなど日本にある企業を相手に、世界各国の専門家を紹介する人材リサーチサービスの仕事に従事する。

小川はフルタイム勤務のかたわら、2011年に自ら立ち上げた「女性の"なりたい"をかなえる」コミュニティ、Girls Beeの運営も手がけている。

「女性から始めたほうが早いかなと思って」

学生時代から「人の可能性を引き出すこと」を仕事にすることに強い関心があった。

「小さい時には、どちらかというとエンターテインメントな仕事がやりたかった。イルカの調教師とか、演劇とか。そのコアな部分を手繰り寄せたとき、私は、人がもともと持っているものがよりエンパワーされるような、人が元気になるような機会や空間を作りたいんだなと気づいたんです」

彼女は言葉を選びながら、そう振り返った。

小川麻奈さん。シンガポールにて。

「お母さんがハッピーだったら、子どももハッピーにできるし、旦那さんもエンパワーできる。女性から始めたほうが早いかなと思って」と小川。

撮影:MAKI NAKATA

就職は2007年。新卒でインテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社、転職支援の仕事をしていた。そのうち、友人たちから仕事や人生について相談される機会が増えたという。

「男性より女性のほうが自身の可能性を過小評価していると感じた」と小川。何か助けになる場所や情報を伝えるだけで、その先の人生ビジョンが変わっていくことを何度も経験し、仕組み化するニーズを見出した。

まずは対象を女性に絞り、Girls Beeを立ち上げた。Girls Beeは「たくさんの可能性を持った女性たちが“なりたい自分”を見つけ、行動し、かなえていくきっかけをオンライン・オフラインで提供するプラットフォーム」だ。少人数のセミナー形式で開催されるオンラインサロンや、東京、シンガポールでのイベントを展開する。

語学の不安は「なんとかなる」

2015年、30歳の時、小川はシンガポールに移住した。帰国子女でもなく、留学経験もなかったが、いつか海外で働くことは夢だった。

本格的な海外での就職活動を始めたのは、移住の半年ほど前。しかし、リサーチは1年以上も前から始めていた。ネットでの情報収集に加え、日本の海外就職支援を行うエージェントとの面談などで、最終的に日本との時差が少なく、日本と変わらない生活水準や給与水準が保て、日本人向けの就職口が豊富なシンガポールに的を絞った。

最終的には2社からのオファーを獲得。語学への不安はゼロではなかったが、東京の勤務先で同僚の外国人と英語で仕事をした経験から、「なんとかなる」と思えたという。むしろ海外で暮らさないと、これ以上のレベルアップはない、と感じていた。

「ここ(シンガポール)のいいところは、いるだけで、いろいろなバックグラウンドの人に出会えること。普段付き合う人はシンガポール人もいれば、ドイツ人やイギリス人もいます」

移住半年は引きこもりがち

それでも移住当初の半年は精神的につらく、引きこもりがちだった。知人がほぼいない場所での新生活。英語中心の生活に慣れない仕事。駐在や留学と違い、期限はない。「将来展望を見失いかけた」こともあった。

「体はシンガポール、心は東京」という状態から脱却できたのは、そもそもの意思に立ち戻ったからだ。「より自由に、国籍、場所にとらわれない働き方」を実践するための移住。シンガポールをベースにGirls Beeの活動や、周りにいる多国籍な女性たちのキャリアライフスタイルについてのインタビューを開始した。

日本人も外国人も女性は自分を過小評価する傾向にあるが、日本人は特に謙虚さが過度になりすぎて、自分を下げすぎてしまうという。対して、日本人以外の女性は、結婚して子どもがいても、罪悪感なく自分の時間を持っている人が多いと小川は分析する。

「現地採用」という言葉自体が遅れている

シンガポールの街並み。

外務省のデータによると2018年のシンガポール在留邦人は3万6423人。海外在留邦人数のうち約2.7%を占め、11番目。アジアでみると中国、タイ、韓国に続く。人口約561万人のシンガポールでの日本人比率は0.7%だ。

撮影:MAKI NAKATA

実は小川は、筆者の取材の後に、現在の会社を退職して独立することを決めた。今後はシンガポールにこだわらず、日本やアジア・太平洋地域で自身の会社設立を目指す。これまでイベントベースでコミュニティ作りや発信を続けてきたGirls Beeの本格的な事業化に加え、すでに始めているセルフケア・ウェルネス商品の販売などにも注力したいという。

会社名には思い入れがある「マナ」という自分の名前を入れる予定だ。

「現地採用、という言葉はすでに時代遅れな感覚があります。自国以外での就職も一つの選択肢、というのが今の国際的な感覚です」(敬称略)


MAKI NAKATA(マキ・ナカタ):Maki & Mpho LLC共同創業者・代表。南アフリカ人デザイナーの柄と日本のモノづくり要素を融合したインテリア・ファッション雑貨ブランドMAKI MPHO(マキムポ)の企画・販売事業と、世界の時事問題をアフリカ視点から発信するメディア事業を手がける。アフリカ・欧州中心に、世界のクリエイティブ起業家の動向を追い、協業や取材も。コンサルティング会社、大手ブランド会社を経て起業。国際基督教大学教養学部学士、米国フレッチャー法律外交大学院国際経営修士。

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