マネーフォワード、元日銀マンをAI融資審査・子会社トップに起用 —— スーツ脱ぎ捨て需要を掘り起こす

自動家計簿や資産管理、法人向けのクラウド会計サービスなどを手がけるマネーフォワード(Money Forward)は、日本銀行で30年のキャリアを積んだ家田明氏を、グループ会社でAI(人工知能)融資審査モデルを開発するマネーフォワードファインのトップに起用した。

マネーフォワードのオフィス入口

Business Insider Japan

9月1日付けでマネーフォワードファイン・代表取締役社長に就任した家田氏は、1988年から約30年間にわたり日銀に勤務。2016年から金融機構局・金融高度化センター長として、ITを使った金融の高度化や金融機関のリスク管理の高度化などに携わってきた。

マネーフォワードが元日銀のベテラン人材を採用するのは家田氏が2人目で、同社は2017年9月にリスク管理やフィンテックなどを専門とする神田潤一氏を採用し、フィンテックに関する企画立案や金融機関との提携を強化している。

マネーフォワードファインが開発する融資審査モデルは、マネーフォワードのビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」の会計・請求書などのデータとAIを活用するというもの。従来の融資審査モデルよりも多様なデータを使うことで、多くの中小企業に対する融資機会を創り、人の手間や時間がかからない融資が可能になるという。

マネーフォワードファインは2019年春、この新しいモデルを使ったオンライン融資サービスを試験的に行った上、国内の金融機関と積極的に協業を進めていく。

伝統的な信用度評価とは違うモデル

家田明氏

インタビューに答える家田明氏。

撮影:佐藤茂

一般的な金融機関の貸し出しの審査は財務諸表をベースに行われている。財務諸表は、一企業の膨大な金のやり取りが反映されている。その金の流れは外部企業と紐づき、取引先企業の銀行口座から出入りする。出入りする入出金データを活用すれば、借り入れを行う企業の信用度をより正確に把握することができると、家田氏は話す。

「こういったデータを集めて活用すれば、一定の会計基準のもとで作り上げた財務諸表よりも、企業のことをより知ることができるはず。それを貸し出しの審査に使う。もちろん大量のデータになるので、人間の目だけ信用度評価は難しいはずだから、そこに何らかのモデルなり、AIをかませることが必要になってくる」と家田氏は、Business Insider Japanのインタビューで語った。

日銀時代、金融高度化センター長を務めていた頃、家田氏は企業の受注データを用いた信用度を評価するプロジェクトに参画。企業に発注された生のデータを活用し、その企業の信用度をモデルを使って分析すると、財務諸表のみを用いた伝統的な信用度評価モデルとは違う世界が見えたきたと、家田氏は言う。

会計ビッグデータとAIでオンライン融資

会計ビッグデータとAIを使うオンライン融資は、アメリカなどではすでに導入が進んでいるが、国内市場でもようやく注目を集め始めている。

クレジットエンジンのHP

クレジットエンジン(Credit Engine)のHP

クレジットエンジンHPより

オリックスと弥生は2017年12月、共同で設立したアルトアを通じて「アルトア オンライン融資サービス」を開始した。オリックスが持つ与信ノウハウと、弥生の会計ビッグデータ、協業先のd.a.t.株式会社のAI技術を使った与信モデルで、短期・小口に特化した小規模事業者向けのオンライン・レンディングだ。

クレジットエンジン(Credit Engine、本社・東京都港区)は2016年7月に設立されたスタートアップだが、売上データや銀行データ、外部のオンラインデータをもとに融資審査をリアルタイムかつ継続的に行うサービス「LENDY」を始めている。

「一般的には、3期分の財務諸表をベースに企業の融資審査を行うのが金融機関の従来のプラクティスだが、今後、会計ビッグデータとAIを組み合わせた融資モデルが普及すれば、スタートアップ企業や中小企業にとって、資金調達の選択肢が広がっていく」と家田氏。

スーツを脱ぐ元日銀マン

2016年6月、ニューヨーク・ポスト紙はアメリカ最大の銀行、J.P. モルガン・チェースが2016年に、社内のドレスコードを変えて社員にポロシャツやチノ・パンツ(チノパン)などの着用を許可したと報じた。多くの新興テクノロジー企業の社員がよりカジュアルな服を着用する傾向が強まる中、米金融界でも顧客企業のトレンドに沿った動きが見られる。

「30年間、ほとんど毎日、スーツでした」と言う家田氏は、2018年1月に55歳の誕生日を迎えた。「この世界でスーツは浮いてしまうので、服装もアジャストしていこうと思う。Tシャツとジーンズで仕事をすることや、若い人たちと一緒に働くことはとても楽しそうだ」と話し、新天地での新しい融資審査モデルの開発への期待をふくらませる。

(文・佐藤茂)

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