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ボクシング、アメフト、レスリング、そして直近では体操。スポーツ関係の「不祥事」が相次いでいる。
これに限らず、企業の不祥事などでも記者会見をきっかけに「炎上」状態になったり、火に油を注いだ結果「延焼」することは珍しくない。一連の報道で、組織としての危機管理が十分にできていたと思う人は少ないのではないか。
これらの不祥事に共通するのは、「適切な対応と、必要な謝罪」ができていたのかどうかだ。
撮影:今村拓馬
大げさではなく、SNSを発信源とする炎上が日常茶飯事になった現代では、謝り方ひとつで企業やブランドは容易に傾く。
大企業・ベンチャーにかかわらず、その事実は昨今の炎上を見ていれば多くの人が気づいている。にもかかわらず、組織を背負った謝罪が難しいのは、「正しい謝罪の仕方は、誰にも教えてもらえない」からだ。
「正しい謝罪の仕方」は会社で教えてもらえない
竹中功さん。元吉本興業のカリスマ広報マンとして知られ、数々の謝罪記者会見を取り仕切ってきた経験を持つ。文化放送で「竹中功のアロハな気分」のレギュラーラジオ番組も持っている。
元吉本興業のカリスマ広報マンとして、謝罪の最前線に立ってきた“謝罪マスター”で、『よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術』著者・竹中功さんは、「謝罪とは決して一方的なものではなく、『コミュニケーション』」だと説明する。
竹中さんは吉本興業時代、大小の謝罪を取り仕切る回数が多かったことから、謝罪は企業における危機管理やリスクマネジメントの1つと位置付けるようになったという。
竹中さんは、組織(企業)が謝罪が必要な局面に直面する「不祥事リスク」は、大きく4つに分けられると説明する。
- 「企業」としての不祥事リスク
- 「社内の問題」の表面化
- 業務と関係のある社員の犯罪
- 業務と関係のない社員の犯罪
この4分類では、実はそれぞれのケースで謝り方・謝る対象が異なってくる。
竹中さんによるリスクの4分類。1.「企業」としての不祥事リスク。
2.「社内の問題」の表面化。
3.業務と関係のある社員の犯罪。
4. 業務と関係のない、社員の犯罪。
竹中:(謝罪というのは)“何が悪かったのか”をまず定義しないといけません。特にネット(の炎上)だと、一番最初の(発端の)問題がどこかに消えてしまって、炎上だけが残るということもあります。
被害者がいるときは、誰が誰に謝るのかが非常に大事。途中で謝る対象を変えたらアカンのですよ。
たとえば交通事故で考えてみます。考え事してて、よそ見して、赤信号やったのに交差点に突っ込んで、誰かに接触してしまったとします。
そうすると、(本来は)よそ見した僕が悪かったですごめんなさい、なんですよ。
でもね、(定義をしっかりせずに謝ってると)本当はクルマをぶつけたのが悪いことなんやけど、報道される過程で徐々に『実は仕事がうまくいってなかったらしい』『嫁さんと仲悪いらしいで』『浮気してたらしいで』みたいに広がってきてしまうことがある。
人は新しい話題(ツッコミどころ)を探してしまうもんです。どこが悪いかを明確にして、しっかり謝ったら、騒いでた人たちは、だいたい黙りますよ。
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広報力ではなく「共感力」が必要な時代になった
撮影:今村拓馬
昔ならネットの中のニュースで済んでいたことが、そうではなくなってきている、と竹中さんは言う。
竹中:“(一通のクレームが)どういうことに発展するかの想像力が必要な時代になった”ということだと思います。
7月に『最高の「共感力」』という本を出したんですけど、たとえば広報は“このニュースを大手新聞の記者が察知したら?”、“週刊誌のフリーランス記者が知ったらどうなる?”と考えなアカンわけです。難しいですよ、新聞社のデスクの気持ちになるのって。
何らかトラブルが会社に起きたとして、どの経路で炎上していきそうか。いま吹いてる風を察知していくことが、(炎上における)“危機管理”なんですよ。
週刊誌が騒ぎそうな風のときは、雑誌にどう向き合うか考える必要があります。大手週刊誌同士の戦いになるかもしれませんからね。
謝罪の方法や、炎上の収め方は山ほどあるが、「後手に回ったら余計に燃えますよ」(竹中さん)。
取材依頼がきたらどうするか、逆に取材依頼が来なかったら、どんな一報を打たれるのか。聞かれたくないことを突っ込まれる取材だとしても、「ノーコメント」で返すのは、最悪の対応の1つだ。
そこに想像力を働かせて、初動をどうこなすかが大事なのだと力説する。
避難訓練のように「謝罪訓練」をするべき?
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組織の謝罪は、なぜ必ずしも成功しないのか。竹中さんは「普段から訓練をする企業はないからですよ」と言う。
たとえば、上のリスク4分類を見るとわかるように、組織が遭遇する不祥事は、必ずしも組織に直接責任がないケースもある。特に、社員による傷害や痴漢といった犯罪は、業務とは関係がないにもかかわらず、企業が監督責任を問われるケースだ。
竹中:朝礼で、「今日も1日がんばりましょう!」と掛け声かける会社はあっても、そのあとに「痴漢、強盗、わいせつはやったらあかんで!」なんて言わないでしょ。確かに、朝礼で言うことやないかもしれへんけど、でも現実に社員が捕まったら、社長も謝らないかん。
一般に、一定規模の企業の多くは、社長が急病で倒れた場合の対応など、緊急時の指揮命令系統を決めている。たとえば、代表権のある副社長なりが承認する、社長不在でも業務はこのように進める、といったようにシミュレーションしている。これは一般的な危機管理の1つだ。
しかし、謝罪のシミュレーションをする企業はきわめて少ない。竹中さんは言う。
竹中:(社長の急病を想定するのと同じように)借金、男女トラブルというのも、今の時代には組織のリスクです。普通、防災訓練や避難訓練はするやないですか。それやったら、社員が傷害や痴漢で捕まったときの訓練はせんでええんかと言うと —— 今の時代は、残念ながらそれがいると思いますね。
—— 謝罪訓練ということでしょうか?
竹中:そうです。たとえば、一般のお客さんからクレームが来たとしますよね。電話かけたら担当社員がいなくて電話番の人が“また今度電話してください!”と返してしまった。業を煮やしたお客さんがそのままネットに公開して、議論が噴出して大炎上。さぁどうします?…… って、1回やってみたらいいんちゃいますか?
謝罪訓練を1回やってみて、うまく対応ができないとすれば、その組織は緊急時の体制にリスクを抱えているというわけだ。
竹中さんの著書『よい謝罪』は、吉本興業での経験をもとに、大スキャンダル級の謝罪会見を成功させる方法を、時系列でマニュアル化してある、ある意味で貴重な一冊だ。
このところのスポーツ関連の不祥事を見ていると、会見にのぞむ運営側の関係各位が事前に一読していれば、ひょっとすると、ネットやワイドショー番組でひんしゅくをかうようなこともなかったのではないか……そう思わずにはいられない。
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(文、写真・伊藤有)