旅行業界は市場規模も大きくかつ年に10%以上成長している数少ない市場だ。
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2016年から11%成長し、2017年の市場規模が約3.4兆円に達した旅行オンラインサービス市場(経済産業省「電子商取引に関する市場調査」より)。
「電子商取引に関する市場調査」によると、牽引するのは、日本の二大OTA(オンライントラベルエージェント、ネット上だけで取引を行う旅行会社)である楽天トラベルを運営する楽天や「じゃらん」を運営するリクルートなどの国内大手企業や、近年日本でも急拡大するExpedia、Booking.comなど海外の大手IT企業。さらに、ANAの直販比率は国内線では50%を超えるなど、移動を支える航空・鉄道会社も自社による販売に力を入れる。
そうした中、「ズボラ旅」(Hotspring社)や「Travel Now」(BANK社)など、ベンチャーが続々と旅行サービスに新規参入し、LINEもLINEトラベルを開始、秋にはDMM、メルカリも参入を表明している。
異業種参入が相次ぐ中、どこに勝ち目があるのだろうか。
2012年にレジャー予約サイト「アソビュー」を開始し、旅行業界の変化を業界の内側から見てきたアソビュー代表の山野智久氏が解説する。
関連記事:2018年、旅行業界に旋風を起こす「ベンチャーの波」――なぜ異業種参入があいつぐのか?
旅行業界を構成する5つの市場
取材をもとにBusiness Insider Japan作成
「日常生活に近いモノのECの勝者がほとんど決まり、次に非日常的なサービスEC、特にその中でも市場規模の大きい旅行業界への参入が相次いでいる」
最近、大手のIT企業やベンチャーが旅行業界に参入している理由を、山野氏はこう分析する。
ホワイトボードを使っての渾身解説をしてくれたアソビュー社長の山野智久氏。
実際、モノのEC市場は日本国内においてもアマゾンが日増しに存在感を高める。一方、国内のオンライン旅行市場は、混沌としている。JTBやHISといった既存の大手旅行会社がオンライン化に遅れ、特定の勝者がいる状況ではない。
「旅行業界」というのは、そもそもがカバー範囲がかなり広い。山野氏によると、消費者行動で分けると、下記のように5つに大別できるという。
旅行業界の主要5分類
- 移動:航空、鉄道、レンタカーがオンラインで直接販売する割合も増えつつある。それ以外では、各航空会社や鉄道会社などを比較するメタサーチ系が主流(スカイチケットやスカイスキャナーなど)
- 宿泊:楽天トラベルやじゃらんなどのOTA、トリバゴやtravel.jpなどのメタサーチ系がそろう。Airbnbが民泊という新市場を確立
- 遊び:IT化が遅れている分野。アソビューやベルトラなど
- 食事:食べログ、Retty、ぐるなびなどが旅行中の「食」もカバーする
- お土産:お土産に特化したECサイトのほかに、アマゾン、楽天市場などがカバー
ニッチな分野は空いている
移動と宿泊に関しては、直販からOTA、メタサーチと主要なプレイヤーが揃いつつあるが、それでも、例えば現地に着いた後の移動手段など、ニッチな分野はまだ空いている。
日本では、23歳の若手経営者、木村聡太氏が空港送迎予約サービスの「SmartRyde」を2018年4月にリリース。木村氏は、「移動や宿泊のOTAはもうレッドオーシャンになっていて、ベンチャーが戦うのは難しい。国内で送迎のプレイヤーがほとんどいなかったのでサービスを始めた」と、参入の狙いを語っている。
1万9000件以上の「遊び」を掲載するアソビュー。
一方、アソビューが参入する「遊び」の領域はまだプレイヤーが比較的少ない。アソビューと同じく「遊び」領域で事業を行う、現地ツアー専門予約サイトであるベルトラは、2004年にサービス開始。現在180万人以上の会員を抱え、2017年12月期の売上高は前期比で22%増だった。「遊び」領域は急成長が期待される領域といえる。
「遊び」領域では、まだ予約サイトがほとんどだが、今後は「移動」や「宿泊」と同様に、それらの予約サイトを比較するメタサーチも出てくるのではないかと、山野氏は予想する。
鉄則は3つの切り口と分野の組み合わせ
新興ベンチャーだけではなく大手IT企業からの参入も相次ぐ。
2018年に入って相次いでベンチャーが旅行業界に参入しているが、それぞれが解決しようとしているユーザーの課題は異なる。
CASHを運営するBANK社のTravel Nowは後払い専用旅行サービスとして、今手元にお金のないユーザーがすぐに旅行に行けるようにし、ズボラ旅は従来旅行代理店が持っていた窓口の相談機能をチャットで実現し、旅行に行くまでのハードルを大幅に下げようとしている。
「今のOTAは予約が主だが、JTBやHISなどのリアルの旅行代理店ではそれ以外にも窓口で相談に載ったり、旅行のプランを提案していた。その意味で、ズボラ旅は本来のOTAの形に近いと思う」(山野氏)
山野氏が分析するように、ズボラ旅は荷物の一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」を運営するecboと連携し、「手ぶら」で旅行に行けるようにするなど、旅行プランの提案や予約代行にとどまらず、旅行全体の負の部分を解消しようとしている。
大手系では、DMM TRAVELは学びのプラットフォームとして自社のリソースも活用しながら、独自のスタディツアーを企画し、提供する見込みだ。メルカリも旅行業界に参入し、LINEトラベルも「旅ナカ」にサービスを広げていきたいと語るが、サービスの概要はまだ判然しない部分がある。
どこで勝とうとしているのか? そのヒントとして、ウェブサービスには主に3つの切り口があると山野氏は言う。
旅サービスはこの左右の組み合わせで表現できる。アソビューは「予約×遊び」の領域を取ろうとしている。
取材をもとにBusiness Insider Japanが作成
例えば、旅行キュレーションメディアであるRETRIPは情報で移動からお土産まで5分野すべてをカバーする。 アソビューは予約だけではなく、「asoview!TRIP」というサービス(1.の情報に該当)や、在庫管理のサービス(3.のオペレーションマネジメントに該当)も展開している。
LINEトラベルは、現在宿泊のメタサーチを展開しているが、今後は移動のメタサーチ、そして「遊び」や「食事」の情報提供をしていくのかもしれない。
メルカリは果たしてどういう切り口で旅行業界を攻略しようとしているのか。
引き続き、注目していきたい。
(文、写真・室橋祐貴)