"Connecting the dots." 聞いたことがある人もいると思います。
スティーブ・ジョブズが2005年、スタンフォード大学の卒業式で話したセリフの一部です。過去を振り返ると一見関係ないように思える点と点がつながって素晴らしいことが起きるという比喩です。
2010年1月、サンフランシスコでiPadの製品発表会で話すスティーブ・ジョブズ。背後に飾られたのは、若きジョブスとアップルの共同創業者・スティーブ・ウォズニアックの大きな写真。
REUTERS/Kimberly White
ジョブズはリード大学中退後も、興味があったカリグラフィー(文字を美しく書く技術)の授業だけは出席していました。この時の知識や経験が、その後AppleでMacの開発で書体機能の充実につながり、Macがデザイナーやエンジニアといった最先端のユーザに受け入れられるきっかけとなったことは有名な話。一見関係ない書体とパソコン開発という点と点をつなげたことが、成功の礎になったのです。
dotの数を増やすか、大きくするか
当時カリグラフィーの授業を受けていたのはジョブズだけではありません。しかし、これをパソコン開発とつなげたのはジョブズだけでした。カリグラフィーの価値を意味づけることができたのです。
彼だけがカリグラフィーというdot(点)とパソコン開発というdot(点)をつなげたのです。
ここで空間でdotとdotがつながるのを思い浮かべてください。dotとdotがつながる可能性を高めるにはどうしたらいいのでしょうか。
2つあると思います。1つはdotの数を増やすこと。もう1つはdotの大きさを大きくすること。
ジョブズはカリグラフィーという他の人には平凡なことをdotとして認識し、それをパソコン開発というdotとつながるぐらい大きくしていたのです。
同じ仕事でも意味付けは変わる
私たちの日常でも実はdotはあるのではないでしょうか。一見平凡に思える仕事にどのように意味付けするのかで、結果が変わることがあります。
有名なレンガ職人の話をご存知でしょうか。
旅人が1本道を歩いていると、1人の男がレンガを積んでいました。旅人が、「何をしているのですか?」と尋ねました。すると「見ればわかるだろう。毎日毎日、1日中レンガ積みをしているのだ。ホントつまらない仕事だ」とつらそうに回答しました。しばらく行くと,またレンガを積んでいる別の男に出会いました。また旅人は同じ質問をすると、職人は「大きな壁を作っているのだよ。この仕事で家族を養っているんだ」と誇らしげに回答しました。さらにもう少し歩くと、別の男がレンガを積んでいました。旅人はまた同じ質問をしました。すると、3人目の職人は「歴史に残る偉大な大聖堂をつくっているんだ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだ!素晴らしいだろう!」と晴れ晴れとした顔で答えました。
同じレンガを積んでいても、その仕事への意味付け力が違います。きっとそのレンガ積みの成果も違うはずです。
3人の男のうち、レンガ積みという一見平凡な仕事をdotにできたのは、2人目と3人目で、3人目の男のdotの方がより大きいのではないでしょうか。将来、Connecitng the dotsをするためには、まず1つdotをつくらなくてはなりません。1人目にはその可能性はなく、3人目の男が実現する可能性が一番高いのです。
NO1を見つけるまで販売してはいけない
同じレンガを積むという作業でも、意味付けによって成果は変わる。
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これは過去の話だけではありません。現在、しかも会社ぐるみで意味付けしている会社があります。
あるマンション販売会社の役員の方に伺った話です。販売責任者には1つのルールがあるのだそうです。そのルールとは、担当するマンションがNo1である部分を見つけるまで販売活動に入ってはいけないというルールでした。
例えば、このエリアで過去5年間供給されたマンションのうち平均面積が80平方メートル以上で、駐車場が8割以上の世帯にあり、主要駅から5分以内に立地しているのは、このマンションだけです、という具合です。
担当するマンションのNo1を見つけるためには、過去の物件や現在販売している物件を調べなければなりません。エリアや競合物件の情報収集も不可欠です。担当マンションのNo1を見つけることができれば、集客のための広告での訴求ポイントも明確になります。結果、良い広告が作れ、マンションに住んでほしいターゲットの集客につながります。販売員も自信をもって、顧客にマンションを紹介、販売ができます。
担当するマンションの価値を意味付ける上手なルールだと感心しました。
このルールは、私たちが取り扱っている商品やサービスでもそのまま活用できるのではないでしょうか。商品やサービスの顧客にとっての意味を見つけるフローを導入すると、自然と意味付け力が高まっていきます。
顧客が欲しいのは、本当は何なのか?
同様の話はたくさんあります。
有名なのは、1968年に出版された『マーケティング発想法』の冒頭に 「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」という格言があります。正しく引用すると、「昨年、4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したからである」というものです。
ドリルを買いに来た人に、販売員がドリルの性能を説明するのは意味がありません。それよりも何にどのような穴を開けたいのか?誰が開けるのか?定期的に開けるのか?を確認することが重要なのです。これなども我々の仕事の意味を見つけることの参考になるかもしれません。
何が求められているのかを明確にする。
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最先端の事業でも事例があります。
飛行機エンジンメーカーなどは、この発想でビジネスモデルを変えました。飛行機メーカーが求めているのはエンジンではなく、飛行機を飛ばすことです。そこでエンジンメーカーは、エンジンを売り切り販売ではなく、利用に対して課金するモデルを作り出しました。メンテナンスなども含めて利用に対しての従量課金モデルにしたのです。さらにそこで入手したデータを活用して、最少の燃料で飛行するルートを航空会社に提案するようになっています。
データ活用や分析で新たな市場を作ったのです。
大きな話だけではありません。私たちの日常にも事例はあります。単純な作業でこそ大きな差が出るように思います。
10年ほど前の話ですが、同僚にホッチキスを借りようとしました。彼女は私にホッチキスを渡す前に、ホッチキスを開いて中に針が入っているのかを確認しました。私がしたいのはホッチキスで書類を綴じること。針が無ければ、綴じることはできません。針が無ければ、もう一度彼女とやり取りが発生します。実際、ホッチキスを借りて、すぐに針が無くなって、再度針を借りなくてはいけなくなり、気まずい思いをしたこともありました。
逆の経験もあります。会議でコピーの一部の印刷が不鮮明なことがありました。同僚に再度コピーを依頼しました。すると彼女は、「私が悪いのではないのです。前の会社だと完璧にできたのに、当社のコピー機が悪いのです」と話し出したのです。私は会議を進行したかっただけです。しかし、彼女は私が何をしたかったのかわからなかったのです。
今日の1日を振り返り、意味付けしてみる
1日を振り返り、何かテーマを決めて意味付ける。
Shutterstock /leungchopan
5年ほど前から夕方から夜にかけて1日を振り返り「その日の感謝」としてFacebookに投稿しています。これが自分の日々に意味付けする習慣になっています。
私は「感謝」という方法をとっていますが、他のテーマでも良いと思います。1日を振り返って、やったこととそれを一緒にしてくれた人の顔を思い浮かべて文章を書きます。たったこれだけのことなのですが、自分の毎日の仕事やイベントに意味を付加することができます。日々意味付けすることを一緒に始めてみませんか。
中尾隆一郎: ㈱FIXER 執行役員副社長 大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、現職。㈱旅工房 社外取締役も兼任。