「転職バブルは人材業界のマーケティング」本当に転職すべき層は2割ほど——何を変えたいのかを明確に

新卒

撮影・今村拓馬

「転職バブル」と言われる。日本経済新聞(2018年8月7日付)によると、大手転職サイトの中には入社1カ月以内のサイト登録者数が10年間で約30倍に増えたところもあるという。

かつては『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(2006年、城繁幸著)がベストセラーになるなど、早期退職者の増加が問題視されたものだが、いまやいつ退職してもすぐに転職先が見つかるという「売り手市場」ぶりだ。

アベノミクスのおかげで失業率は過去最低水準、若者には圧倒的な職業選択の自由が与えられ、失われた20年はついに終わりを告げた……と手放しで喜んでいいのだろうか。

「第二新卒」と呼ばれる早期退職者たちの再就職支援を長く手がけてきたUZUZ(ウズウズ)の川畑翔太郎氏は、現状に疑問を投げかける。若い求職者たちが殺到する同社のオフィスで話を聞いた。

「転職によって失われるもの」を見落としがち

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撮影・今村拓馬

「よく考えずに転職しようとする人」が相変わらずとても多いと感じます。

早期退職者の方々から相談をいただく時、どうしても今の職場の人が悪い、環境が悪いという転職理由が多いのですが、それは一過性の感情からくる印象ではないか、それだけの理由だと別の会社に移ってもまた同じことが繰り返されるのではないか、そう思えるケースが少なくありません。

自らの落ち度、弱点にフタをして、環境さえ変われば何かが変わると転職しても、何も変わりはしません。自分に問題点がないかしっかり把握した上で、問題を修正するために環境をがらりと変えるのがどう考えてもプラスだというのであれば、もちろん転職もアリでしょう。その時でも、環境を変えることに伴うリスクは甚大だということを忘れてはなりません。

よく考えずに転職するというのは、転職によって得られるものだけを見てしまって、失われるものを考慮していないという意味でもあります。

人間関係、年収、ステータス、場合によっては仕事内容も……働く環境を「全とっかえ」するのが転職の本質なので、かなりのリスクを伴うことは明白です。転職活動においてはもちろんですが、転職後の環境に慣れる際にも心身ともにエネルギーを要します。

逆に、もし転職によって得られるものが一つだけの場合、本当に転職する必要があるのか、一度冷静に考えたほうがいい。例えば、年収だけが不満なら、転職せずに年収を上げる方法があるかもしれません。昨今では複業という手段もあります。

転職によって何を変えたいのかを明確にし、変えるべきところだけ変えるようにしないと、結局は失われるものの方が多くなってしまいます。

「転職バブル」は人材業界のマーケティング

就職活動

REUTERS

さて、人手不足を背景に「転職バブル」が喧伝される昨今、入社早々に退職を検討する人たちは、自らの転職理由を冷静に分析できているのでしょうか。

多少キツい言い方になりますが、転職バブルという言葉は、人材業界の仕掛けたマーケティングにすぎません。まさに自分も所属している業界ながら、最近は転職を煽りすぎているように感じています。

少子高齢化による人手不足で企業に紹介する人材がいないから、既存の人材を動かすしかないという発想で、転職市場の活性化を図ろうというわけです。人材業界は転職してもらわないと儲からないので、よほどの事情がなければ、エージェントが転職を止めることはありません。

かつて批判された「第二新卒」と何が違うのか

新卒社員の生活

撮影・今村拓馬

人手不足のおかげで、10年前なら「忍耐力がない」「レールを踏み外した」などと批判され再就職先を探すのに苦しんだ、いわゆる「第二新卒」の若手人材が、いまや1カ月、1年で会社を辞めてもすぐにまた別の就職先を見つけられるようになりました。

現在の転職バブルの中で早期退職の道を選ぶ人たちと、かつての第二新卒の間に何か違いがあるかというと、何もありません。若手人材の能力が格段に伸びたわけではないし、ある会社で十分な経験を積み重ねないまま「リセットボタンを押した若手」であるという意味では、転職バブルの早期退職者と第二新卒者は本質的には変わらないはずです。

これまで第二新卒と呼ばれる若手人材の相談を受けてきた経験から言うと、ポジティブな理由から「転職した方がいい」と感じるケースは、多く見積もっても2割程度だと感じています。

新卒時にしっかりと自己分析ができていて、就職後も担当業務で周囲から評価されているものの、自分の能力を最大限伸ばせる環境ではないという理由で転職を行うケースがこれに当たります。ほかにも、大企業だと希望するポジションまで到達するには15年、20年とかかってしまうため、規模の小さい会社へ転職するのもポジティブなケースだと言えます。

早期退職者の3〜4割は「何となく転職」

サラリーマン

撮影・今村拓馬

逆にネガティブな転職は全体の4〜5割くらいあり、二つのタイプに分かれます。

一つは、営業手法が詐欺レベルで強引(例えば、「客を騙してでも売り上げをつくれ」といった指示を受ける)とか、上司のパワハラがひどいとか、要するに職場がブラック過ぎるなど、客観的に考えて外部に要因があることから転職するケース。

もう一つは、上司とのコミュニケーションがうまくいかないとか、周りからサポートしてもらえないとか、一見すると外部要因のように見えるけれども、実はその人の積極性や周囲への気配りが足りないことが問題である場合、いわば内部要因から転職するケースです。

そして、意外に多いのは、残りの3〜4割を占める「何となく」転職をするケースです。「今の仕事に飽きた」「今の閉塞感は環境を変えれば解消する気がする」といった理由から転職する人たちがこれに当たります。

こうした転職を望む理由の内訳は、転職バブルの早期退職者でもほとんど変わらないのですが、あまりの人手不足のために、「飽きた」「環境を変えて閉塞感を解消したい」といった、以前なら転職が成功しなかったような理由でも問題なく転職できてしまう最近の状況は、まさに転職「バブル」だと言えます。

「残業はイヤ、実家から30分以内」という希望条件も通る

通勤電車

撮影・今村拓馬

人手不足だから、「ある程度の条件を提示しても転職できるのでは?」という漠然としたイメージが広がったことで、今までの常識が通用しない状況が発生しています。

数カ月前、転職相談に来た方の希望は「残業が月20時間以内で、実家から30分以内で通える範囲の会社」という条件でした。在職中の会社を辞めれば数カ月での短期離職となる上、この希望条件ですから、さすがに苦戦するだろうと心配していたら、数日後にご本人からメールが届き、「希望条件で内定が決まりました。短い間でしたが、お世話になりました」と。

その方から最初に聞いた退職理由には納得させられるものがなく、転職先の希望条件も独りよがりに感じられたため、面談を通じて、現職に留まりながら目の前の課題を解決できるよう支援していこうと考えた矢先の話だったので、さすがに「え?ウソでしょ?」と、スタッフ同士顔を見合わせたものです。

「どうしても大手に転職したい」という病

大企業のビル群

撮影・今村拓馬

また、とにかく大手に転職したいという相談が増えたことも気になっています。

大手企業に入りたいのであれば、基本的には新卒時の就職活動で入社を目指すことになります。人手不足とはいえ、大手は新卒枠で必要な人材を確保できるので、他企業の早期退職者をあえて受け入れる必要がないからです。

したがって、どうしても大手に転職したいのなら、何年であろうが十分な経験と実績を積んで、採用市場から評価される人材になるか、そうでなければ、もう一度新卒枠で就職活動をし直すしかありません。

若手人材の価値が最も高く評価されるのは、良くも悪くも新卒時。人手不足で売り手市場になろうが、今も変わらない事実です。日本人は新品好きとよく言われますが、モノではないヒトであっても(即戦力として評価される中途採用は別として)その傾向は間違いなくあります。

一方、採用される側である若手人材(特にミレニアル世代以降)は、Airbnbやメルカリなどのシェアリングエコノミーに慣れ親しんでおり、中古だの新品だのといったレッテルにはさほどこだわりがありません。

その結果、採用担当者や経営者が年配世代の大手企業ではまだまだ新卒信仰が強く、それゆえ第二新卒のような早期退職者は明らかに不利となります。転職バブルだからといって、そのような「新卒至上主義」の現実に大きな変化はありません。

大手企業に執着するあまり、早期退職してまで大手に転職しようとしている人は、もう少し現実を直視すべきと言わざるを得ません。

早期退職者に再挑戦の機会がなかった頃

UZUZホームページ

第二新卒・既卒・フリーターの就職支援を手がけるUZUZ(ウズウズ)のサービス案内画面。

UZUZ

私たちUZUZは、不利な立場に置かれた若手人材の就職を支援するだけでなく、就職先での定着率を高めることで、本人が幸福になることはもちろん、早期退職しただけでネガティブなレッテルを貼られて再挑戦の機会を閉ざされてしまう日本社会の現状を少しでも変えたいと思い、創業以来7年間、若手人材の就職・転職活動をサポートしてきました。

なぜこのような事業を行っているのか。それは、私を含めた3人の共同創業者がいずれも新卒で入った会社を早期退職し、再就職の難しさや退職して自分を見つめ直す体験の重要さを肌で感じた当事者だからです。レッテルで判断されず、挫折経験をポジティブに活用できる社会であってほしいという思いは、私たちにとって他人事ではないのです。

創業当初はリーマン・ショックの直後でしたので、求職者の方々に紹介できる企業が少なく、不甲斐ない思いをすることばかりでした。少ない機会を活かそうと、求職者と1日4時間、5時間、膝を突き合わせて面接対策に取り組むこともザラでした。

実際の面接に備えた練習という面もありますが、それ以上に、再就職後にまた短期離職してしまったらその先にはさらに厳しい道が待っており、そうならないよう社会人として働く上でつまずく可能性がある弱点をできるだけ減らしておく必要があると考え、対話と改善をひたすら重ねたのです。

しかし、正直に言って、昨今の転職バブルは今までの私たちの地道な積み重ねを一気に飛び越えてしまうような、大きな変化だと感じています。7年前に私たちが事業を始めた頃の状況とはまったく変わってしまいました。

「新卒2.0」へのアップデートが必要

繰り返しになりますが、転職バブルの早期退職者と従来の第二新卒は、本質的に何ら変わるところがありません。

ですから、私たちはこれまで通り、①自己分析(強み、弱みといった特性を把握する)、②キャリアプランの設計、③長期就業の阻害要因の改善を行うこと、こそが若手人材のクオリティ向上や定着につながり、少子高齢化社会の課題を本質的に解決すると考えています。

これら三つのプロセスを経た若手人材を「新卒2.0」、そうでない人材を「新卒1.0」と呼ぶことにしましょう。これからの時代、できれば新卒採用の段階で、そうでなくとも転職活動を介して三つのプロセスを経た「新卒2.0」の人材が増えることで、企業の採用コストは下がり、競争力が上がると考えています。

(取材・構成、川村力)


川畑翔太郎(かわばた・しょうたろう):株式会社UZUZ専務取締役。1986年生まれ。鹿児島出身で高校卒業後、九州大学で機械航空工学を専攻し、住宅設備メーカーINAX(現:LIXIL)に入社。1年目から商品開発に携わるも、3年目に製造へ異動。毎日ロボットと作業スピードを競い合う日々を送る。高校の同級生・今村からの誘いと自身のキャリアチェンジのため、UZUZ立ち上げに参画。現在はキャリアカウンセラーだけでなく、ウズウズカレッジ運営や企業ブランディングを担当し、累計1000名以上の就活サポートを実施。

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