スマート宅配ボックス「VOX」を展開するマッシュルーム社の原庸一朗代表。
宅配便の再配達問題はいまや社会課題。この課題を「電源いらずで動くソーラー宅配ボックス」で解決しようというベンチャーがマッシュルームだ。
マッシュルームが手がける宅配ボックス「VOX」は、本体に内蔵したソーラーパネルで作動する。スマートフォンで解錠するスマート宅配ボックスでありながら、「本体内には通信機能(LTEやWiFi)を持たせない」「電源ケーブルなしで動き続ける」「構造がシンプルで安価」という独特の割り切った設計。
スマート宅配ボックスでありながら、1台あたりの原価を4000円程度と非常に低コストに抑えたことで、低価格で使える月額制の宅配ボックスビジネスとして展開できる目処がついた。
個人向けの提供価格は現在調整中だが、初期投資7980円、月額390円で展開していきたいという。
福岡で9月から実証、大手物流会社との連携も進む
VOXの実機。扉の正面にあるのが発電用のソーラーパネル。内部にはバッテリーがある。ソーラーでは大電流の発電はできないが、1日1-2回程度しか使わない宅配ボックスであれば、十分、この発電で動き続けられるのだという。
蓋の裏側。プロトタイプ的なつくり。鍵部分は3Dプリンターの出力。バッテリーは一般的なリチウムイオンバッテリー。会場では、ロックが解除しきらない不具合があったものの、端末を認識しロック解除に反応する動作はしていた。
代表の原庸一朗氏によると、福岡で九州電力と開始する実証(2018年9月〜2月)を終えたあとを目処に、大きな問題がなければそのまま一般提供にしていきたいと語る。
九州電力のリリース文。
実サービス化にあたって、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便、西濃運輸ら大手4社とのパートナーシップが動いている。
大手運送会社がスタートアップとの協力を検討する背景には、1件あたり150円とも200円とも言われる「再配達コスト」の圧縮がある。
VOXは、宅配ドライバーが持ち歩くスマートフォンが近づくと自動認証する仕組みのため、ドライバーはスマホ操作などせずVOXのロックボタンを押すだけで、ドアが開く。ドライバーのオペレーション変更が最小限で済むことが、検討を容易にしているはずだ。
VOXは、宅配ボックスの設置を通じて、さまざまなサービスの宅配プラットフォームになることを目指している。
VOX自体には通信機能を持たせていないが、宅配業者とユーザーがインストールするアプリを通じて、いつ、どういった種類の業態とやり取りがあるかといったログは自社プラットフォームにビッグデータとして蓄えている。
原氏は、まだ構想段階としながらも、外出前にVOXに服を入れておけば、業者が回収してクリーニング後に宅配してくれるようなサービスなどもあり得るのではないかと語る。
こうしたサービスが実現すると、たとえばRFIDなどのタグをつけておくことで、「買ったはいいけど使っていない服」「よく着ている服」といった利用動向データも比較的簡単に取得することができる。
マンションや個人宅に入ったスマートロッカーから取れる情報と、その利活用には、単なる電子錠のロッカーという以上の情報価値がある。
VOXが宅配プラットフォーム化した先に開けるサービス像。
宅配市場など関連市場のマーケット規模と、そこから算出される売り上げ目標。
昨今報道されるように、不在配達率は20%近くにのぼる。現状の再配達コストは、今後のECの荷物増加と働き手減少にともなうドライバー不足の増加によって、悪化する可能性もある。
(文、写真・伊藤有)