夜型からの反論「なぜ早起きばかりもてはやされる」専門家は「早起きは生産性高めない」

東京オリンピックの猛暑対策として、政府がサマータイム導入の検討を始める一方で、欧州ではサマータイムの廃止を検討している。いったい健康への影響はどれほどなのか?そもそも朝が超弱い夜型人間への影響は?

目覚まし時計

撮影: Dark Moon Pictures / Shutterstock

サマータイムで睡眠障害

森喜朗

ことの発端は、森喜朗元首相が政府にサマータイム導入を要請したことだ。

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そもそもの発端は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が安倍首相にサマータイムの導入を要請したことだ。

これを受けて、現在は与党内では6月から8月の3カ月間、時間を2時間繰り上げる方針で検討していると言われるが、IT業界などからは一斉に反対の声が上がっている。

サマータイムをすでに導入しているEUでは9月14日、サマータイム制度の廃止を提案する考えが正式に発表された。

AP通信などによると、特に廃止を推進していたのはフィンランドだ。フィンランド北部では、夏は日が1日中落ちない「白夜」となり、冬は日照時間がなくなる「極夜」となる。

フィンランド議会では、サマータイムの導入によって睡眠障害や生産性の低下、そのほか健康への悪影響が引き起こされると結論づけた。7万人以上の署名を受けて、フィンランド政府はサマータイム廃止のためにEUに働きかけると2018年1月に表明している。

夜型人間はサマータイムについていけるか

オフィスで寝ている人

夜型人間にとって朝の起床時間は苦痛以外の何者でもない。

撮影:LittlePigPower / Shutterstock

サマータイムによって甚大な被害を受けることが予想されるのは(私を含む)夜型人間たちだ。

私は幼い頃から、朝が苦手だった。中高時代は8時15分の始業時間までに起きることができず、年に数十回は遅刻していた。

ずっと寝ていたため、午前中の授業の記憶はほとんどない。あまりにも寝ていたので中学生の時には担任の先生に睡眠障害を疑われ、検査までしたこともある(ちなみに睡眠障害ではなかった)。

今の仕事は定時が10時出社だが、それですらややきつい。寝坊が怖いので、11時以前のアポイントは極力入れないようにしている。

私がもっとも懸念していることは、サマータイム導入で「早起きの美徳」が強化され、夜型人間たちがさらに虐げられるのではないか、ということだ。

ティム・クック

アップルのCEO、ティム・クックは、毎朝3時45分に起きると言われている。

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ティム・クック(アップルCEO)、ハワード・シュルツ(スターバックス元CEO)、ジャック・ドーシー(ツイッターCEO)など、成功者の多くが「早起き」の実践者であることをメディアはよく取り上げるが、朝寝坊の経営者、というのは聞いたことがない。

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ニューヨーク・タイムズのエッセイでは、毛沢東、スターリン、バラク・オバマなどが夜型人間であることを例に挙げて「夜型人間は“異端者”であり“アウトサイダー”だ」と主張しているが、それにしても分が悪いように感じる。

サマータイムが導入されれば、朝早くから活動しよう、という早起きキャンペーンが政府によって展開されることは間違いない。夜型人間たちはより早い時間に起きることを強制させられた上、職場でも学校でも白い目で見られることを余儀なくされるのだ。

夜型人間=怠け者ではない

夜型人間が必ずしも怠け者とは限らない。朝型・夜型の違いは、遺伝的な影響が大きいことが医学的に分かっている。精神科医で睡眠学が専門の三島和夫氏(秋田大学大学院教授)はこう語る。

「私たちの睡眠リズムは、体内時計の周期が深く関わっています。体内時計は『時計遺伝子』という数十個の遺伝子によって決まりますが、その配列には個人差があり、どうしても早寝早起きが難しい夜型の人がいるのです。夜型や朝型といった傾向は、身長の高低、視力の良し悪しと同じように体質的なもので、気合いや根性で何とかなるわけではありません。みんな一律に早寝早起きしろというサマータイムは、かなり無茶ぶりです」

三島氏によると、そもそも睡眠時間を後らせる(夜更かし)のは簡単でも、前に早める(早寝)は難しいそうだ。

サマータイムが導入されたとしても、すぐには早寝早起きに切り替えられず、睡眠不足に陥る人が続出する恐れがある。同時に、自律神経やホルモンなどの体内リズムと睡眠時間がずれて“時差ぼけ”状態が蔓延しかねない。

兵士

多くの夜型人間たちが立ち上がっている。(画像はイメージです)

撮影:Ilkin Zeferli / Shutterstock

欧米では、サマータイムの導入で心臓病などの健康リスクが高まり、交通事故などのヒューマンエラーが増えたことが分かっている。特に時刻の切り替え直後などにそうした影響が大きい。

「標準的な睡眠リズムの人でも、体内リズムが睡眠時間に馴染むまで2~3週間はかかります。夜型傾向の強い人はさらに日数がかかるでしょう」(三島氏)

ヨーロッパでは、多くの夜型人間たちが立ち上がっている。夜型人間たちのクオリティ・オブ・ライフを求める団体、B-Societyでは2013年にドイツでサマータイム廃止を求める署名活動を行っている。

個人に合わせた生活リズムを

しかも、欧米諸国のサマータイムは1時間の繰り上げだが、日本政府は2時間の繰り上げを検討している。仮にそのまま実施されれば、欧米以上の大打撃が予想される。

「OECD加盟国の平均睡眠時間が約8時間半であるのに対し、日本は7時間半と短い。普段から十分に寝ていれば、睡眠が1時間くらい短くなっても余力でカバーできますが、日本人の睡眠はすでに余力がありません。サマータイムで健康被害を負った人が増えると医療費がかさみ、それを超えるほどの経済的メリットがないという専門家も多い。いったい誰が得をするというのか……」(三島氏)

サリー大学とノースウェスタン大学の共同研究によると、夜型人間は朝型人間よりも死亡リスクが10%高いことも分かったという。論文の共著者であるクリステン・ナットソン氏は、「夜型人間が(無理して早起きして)朝型人間に合わせて生きることが、身体の不調をもたらしている可能性がある」と語る。

なお、自分が朝型か夜型かは、国立精神・神経医療研究センターのサイトにある質問紙で簡易判定できる。

三島氏によると、夜型傾向の強い人は人口の約3割を占めるそうで、もはやマイノリティではない。サマータイム導入で夜型人間を苦境に追い込むより、それぞれの特性を生かした働き方を整備したほうがいいのではないか。

(文・西山里緒、越膳綾子)

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