学校は週1。「正解のない時代の子育て」に自らシェアハウス作った一家——学びはリビングでの交流から

働き方、住まい方……あらゆるものが速いスピードで変化していく世の中にあって、子育て・教育だけが従来通りでいいとは思えない。ではどうすれば? 次の正解は何? そもそも正解を探すこと自体が間違っているのだとすれば、私たち大人は子供に対して何ができるのでしょうか。

そんなモヤモヤを感じている方に紹介したいのが、佐別当さん一家の子育ての形です。

夫の隆志さんと台湾人の妻ヨウさん、7歳の一人娘・絵里さんが暮らすのは、自ら建てたシェアハウス「Miraie(ミライエ)」。30代社会人のシェアメイト、日替わりで訪れる世界各国からの旅人とともに暮らし、イベントスペースを兼ねるリビングでは頻繁にワークショップを開催しています。

絵里さんは、学校には週に一度しか通いません。しかし、シェアハウスで多くの人と交流する中で絵画や音楽のなんたるかを学び、英語、中国語を流暢に話すといいます。5月に開催された「世界子どもサミット」では、500人の観衆を前に英語でスピーチを行い、現在は子供による子供のためのホテル「キッズホテル」を構想中とのこと。

今回はそんな佐別当さん一家との対話から「正解のない時代の育児のあり方」を考えます。

佐別当隆志さんと娘の絵里さん

PROFILE

佐別当隆志さん:株式会社mazel代表取締役、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、株式会社ガイアックス ブランド推進室

2000年株式会社ガイアックス入社。2015年秋よりシェアリングエコノミーに特化したWebメディア「Share!Share!Share!」を編集長としてリリース。2016年1月一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、事務局長に就任。2017年3月内閣官房シェアリングエコノミー伝道師に任命される。シェア時代の家族とゲストの一軒家「Miraie」を運営し、AirbnbのホストとしてNew York Timesや日本経済新聞など国内外のメディア掲載多数。同年5月Miraieを事業化すべく株式会社mazelを設立。

年齢も国籍も職業もごちゃ混ぜ。こだわりはリビングにあり

——どうしてミライエを始めたんですか?

隆志さん ぼくはミライエを始める前からシェアハウスに住んでいて、妻ともそこで知り合いました。ところが子供が生まれるタイミングで、住んでいたシェアハウスを出なければならなくなったんです。

最初は家族で入れるところを探したのですがなかなか見つからず、「だったら自分たちで作ればいいのでは?」と考えて、ミライエを建てることに決めました。

Miraieシェアハウス運営ヨウ・リーシェンさん

——シェアハウスに相当なこだわりをお持ちだったんですね。

隆志さん ぼくらがそれまで住んでいたのは、恵比寿にあるソーシャルアパートメントというところでした。シェアハウスと言っても昔ながらの「安かろう悪かろう」みたいなところではなく、共有スペースからしてラグジュアリー。30数人いた住人は、経営者やベンチャーキャピタリスト、大使館職員など、錚々たる顔ぶれでした。

ソーシャルアパートメント

ソーシャルアパートメント

ぼくらはここで、住んでいるだけでどんどん新しい人と知り合いになり、なおかつそれが仕事にまでつながっていくという、貴重な体験をしました。ミライエには、そういった楽しい体験を今度は自分たちで作り、子供にも体感してもらいたいという思いを込めています。

——開放的で、自然と楽しい気持ちになるリビングですね。

株式会社mazel代表取締役、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、株式会社ガイアックスブランド推進室佐別当隆志さん/Mirai2

隆志さん ぼくらが一番こだわりを持って作ったのが、このリビングです。過ごす時間も一番長いですし、せっかくのシェアハウスですから、一人暮らしではできない体験ができる空間づくりを意識しています。

ここには、一般的な家庭のリビングにあるような据付のテーブルもソファーもないんですよ。椅子にもすべてキャスターがついていて、自由にレイアウトを変えて、食事にもイベントにもアトラクションにも対応できるようにしています。

Miraieシェアハウス運営ヨウ・リーシェンさん2

——一般的には「リビング=家族の団欒の場」のイメージですが、最初から「公共の場」として設計されているんですね。

隆志さん はい。ここではよく、知り合いのアーティストやダンサーの方を呼んで、クリエイティブなワークショップを開催しています。ワークショップにはぼくの会社の同僚家族も来れば、近所に住んでいる親子も参加してくれます。

ハロウィンワークショップ

ハロウィンワークショップ

同居するシェアメイトやその友達はもちろん、部屋の一つはゲストルームにしてあるので、海外から泊まりにくる人も、このリビングに滞留します。つまり、年齢も国籍も職業もさまざまな人たちがごちゃ混ぜになって融合するのが、この空間なんです。

——部屋の端々に飾られている絵や造形物も印象的です。

Miraie

隆志さん どれもワークショップの際にいろいろな人が作ってくれた作品です。その中にはもちろん、長女の絵里が描いたものもあります。

ヨウさん 絵里が小さいころからずっと好きでやり続けているのが絵を描くことです。私がいま着ているこの服も、もともと無地だった体操着に絵里が絵を描いたものなんですよ。かわいいでしょう?

Miraieシェアハウス運営ヨウ・リーシェンさん3

PROFILE

ヨウ・リーシェンさん:Miraie シェアハウス運営

1979年生まれ。台北市出身。アメリカのホテル・レストランの専門大学を卒業後、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科卒業。現在はMiraieのシェアハウス、民泊の運営および自宅で台湾料理教室を開催。娘のホームスクーリングの運営方針や教育も務める。

好きなことに取り組んでいるうちに、子供は自然と学んでいく

——絵里さんは7歳にして、すでに英語と中国語が堪能だそうですね。

ヨウさん はい。でも絵里が中国語を喋るのはもともと私が喋るからであって、「将来こういうスキルが必要だから」と教え込んだわけではないんですよ。英語も同じで、たまたま家にいろいろな国の人が来るから、そういう人と交流するうちに自然と身につけただけ。

隆志さん いまは変化のスピードが速いから、「将来こんな未来が来るから、そのためにこのスキルを身につけるべき」なんて、ぼくらだって分からない時代じゃないですか。だから娘に対しても「こうなって欲しい」とかはあまり考えないですね。

自分がやりたいことがちゃんと見つかって、いろんな人と支え合いながら、人間性を持って生活できていれば、それでいいのかなと思っています。

ヨウさん うん。自分をちゃんと持っていて、人と関係性を作れればそれで十分だよね。

株式会社mazel代表取締役、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、株式会社ガイアックスブランド推進室佐別当隆志さん

——いろいろな人がごちゃ混ぜの環境や「表現のワークショップ」は、そうした価値観を反映したものと言えそうですね。ワークショップでは具体的にはどんなことを?

隆志さん 例えば、「あいのて」さんというアーティストグループがやってくれているのは、日常生活にあるモノから音を作るワークショップです。コップで音を作るとか、風船で音を作るとか。そこには「音楽はプロのミュージシャンだけのものではなく、誰にだって作れるんだよ」というメッセージが込められています。

だから敷居の高い、いわゆる授業みたいな形ではなくて、大人も子供も純粋に楽しむことができます。しかも、そうやって子供が好きに作ったものが、案外大人では発想できないものだったりするんです。

音を作るワークショップ

音を作るワークショップ

ヨウさん 絵里はこのワークショップがきっかけで、自由な発想で音楽を作ることに興味を持って。だから今日もちょうど音楽レッスンに行って、自分が作曲したもののアレンジの仕方を音楽家の先生に教わってきたところです。

子供はそうやってきっかけさえ教わったら、あとは放っておいても本人がどんどん作り込んでいきます。それを何年もかけて伸ばしていけば、きっととんでもなくいい方向に行くんじゃないかと思うんですよ。

でも残念ながら、日本の学校の音楽教育は現状、そうはなっていない……。

Miraie2

——ぼくの知る限りでは確かに、先生に言われた通り、楽譜の通りに弾く練習が多い気がします。

ヨウさん それでは楽器の扱いは上手くなるかもしれないけれど、文字通り音を楽しんだり、自分を表現する力は身につかないと思うんです。

ショックだったのは、ここでライブをやった時に、大きな子が小さな子に向かって「しーっだよ。喋っちゃダメだよ」って注意しているのを見たこと。本来は子供の泣く声だって音楽なんだから、それも含めて即興でやればいいだけなのに。何か教育全体がおかしなことになっているんですよね。

ダンスにしても同じで、振り付け通りに踊れることよりも、本来は自然と体が動きだすような感覚の方が大事なはずじゃないですか。

隆志さん 台湾人の妻からすると、この問題は学校に対する不満というより、日本社会全体のおかしなところとして映っているようです。

前に妻が言っていたのは、日本人にとってはルールに従うことが重要で、何のためにそのルールがあるのかを考えることがない、ということ。目の前に倒れている人がいたら、たとえルールに則れば助けるのが難しい状況であっても、自然と手を差し伸べるのが本来あるべき姿ではないのかということを言っていて。その通りだなと思いました。

佐別当隆志さん/Miraieシェアハウス運営ヨウ・リーシェンさnn

子供にとってきっかけとなる環境を用意するのが親の役割

——それでも、絵里さんはいまも学校に通っている?

隆志さん いまは週に1回だけ学校に行っていて、残りは自宅学習とオルタナティブスクールに通うハイブリッドスクーリングという形をとっています。でも、それはぼくらが「行く必要がない」と判断したからではなく、絵里自身が望んだことでして。

妻と娘は説明会に行った時点で乗り気じゃなかったんですが、ぼくが「まずは入学式だけでも」と言って参加してみたんです。でも、ああいう式って、来賓の人が次々に登壇して挨拶するじゃないですか。その人が誰だかもよく分からないままに、その一人一人に対して「ありがとうございます」と言うことを強要される。一方では、学校が楽しくてはしゃいでいる友達が頭ごなしに怒られていたりもして……。

そうした様子を見て、「やっぱり何か違うね」って話になったんです。

株式会社mazel代表取締役、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、株式会社ガイアックスブランド推進室佐別当隆志さん3

——なるほど。

隆志さん それで1学期は学校に行っていなかったのですが、2学期から週に一コマ、体育の授業だけ出ていました。でも次第に「給食が楽しいから出たい」という話になり、給食を食べるには午前中の他の授業も出なければダメだということで、2年生になってからは算数や国語の授業も受けています。

そうやって多少なりとも授業に出てみんなの様子を見ると、絵里自身も「自分ももっとやらなきゃ」という気持ちになるようで。そういう意味では、通い出したのは良かったのかなと思っています。

——でも、そういうやり方を学校に認めてもらうのは大変だったのでは?

隆志さん それはもう……(苦笑)。学校側としても不登校児を作ると評価が下がってしまうので、どう対処していいか分からないという感じで。1年生の最初は、毎日通うか辞めるかの二択を迫られるような話もありました。

先生の立場ももちろん分かるんですが、でも、働き方、住まい方がこれだけ自由になってきている中、教育のあり方だってもっと柔軟性があっていいのではないかと思うんです。通うか辞めるかの二択ではなくて、その間にだっていろいろな選択肢があるのではないか、と。

学校に通う絵里さん

学校に通う絵里さん

——どうやって折り合いをつけたんですか?

隆志さん しばらくは平行線が続いていたんですけど、いろんな人に相談したら、教育委員会は海外のさまざまな事例を知っているし、法改正もどんどん進んでいるから、現場レベルではなく、教育委員会と直接話せば通じるのではないかという話になり。

実際そういうアプローチをしたら、うちはちゃんと教育環境を整えているからということで、来れる日から来ればいいというように柔軟な対応を学校側に働きかけてくれたんです。

——これは誤解されそうなところですが、佐別当さんたちは別に、学校の教育を全否定しているわけじゃないんですよね。

株式会社mazel代表取締役、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、株式会社ガイアックスブランド推進室佐別当隆志さん4

隆志さん そうなんですよ。ぼくらが主張しているのは、もっと柔軟に選択できてもいいのではないかということであって、従来の手法を全否定するつもりも必要もない。むしろ、何かが全面的に間違っていて、別の何かこそが正しいというのは、それもまた思考停止だと思うんです。

ぼくだって元々は、学校に行くのが当たり前と思っていた一人です。でも、学校に行かない選択もあるのではと一度考えた瞬間に、海外では2、3割がホームスクーリングだということとか、合法化されているところなんていっぱいあるってことが見えてきたんです。

——思考停止したらダメというのは、仮に学校に行く選択をしたとしても同じことが言えそうですね。

隆志さん そうだと思います。先生に言われた通りに学ぶのが学校だと思った瞬間、それしか学べなくなってしまう。学校は特にルールだらけの場所だと思うので。場合によっては、ルール自体を変えに行くアプローチだってあっていいんじゃないかと思っています。

——子供は勝手に育っていくというお話でしたけど、こうやって聞いていくと、親の役割というのは依然として大きいと感じます。

ヨウさん そう。ホームスクーリングっていうとみんな「子供をほったらかして親が楽してるんじゃないか」と勘違いするんだけど、全然そうじゃないんです。

Miraieシェアハウス運営ヨウ・リーシェンさん4

本人の意思で学校に行かずに家で勉強することを選んだのだから、家ではちゃんと勉強することを求めますよ。それができていなかったら、めちゃくちゃ厳しく怒ったりもします。親がしっかりした考えを持っていないとすぐにおかしなことになってしまう。本当は誰よりも体力を使ってやっているんです。

——隆志さんも厳しく接するんですか? あまりそういうタイプには見えないですけど。

隆志さん ぼくは妻のようには厳しく怒ったりしないです。でも、ワークショップをやってくれそうな面白い人は自分から探してきますし、オルタナティブスクールのようなところをいくつも回って情報を集めることだってします。

きっかけさえあれば自分で学んでいくのが子供ですけど、そのきっかけとなる環境を用意するのは親の役割だと思っています。それをしなかったら何にもない環境になってしまうので。

Miraie2

同じことは会社組織でも言える?

——ところで、ここまで伺ったような親と子の関係は、例えば会社組織におけるマネジャーとメンバーの関係にも通じると思いますか?

隆志さん そうですね。ぼくは学生のころにインターンとして働いたガイアックスという会社にそのまま入って、一時は部長とか役員とかをやっていたんですけど、いまは全部おろしてくれと言って、結構自由な働き方をさせてもらっているんです。

ガイアックス内でのいまのポジションは主に、シェアリングエコノミー協会という業界団体の事務局長としてのそれで、もちろんそこにはメンバーも何人かいるんですけど、いわゆるリーダーシップのようなものはとっていないです。

——となると、どんな接し方を?

隆志さん 基本的には、組織としてやりたいことを見つけてビジョンを作る一方、それとメンバーがしたいことをどう重ね合せるか、みたいなことをやっています。プライベートの時間も作れるようできるだけ応援して、それがどうやったら仕事に活かせるかをメンバーと一緒に考える、というような。

本人がやりたいことを見つけて、それが学びや目標になっていき……というのは、家で子供に対してやっているのと似たようなことと言えるかもしれません。

Miraie3

——とても理想的に聞こえるのですが、そういうやり方は組織が大きくなっても可能ですか?

隆志さん 50人、100人の組織になるとあまりうまくいかないだろうと思います。むしろ組織を大きくしなくてもいいような体制づくりが重要になってくるのではないかな、と。

例えば、メンバーが育って外に出ていくと言われると、普通はなんとかして引き止めようとするでしょう。そうやって組織を大きいまま維持しようとする。でも、そういう人が出ていった先で活躍してくれれば、そこから新たな仕事や人とのつながりが生まれるかもしれない。

そうやって組織自体は大きくならず、でもできることを大きくする方法を探す方が、組織にとっては健全な気がしています。

——今後、世の中はそういった組織が主流になっていきますか?

隆志さん もちろん、大規模なモノづくりをやる場合は、今後も大きな組織で効率を求めた方がいいだろうと思います。

でも逆に、答えがないものや、多様化したニーズに応えるとか、そもそもニーズ自体を作り出すのであれば、大きな組織にはできないこともあるはずです。そうした場合はできるだけ小さな組織で、メンバー一人ひとりの自発性やオリジナリティをいかに生かすかが、組織が機能するかどうかのカギになるのではないでしょうか。

株式会社mazel代表取締役、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、株式会社ガイアックスブランド推進室佐別当隆志さん5

(文・ 鈴木陸夫、岡徳之、撮影・伊藤圭)

"未来を変える"プロジェクトから転載(2018年7月26日公開の記事)

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