ファストファッションブーム終焉でもZARAが強い理由

ZARA

ファストファッションブームに陰りが出ても、安定した成長を続けるスペイン発のZARA.

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ファストファッションの象徴とも言えるH&M銀座店が2018年7月、10年の歴史に幕を下ろした。

出店時には銀座や原宿に大行列ができ、一世を風靡したファストファッションも今は昔。H&Mはじめ閉店や撤退を決めたブランドと、ZARAやユニクロなど増収増益を続けるブランドで明暗が分かれている。

ファストファッションブームの終焉に「次の流通革新が起きている」と話す、ファッション流通コンサルタントの齊藤孝浩さんに、この先の展望を聞いた。

ファストファッション勝ち組の終焉

「象徴的なお店が相次ぎ閉店し、ファストファッションブームは終わった感があります」

商社を皮切りに、欧州ブランド日本法人、アパレルチェーンに勤務後、コンサルタントとしてファッション業界の流通に携わってきた齊藤さんは、現状をそう語る。

ファストファッション:世界的な流行をデザインに採り入れつつ、低価格に抑えた衣料品を大量に生産し、短いサイクルで販売するブランドやその業態のこと。安くて早いことから、「ファストフード」にならった造語。

2018年7月にはH&M銀座店が、2017年10月にはフォーエバー21の旗艦店である原宿店が、それぞれ閉店。2015〜2017年には、英トップショップや米ギャップ傘下のオールドネイビーといった象徴的なブランドが相次ぎ、日本市場から退場していった。

齊藤さんは、ファストファッションであることが勝ち組だった時代の終焉を指摘する。

「お客さんは使い勝手がわかったので、ZARAもユニクロもブームを終えて、消費のポートフォリオに組み込まれた、と言えるでしょう。ただ、ここからの急激な成長は難しい。ファストファッションブランドも、革新を取り入れて進化する、次のタイミングが来ています

ファッション流通革新は、10年ごとに起きている?

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作成:Business Insider Japan

2018年はファストファッションの日本上陸からちょうど10年。齊藤さんは「流通革新には、10年周期がある」と言う。

「H&Mが日本に来たのが2008年。そこから10年さかのぼると、1998年には、フリースブームを経てSPA(アパレル製造小売業)の火付け役となった、ユニクロの原宿店がオープンしている。そのさらに10年前は、バブル崩壊による価格破壊に向かう時期です」

それより前には、ダイエーやイトーヨーカ堂といった総合量販店による「低価格化」改革(1970年代)、さらに前は百貨店を中心とした「ハレ消費」の時代(1960年代)がある。

おおよそ10年ごとに、ファッション流通革新が訪れ、人々の消費の形は移り変わってきたという見方だ。

勝ち組ZARA、翳りを見せるH&Mの理由とは

H&M銀座店

H&M銀座店は、10年の歴史に幕を下ろした。2008年9月に日本1号店としてオープンした際には、長蛇の列ができた。

GettyImages

それでは、ファストファッションブームの終焉(2018年)から、次の10年は何が起きるだろう。その行方は、ファストファッションの中でも明暗を分けた、2つの代表的ブランドの比較から見えて来そうだ。

齊藤さんは、ZARAとH&Mの2ブランドを挙げる。

ZARA:売上高世界一のアパレル企業、インディテックス(スペイン)の売り上げの約65%を占める、アパレルチェーン。世界的にアパレル企業の利益率が下がる中、10年間で年率10%成長を続け、2016年度の利益率は17%超(2016年度)。
H&M:売上高世界2位で、2000年のアメリカ上陸から世界のファストファッションブームを牽引して来た、スウェーデンのアパレルチェーン。利益率は10%程度(2016年度)で、ZARAとは開きが拡大。H&M銀座店の閉店に象徴されるように、店舗出店主義にも陰りが見えている。
両ブランドの「差」の背景について、齊藤さんは3つを指摘する。

①新興国で人件費カットの落とし穴

「大きな国の市場でいかにシェアを獲得するかというH&Mに対し、お客の需要に合わせて柔軟に変化し続けるというZARAのポリシーや戦略が、明暗を分けている」(齊藤さん)

H&Mはじめ多くのファストファッションブランドが、人件費の安い国へアウトソーシングして生産し、経済大国、先進国に売るビジネスモデルをとっている。

しかし、「原材料及び人件費は上がるので、どんどん安い国へ生産地を移すことになります。すると、作ってから輸送する時間が長くかかる。ファッションビジネスは季節や気候に応じて、いかに素早く準備できるかが大事なのに、そのリーチ(店舗への到達)が長くなってしまう

齊藤孝浩さん。

ファッション流通コンサルタントの、齊藤孝浩さん。グローバルのファッション流通の動きをウォッチしてきた。

撮影:滝川麻衣子

こうして原価も上がる中、世界的な天候不順で、売り切るための値下げ幅も拡大。利益は取りづらくなっている。これに対し、本社のあるスペインや近隣国に生産拠点を置くZARAは、マーケットの反応への素早い動きが特徴だ。作ったものを売り切るのではなく、まず店舗に出してみて「売れるものを作る」体制が強み。生産拠点が本社に近く、世界中の店舗にドア・ツー・ドアの空輸で運ぶ。コストは多少、高くても、時間や在庫のロスも回避できる。

②カギを握るデジタル投資時代のカギを握る「デジタル投資」に注力できたかどうかも、重要だ。「デザインや製造機能を内製化し、スペインで生産するZARAは、ITインフラ整備も自前主義。デジタル面でもスピードをもって需要に答えようという姿勢がある」と、齊藤さんは指摘。

一方のH&Mは「一つの国の市場でのシェア獲得に力を入れるので、店舗出店主義だった。そこに注力しすぎて、デジタル投資に半歩、遅れた感があります」

③トレンドを最安値戦略の限界価格戦略でも差がついた。

ZARAは「百貨店の認知価格の半額程度」といったように、すでに流通する価格に対し「同じ満足度なのに安い」という、相対価格設定を行っていると、齊藤さんは指摘する。

「これに対しH&Mやユニクロは、市場最低価格設定。トレンドファッション最安値が売りだったのが、H&Mのさらに下の価格を打ち出すアパレルチェーンがオンライン、オフライン共に、各国のローカル市場に登場し、価格競争に陥っている

いっぱいのクローゼットを最適化

ファストファッションブームで浮き彫りになった、最安値戦略や新興国頼みの限界を踏まえつつ、齊藤さんは今後、5年、10年で注目する動きとして①ストアとデジタルの相互の取り込みと②ストレスなきショッピングの進化をあげた。

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モノであふれたクローゼットの最適化の動きに、寄与しているのがメルカリなどのフリマアプリだ。

撮影:今村拓馬

ストアとデジタルの乗り入れは進みそうだ。「Amazonなどオンラインから来た企業は実店舗との融合を考えるし、実店舗を持っているところはテクノロジーを利用して買い物を豊かにする道を探っている。ZOZOTOWNやAmazonの登場は、(既存のアパレルの)刺激になっていますね」

ただ、オンラインで買い物をするeコマースには、eコマースなりのストレスもあった。

「箱に詰めて送られてきた衣服を気軽に試着して、好きなものだけ購入するような、Amazonのプライムワードローブ(アメリカでスタート)など、オンライン発の動きはますます増えそうです。一方、店舗でコーディネートしてもらう強みは絶対にある。オンラインで選んで、お店で試着するサービスももっと出てくるでしょう」

10年はデジタル化として、さらにその先は「消費者が賢くなっていく」というのが、齊藤さんの見通しだ。

「ファストファッションの時代を経て、クローゼットはいっぱいです。中身の在庫調整という意味で、メルカリやクローゼットの中身の預かりのようなサービスがもっと生まれ、最適化がされていくでしょう」

つくるだけ売れる時代ではなく、最適化の末に空いた空間にどう提案していくのか。企業は問われ、消費者が選択をする時代がやってくるのだ。

(文・滝川麻衣子)


齊藤孝浩(さいとうたかひろ):フリーランスのファッション流通コンサルタントとして新興ファッション専門店の在庫最適化と人材育成を支援。近著に「ユニクロ対ZARA」(日経ビジネス人文庫)。ディマンドワークス代表 。自身も登壇する、人生100年時代「第三の働き方の行方」 Independent Contractors Forum 2018 が9月22日に開催。

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