大規模な停電を伴った、北海道胆振東部地震(以下、北海道地震)。2016年4月の熊本地震などここ数年の大規模な災害では、Twitterを使った被災状況の投稿が救助や避難物資の配送にも成果をあげてきた。
だが、今回の北海道地震では、過去の大規模災害に比べ、投稿が少ない。一時は全道が停電したため、スマホの電池切れを恐れたためなのだろうか。
震災発生当初、報道機関はSNSを通じた情報共有を呼びかけていたが、今回のような災害で果たしてSNSは有効に使われたのか。検証した。
災害時、SNSによる情報共有は有効か。
撮影:今村拓馬
北海道地震で震度7が観測された厚真町。Twitterで「厚真町」を検索すると、報道機関の映像やツイートが次々と表示される。
ここ数年の地震や水害では、被災地の住民たちが「#拡散希望」と現地の状況をツイートしたり、自治体などが生活に必要な情報の発信をしたりしていた。
今回の北海道地震ではどうだったのか。
北海道内最大の火力発電所の苫東厚真発電所が被災したことなどが原因で、一時、北海道全域が停電した。地震当初はどこでスマホの充電ができるか、という情報が盛んに流された。
大規模停電によりテレビでニュースや情報がチェックできない中、行政情報や報道各社の情報をSNSで共有した可能性はあるが、件数を見る限り、生活に密着した情報の共有はそれほど積極的にされなかったのではないか。
ユーザーローカル社のSNS分析ツール「Social Insight」で、「厚真町」を含むツイートを分析した。
ほかの災害と比較するため、2018年7月に豪雨被害に見舞われた、岡山県倉敷市の「真備町」、2016年4月の熊本地震で被害にあった「益城町」を含む、ツイートと比較した。
1、北海道地震の翌日からツイート数は激減
人口も被災状況も異なるため単純比較はできないが、厚真町はピーク時のツイート数が少なく、その後の減少率も高い。
ただ、人口を比べると、厚真町は4671人(8月末)、益城町は3万2952人(3月末)、真備町は2万1483人(8月末)。対人口比では、厚真町のツイート数が多い結果になった。
【厚真町】
震災が発生した当日の6日のツイート数は、約6万5000。震災翌日には、約1万4000件に激減、その後は微減、微増を繰り返し、震災から5日後の9月11日のツイート数は、8042で1万台を切った。
2018年9月6日〜9月11日、厚真町を含むツイート数。初日をピークに翌日から激減した。
出典:ユーザーローカル
【益城町】
2016年4月14日の前震当日のツイート数は、約7万7000。15日は、約10万9000に増え、未明に本震のあった16日は約9万ツイート。17日からは2〜3万台に大幅に減ったが、前震から5日後の19日は、3万7000を超え、最も少ない18日も2万6000超だった。
2016年4月14日〜4月19日、熊本県の「益城町」を含むツイート数。
出典:ユーザーローカル
【真備町】
豪雨による被害が集中した2018年7月7日のツイート数は、約11万8000件。8日の翌日は、約6万2000に減少したが、最も少ない11日も2万5000を超えていた。
2018年7月7日〜7月12日、広島県倉敷市の「真備町」を含むツイート数。
出典:ユーザーローカル
2.SNSで基本情報を共有、生活情報は乏しく
リツイートの状況を見ると、真備町は被災地での生活に関する情報が拡散されていたが、厚真町では被災地での身近な情報が共有されにくかった状況が浮かんだ。
【厚真町】
リツイートの多い上位30番目までを見ると、報道機関や政府などのツイートが中心。被災地の写真や震度、災害派遣の情報が主な内容だった。
今回は震災発生当時の大規模な停電により、報道では、情報をSNSで拡散・共有するよう呼びかけていた。停電でテレビで情報が得られず、SNSで報道の情報を共有した可能性があるが、支援物資や給水、避難所など、生活に関する情報のツイートは、上位30番目までは乏しく、自治体のツイートは見当たらなかった。
リツイートの多い、上位3つのツイート。
出典:ユーザーローカル
一般の人とみられるツイートは数件。うち2件は、厚真町以外の周辺地域(むかわ町(鵡川町、下記のツイッター)、千歳市)の被害を訴える内容だった。千歳市についてツイートしたユーザーは、「『普通に過ごしている被害地周辺の生活者の情報の欠如』が多くの人の思いだと感じます」と別のツイートでつぶやき、情報発信を求めていた。
【益城町】
リツイートの多い上位30件までは、報道機関のものが多いものの、炊き出しや救助情報など一般の人のツイートが10件ほどあった。また、地元の熊本県警が不審者の目撃情報や渋滞情報を発信していた。
一般の人によるツイートには、救助要請のほか支援物資のリストや避難所の情報、罹災証明書の発行について、情報が共有されていた。
リツイートの多い、上位3つのツイート。
出典:ユーザーローカル
【真備町】
リツイートの多い上位30件は、20件近くが一般の人とみられるツイート。救助要請のほか、観光に関する風評被害、ペットの救助などをツイート。現地の大浴場を被災者向けに開放するというツイートは、複数件が拡散していた。
最もリツイートの多かったのは、倉敷市の支援物資に関する注意喚起。このほか、倉敷市が発信した給水所の情報も多くリツイートされていた。
リツイートの多い、上位3つのツイート。
出典:ユーザーローカル
上記のように、真備町、益城町は生活に関する情報がSNSで拡散されていたが、厚真町の場合は、報道の内容を共有することを優先したためか、そのような情報があまり拡散されなかった。
3.情報共有(拡散)の規模は低調
【厚真町】
リツイート数の多かった投稿を見ると、読売新聞写真部の投稿に対するリツイートが最大で1万7000超。益城町、真備町の場合、最もリツイートの多かった投稿に比べ、25〜70%の比率になった。(益城町は吉野家の投稿で、リツイートは2万5000超、真備町は倉敷市の投稿で、リツイートは7万超)。
震災発生から5日間のリツイート数は、ツイート数に反映されるように、厚真町の場合は、益城町、真備町の場合と比較し、最も少なかった。
赤枠は期間中のリツイートの数。
出典:ユーザーローカル
【益城町】
合計のツイート数は、真備町よりも多く、結果的にリツイート数も多かった。
赤枠は、期間中のリツイートの数。
出典:ユーザーローカル
【真備町】
7日のツイートは多かったものの、その後のツイート数が減ったため、全体では、益城町の時よりもツイート数が少なく、リツイート数も比較して少なかった。
赤枠は、期間中のリツイートの数。
出典:ユーザーローカル
自治体フォロワーは増加「SNSは即時性に有効な手段」
今回の3地域に加え、被災地の自治体のアカウントのフォロワー数を、災害の発生前後で比較してみると、札幌市は約2万8000フォロワー増加、倉敷市は、約7600フォロワー増加していた。
札幌市の公式Twitterアカウントのフォロワー数。
出典:ユーザーローカル
倉敷市の公式Twitterアカウントのフォロワー数。
出典:ユーザーローカル
札幌市はフォロワー数が大きく伸び、リツイート数は最も多い投稿で8700を集めた。一方、倉敷市は、上記のリツイートの図にもあるように、1つの投稿で最大で7万リツイートを集め、情報の拡散が盛んに行われた。
倉敷市のTwitterを担当する、くらしき情報発信課の男性は、「Twitterは即時に情報を拡散するのに有効だった」という。西日本豪雨の際は、避難所にいる住民たちがLINEグループをつくり、Twitterや市のホームページの情報を共有する工夫もされていたという。「LINEならば、プッシュ型で情報が来るので、常にTwitterやホームページを見ていない人にも届けられる」(同課の担当者)。
北海道地震の現状について伝えると、「現地の状況はわかりませんが、スマホがないと、即時に情報が入らないリスクがあると感じました」(同課の担当者)と感じた。SNSによる発信がなければ、「避難所に紙ベースで情報を置いたり、広報車を使ったり、従来の方法で情報を共有する。その場合は、タイムラグが生まれてしまう」(同担当者)。渋滞の情報など、「刻々と状況が変わる情報に対し、即時性のあるSNSが向いていた」という。
札幌市の場合も、リツイートなどはほかの自治体よりは多くないが、フォロワー数の伸びは大きく、情報収集の手段の1つになっていた。
大規模な停電や節電を伴う災害が、もし、首都圏で発生したら——。ゲリラ豪雨や電車の運休など、何かあれば、Twitterで現地の情報を共有し合う時代だ。今回の災害を振り返り、発災時の情報共有・発信のあり方を、考えておきたい。
(文、木許はるみ)