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- 元NFLのクォーターバック、コリン・キャパニックを起用したナイキの新しい「Just Do It!」キャンペーンが大きな批判を集めている。
- だが最終的には、ナイキの勝利になるとマーケティングの専門家は語った。なぜなら、コアなファンにアピールできるから。実際、具体的な成果もあった。
- 他のブランドも議論を呼ぶ問題への立場を明確にしている。だが、誰もがナイキのように余裕があるわけではない。
ナイキは新しい「Just Do It!」キャンペーンに元NFLのクォーターバック、コリン・キャパニックを起用。議論を呼んでいる。
ナイキは確実に大きな批判を呼ぶことを予測していた。キャンペーンに怒った消費者はナイキのシューズや靴下を燃やしたり、トレードマークを切り取ったりした。だが実はそれは、ナイキが望んでいたことかもしれないとマーケティングの専門家は語った。
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広告効果は予想される批判を上回ると計算したに違いない
ブランドは近年、議論を呼ぶ問題へのスタンスを明確にすることで消費者の関心を惹こうとしている。だが、ナイキほど大胆なブランドは多くない。
「(怒った消費者が)ナイキの製品を燃やすことは、ブランドとコアなファンとの結びつきを強固にすると彼らは計算したに違いない」と戦略的コミュニケーションを専門とする企業Hill Impactの創業者兼CEO、ダン・ヒル(Dan Hill)は語った。
「そうしたネガティブな行為は実際、ベネフィットを生むだろう」
ヒルはナイキと同じくらい議論を呼んだ事例として、数年前のチックフィレイ(Chick-fil-A)を上げた。創業者が同性婚への反対を表明、複数の団体が同社に抗議し、商品購入をボイコットした。一方、支持する人々が店に集まり、その後、売り上げは急増した。
ナイキは同じような結果を予測したに違いないとヒルは述べた。
「安全第一で行くよりも、問題への態度を明確にした方がベネフィットになり得るとナイキは認識していたに違いない」とヒル。
「彼らが批判を予測していなかったとは思えない。批判による痛手はベネフィットよりも小さいと考えていたはずだ」
タイミング、そして真のブランドであることが不可欠
ナイキにとってキャパニックをサポートすることはシンプルに、賢いマーケティング施策となるだろう。ナイキの主要顧客、つまりニューヨークやロサンゼルスのような「主要都市」に住む若い消費者にアピールすることができる。
そして、信念を持った人たちをターゲットにすることができる。
「自分の価値観は、自分が応援しているブランドと密接に結びついていると考えるすべての消費者にとって、主張を明確にするというナイキの決定は極めて重要なもの」とPeppercommの共同創業者兼CEO、スティーブ・コーディ(Steve Cody)は語った。
「ナイキは常に、主流のアスリートから離れて身を置く象徴的な選手を支持することで、ナイキ自体を孤高の存在にしてきた」とコーディ。
「キャパニックは、まさに最新のケース」
具体的な成果もあった。キャンペーンのスタートからわずか2日間だけで、オンライン上でナイキは110万回も言及された。「Just Do It」あるいは「#JustDoIt」は52万7000回言及された。ブランドウォッチ(Brandwatch)の分析によると、3000%の増加だ。
ブランド・コンサルティング企業Mulberry & Astorの創業者、クリス・アリエリ(Chris Allieri)は、ナイキの今回の取り組みは極めてタイムリーで、正しいことを行ったと語った。
「トランプ大統領の人気が急落し、NFL選手の表現の自由への支持が大きくなるなか、ナイキにとっては良い結果となった」とアリエリ。
「1つ言っておくべきことは、表現の自由をサポートしているが、これは何百万ドルもかけた広告キャンペーンということ」
誰にでもできることではない
真偽のほどは別として、Ericho CommunicationsのCEO、エリック・ヤバーバウム(Yaverbaum)によると、ナイキの取り組みはマーケティングとPRの古典的なテキストに良い事例として載っているような取り組み。
ナイキは「Just Do It!」の30周年キャンペーンの話題づくりに成功しただけでなく、ナイキが一貫してサポートしてきたキャパニックに再びスポットライトを当てることにも成功した。
「キャバニックがNFLのブラックリストに載せられているかどうかという問題を再び表面化させることで、ナイキのキャバニックへの投資の価値をさらに大きくする役割をシンプルに担うことができた」とヤバーバウムは語った。
またヒルによると、ブランドは現状を維持するよりも、ファンにアピールすることでより支持を得られると考えている。だがすべてのブランドがナイキのような余裕と自由さを持っているわけではない。
「議論を呼ぶ危険な問題に触れることは、企業にとって危険なビジネスであり、ペプシやスターバックスのように批判を受けることになる」とヒル。
「こうした取り組みがトレンドになるとは思わない。なぜなら多くの消費者の怒りを受け止め、生き残れる企業は少ない」
(翻訳、編集:増田隆幸)