アリババを創業したジャック・マー(馬雲)会長が9月10日、会長を退いた。この日はマー氏の55歳の誕生日であり、中国では「教師の日」でもある。
そしてアリババは同日、本社がある浙江省杭州市で、創業20周年を祝う記念大会を開いた。
マー氏自身は8月最終週をもって、公の場での会長としての活動を終えた。 28日に杭州での世界女性起業家大会、29日は上海で世界人工知能(AI)大会(WAIC)に登壇し、30日には山東省の農村で開かれた第7回中国タオバオ(淘宝)村フォーラムに姿を見せた。
アリババ上場後の2014年、マー氏はアリババの3大戦略として「グローバル化、農村の市場化、ビッグデータとクラウドコンピュータ」を挙げ、テクノロジーと農村を同じ位置に据え、共存共栄を目指した。最後の社外での公務に農村を選んだのも、彼の重要なメッセージと言えるだろう。
マー氏はなぜ55歳の若さでアリババを退くのか、今後何をするのか。マー氏自身が1年前の9月10日に公開した手紙を、紹介する。
(この記事は、2018年9月10日に公開した記事に新しい情報を追加し、再掲しています)
早稲田大学の大隈記念講堂で講演したときのアリババのジャック・マー会長。
撮影:小林優多郎
アリババグループの創業者、ジャック・マー会長は2018年9月10日、自身が公表した手紙で、2019年9月10日にトップを退き、張勇(ダニエル・チャン)CEOを後任に据えると表明した。手紙の全文は以下。
教師の日、おめでとう!
アリババのお客様、従業員、株主の皆様。
今年はアリババの19周年でした。私はこみあげて来る思いを、皆様に発表します。取締役会の承認を経て、1年後の本日、つまり2019年9月10日、アリババ20周年の節目に、私はアリババの董事局主席(董事長、トップに相当)を退き、後任をアリババグループCEOの張勇(ダニエル・チャン)に託します。私は今日からダニエル・チャンと2人で、継承準備を進めていきます。2019年9月10日以降も、私はアリババグループの取締役会メンバーに残り、2020年の株主総会に出席します。
これは私が以前から熟慮を重ね、10年間準備を進め、今日ようやく実現したものです。アリババのパートナーが同意してくれたこと、取締役会が承認してくれたこと、さらにはアリババの仲間や彼らの家族全てにも感謝しなければいけません。19年にわたって私を信頼し、支えてくれ、一緒に努力してくれたからこそ、私たちは自信と能力をもって、この日を迎えることができました。アリババは個人の資質に依存した体制から、組織や人材、カルチャーを軸とした企業へとステップを昇ります。
中国と世界に誇れる企業で102年成長を続ける
アリババのジャック・マー会長(左)とのダニエル・チャンCEO。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
1999年、皆でアリババを立ち上げたとき、私たちは中国と世界に誇れる企業をつくり、102年間成長を続けるという志を立てました。我々はその時、企業と102年伴走できる人などいないと認識していました。統治制度、カルチャー、そして人材育成を整えずには成長は続かないと。企業は創業者だけに頼ることはできません。能力、精神力、体力の面からも、誰もが永遠にCEOや董事長の職を務められないと私はよく知っています。10年前、どうやって馬雲(ジャック・マー)が会社を去った後も、アリババを健全に成長させられるのかと、私は自分に問いかけました。私たちは、きちんとした制度と独自のカルチャーをつくりあげ、脈脈と人材を育成することで、ようやく企業の継承と成長という難題を解決できるのです。このために、この10年、私はたゆまぬ努力と実践を続けてきました。
私は教師になるべく教育を受け、今日まで走ってこられたことを大変幸運に思います。企業の将来への責任は、自分が負うべき責任です。企業内のさらに若く、能力と才覚のある人物をリーダーに据え、ビジネスを継承させることは、非常に重要なミッションです。私たちは全世界の中小企業、若者、女性たちの発展をお手伝いするというミッションとビジョンを持ち、奮闘してきました。このミッションは私たちの初心であり、やるべきことであり、責任です。このようなミッションを信じ、実現するためにはより多くのジャック・マーが必要であり、数代にわたるアリババの人々の奮闘が必要なのです。
ミッションとビジョンに根ざした企業になった
今日のアリババの最も誇れるものは、アリババの事業や規模、業績ではなく、私たちが本物のミッションとビジョンに根差した企業になったことです。私たちは新たなパートナー制度を設立し、独自の文化とよきリーダーたちによって、企業の継承に必要なしっかりとした基礎を固めました。実際、2013年から私はCEOを譲り、すでに現在の体制で5年を滞りなく過ごしました。
私たちがつくり上げたパートナー制度は大企業のイノベーション問題、後継者問題、そして将来を担う力の問題、カルチャーの継承問題もクリエーティブに解決してきました。この数年、私たちは自分たちの制度や人材カルチャーのシステムを絶えず考え、改善を重ねてきました。人、あるいは制度だけでは問題は解決しません。制度と人、カルチャーが完全に融合してこそ、企業は永続的に成長できるのです。私は現在のアリババのパートナー制度と、アリババが守ってきた文化を誇りに思います。今後、より多くの顧客、従業員、株主のサポートと信認を得られると信じています。
アリババCEOのダニエル・チャン氏。
REUTERS/Aly Song
1999年の創業の日から私は、未来のアリババには、絶えず良将を輩出する人材チームと、代替わりしても発展できる継承システムが欠かせないと言ってきました。19年の努力が実り、今日のアリババは人材の質、量ともに世界の一流に属すると言えます。教師出身の私にとって、今のメンバー、リーダーたち、そしてミッションや価値観を重視する独自の文化、ダニエル・チャンに代表されるように傑出したビジネスリーダーや専門人材を生み出せたことを、大変誇りに思っています。
ダニエル・チャンがアリババに参画してから11年が経ちました。アリババグループのCEOに就任してからは、卓越したビジネスの才能と、安定したリーダーシップを発揮し、13四半期にわたって、アリババの業績の持続的な成長を実現しました。ダニエル・チャンはスーパーコンピューターのようなロジックや思考力を有し、堅いミッションとビジョンを持ち、非常に勇敢で、仕事に全てを捧げ、未来のイノベーションデザイン、新たなビジネスモデル、新業態に取り組んできました。彼は「2018年の素晴らしい中国人CEOランキング」でトップに選出され、その名に恥じない人物です。彼と彼のチームは既にお客様、従業員、そして株主の信頼を獲得しています。アリババの“聖火リレー”は彼と彼が率いるチームに託されました。私はこれが、自分にとって一番正しい決定だと考えています。この数年、私とダニエル・チャンは一緒に走ってきました。私は彼と彼が率いる次世代のアリババリーダーたちに大きな自信を持っています。
馬雲(ジャック・マー)
2018年9月10日
(文・翻訳、浦上早苗)