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「私は黙らない」ミレニアル女子たちが動き出す#MeTooの先へ——SNSだけでなく自費出版雑誌も創刊

「私は黙らない」——日本に溢れる性差別、とに女性差別に対して若い世代が声を上げ始めている。

ミレニアル世代の女性たちを中心につくられた団体「I AM(アイアム)」は、SNSでの発信やセンスのいいカラフルなプラカードを使って、同世代にこの問題に関心を持ってもらうよう呼びかける。そしてネット世代の彼女たちにとって対極にも思える自主制作・出版の雑誌。さまざまなツールを駆使して、社会の歪みに埋もれた声をすくい上げている。

きっかけは財務省前事務次官のセクハラ

私は黙らない街宣

#MeTooが盛り上がらなかったと言われる日本で、性差別に「NO」を突きつける女性たちがいる。

撮影:今村拓馬

I AMを結成するきっかけになったのは、2018年4月に東京都新宿駅前で行われた街宣活動「私は黙らない0428」だ。もともとフェミニズムやジェンダーの問題に関心を持ち、つながっていた女性たちが、財務省の福田淳一前事務次官のセクハラ問題を受け、「セクシズム(性差別)に対して自分たちの言葉で語る場をつくろう」と企画した。

「セクシズムの問題が日常に起こり過ぎていて『仕方がない』と自分を納得させ、諦めざるを得なかった人はたくさんいると思います。そうしないと生きていけないから。そんな人にこの声が届きますように。あなたは何も悪くない。決して一人じゃない。あなたにはこの抑圧に対して声を上げる権利がある

4月の街宣でそう呼びかけたのは、I AMのメンバーの一人、溝井萌子さん(22歳、大学生)だ。当日は溝井さんの他にも、高校生や専業主婦、元セックスワーカーなどさまざまなバックグラウンドを持つ女性たちが、日頃感じているセクシズムや自身が経験したセクハラやパワハラ、性被害について声を上げた。

この時は男性からも「傍観者にも罪がある。お互いを指摘し合わないと加害者は変わらない」という発言があった。女性差別の問題は男性の問題、関係ない人なんていない。そう伝えるのもこの街宣の目的の一つだった。

スピーカーの話にうなずき涙を流す女性、飛び入りで参加したというセクシュアル・マイノリティの男性、韓国からの留学生など、この時の活動には年齢も性別も国籍も超えた多様な人々が集まった。

「怒り」を私たちの手に取り戻す

溝井萌子

溝井萌子さん

撮影:竹下郁子

溝井さんは津田塾大学国際関係学科の4年生。現在は外国人のセックスワーカーが経験する複合差別について学ぶ。自身を「フェミニスト」だと言い、SNSアカウントのプロフィール欄にもそう記している。

フェミニストとして生きていこうと強く決意したのは、2015年に学生団体「SEALDs(シールズ)」として活動し始めてからだ。安全関連保障法案への反対など女子学生が政治に関して意見を言うと、SNSやインターネットの掲示板には「可愛い」「ブス」「レイプしてやる」などの誹謗中傷や脅迫が飛び交った。発言の内容ではなく外見でまず「値踏み」される。これは男性メンバーにはなかったことだ。

「女性はまだまだ“モノ”として見られていると思います。だから声を上げるだけで叩かれる。こんな状況は変えなくちゃと」(溝井さん)

私は黙らない街宣

話題になった「私は黙らない0428」街宣の告知画像。

撮影:長谷川唯/デザイン:宮越里子

特に女性が抑圧されていると感じるのが、「怒り」の表現に関してだ。前出の街宣の告知画像に「FUCK SEXISM」という言葉を使ったところ、「汚い言葉を使うな」「英語の使い方がおかしい」という批判や中傷にさらされた。

溝井さんは、これまでもジェンダーに関する問題提起をすると「そんな言い方じゃ誰も聞いてもらえないよ」と言われたり、批判が「攻撃」に置き換えられ、「感情的だ」と揶揄されることがあったという。

日本では女性が怒りを表すこと、強い言葉を使うこと自体すごく忌避されていますが、怒って問題提起するのは本来すごく知的な行為のはずです。だって背景には女性差別的な社会構造があるから。いつも抑圧させられている女性たちが、怒りの言葉を取り戻して連帯する、街宣はそんな空間になれば良いなと思っていました」(溝井さん)

デザインの力で社会運動を後押し

私は黙らない街宣

新宿駅前をカラフルでパワフルな空間に変えたプラカードたち。これは女性たちの心の声だ。

撮影:今村拓馬

活動で印象的だったのは、怒りの言葉を表現した色鮮やかなプラカードたちだ。これまでもフェミニズム運動のスローガンで使われてきた「My Body My Choice」や「STOP GENDERING ME」、セクハラや性被害を告発する「#MeToo」、そして「どんな仕事にも『人権』がある」「どんな仕事でもセクハラは加害」は、財務省の福田前事務次官がセクハラ問題の聴取で、「女性が接客をしているお店に行き、お店の女性と言葉遊びを楽しむようなことはある」と答えたことへのカウンターだ。

プラカードのデザインを担当したのは、I AMメンバーでグラフィックデザイナーの宮越里子さん(37)と、イラストレーターでデザイナーのSuper-KIKIさん(34)姉妹。アメリカなど海外のデモでは、子どもから老人まで思い思いの言葉を綴ったプラカードを自分でつくって参加することが多い。誰かのデザインを共有するのは日本の近年の特徴で、今回の街宣を報じた海外メディアも、プラカードの洗練されたデザインに驚いていたという。

本当は殴り書きのようなプラカでもいいから、人それぞれの主張があった方がエモくて良いと思うんです。でも、日本ではデモや街宣はまだ『参加しづらい』『怖い』と言われがち。参加をためらっている人のために、こうしたデザインも視覚的に敷居を下げる力になりうるかなと。他にもおばあちゃんの写真とコラージュして『年齢はただの数字です』 というものもつくりました。幅広いジェンダー規範やリアルな悩みをどう可視化していくかを大切にしています」(宮越さん)

クラブでの痴漢被害も自費出版の雑誌に

Super-KIKI、里子

(左)妹のSuper-KIKIさん(右)姉の里子さん

撮影:竹下郁子

I AMというグループ名には、ジェンダーの枠を超えた「自分らしさ」を見つけて欲しいという意味が込められている。Ⅰ AM〜に続く言葉はあなたの自由だ。

これまでTwitterやインスタグラムなどSNSアカウントで情報を発信したり、「性差別をなくしたい」と感じている人たちに向けたイベントを開いてきた。常に大切にしているのは、参加者の声とつながりだ。

4月の街宣ではスピーカーの声を参加者が聞くことがメインだったが、最後にはポストイットを用意し、参加者にその日の感想や普段からジェンダーについて感じていることなどを書いてもらった。「セクハラ発言をされても私はもう笑ってごまかしたりしません」「好きな服で歩きたい」「セカンドレイプ今すぐ消えろ!」など、集まったメッセージは150以上。

私は黙らない街宣

参加者から集めたメッセージ。

撮影:今村拓馬

8月にはさらに、参加者が自主制作・自費出版の雑誌「ZINE(ジン)」をつくり、周囲と共有し合うというワークショップ形式のイベントを開いた。

前出の宮越さんとKIKIさんもフェミニズムをテーマにしたZINEをつくり、オンラインショップやアート本に特化した「TOKYO ART BOOK FAIR」などで販売してきた。本のタイトルは「NEW ERA Ladies」。NEW ERA=新時代の、レディースはヤンキーマインドという意味合いだそう。

宮越さんがクラブで痴漢被害にあいフェミニズムを意識するようになった経緯や、マンガから考えるフェミニズム、AVや性教育について女性たちが赤裸々に語った“袋とじ”の座談会、女性に清純であることを押し付ける「スラットシェイミング」への反論など、内容は多岐にわたる。

フェミニズムの思想を日常に落とし込んで伝えることが狙いだ。

SNSでのバッシングに対抗するための紙媒体

ZINE

宮越さんとKIKIさんがつくるZINE「NEW ERA Ladies」。

提供:NEW ERA Ladies

ZINEの語源は、Magazine(雑誌)から派生したFanzine(同人誌・ファン雑誌)のFanがとれたものだと言われている。ZINEは1990年代のフェミニズムや、ライブ会場での性暴力に対し音楽やアートを通じて反対する「Riot Grrrl(ライオット・ガール)」の盛り上がりと共にアメリカで女性たちによって盛んに制作されていたが、いま新たに日本でもブームになりつつある。インターネットが発達した現代において、なぜ紙の、しかも少数しか流通しない雑誌が求められているのか。KIKIさんは言う。

「デモや街宣に参加したり、SNSでジェンダー問題に関する意見を投稿するとバッシングされることも残念ながらまだあります。なんとか黙らせてやりたいという人たちは多いですから。『声を上げたい、でも怖い』という人たちが安心して自分を表現する場として、ZINEはすごく良いツールですね」(KIKIさん)

ZINE

I AMのイベント「フェミZINEをつくろう」参加者たちの作品。

撮影:竹下郁子

8月のワークショップでは、ZINEをつくるために会場に用意された大量の折り紙やキラキラしたシール、可愛いマスキングテープに参加者のテンションも急上昇。ZINEをつくることは自分自身と向き合うことだ。作業しながら、普段は話せないジェンダーにまつわるモヤモヤから、過去のつらい体験まで、さまざまな思いを打ち明け合った。中には、これまで自分を責めていた気持ちがすっと楽になったと話す参加者も。

「モヤモヤした気持ちも、安心して話せる場がなければ自分の責任だと思いがちです。みんな同じ体験をしていたんだと共有することで初めて、『自分個人の問題』ではなく『社会の課題』だと気づけることは多いと思います」(KIKIさん)

前出の溝井さんも言う。

「男性社会の中で孤独に戦っている女性は多いと思います。もちろん戦わなくてもいい。それでも、今日つくったZINEを読み返したり、この空間を思い出すことが明日を生き抜く糧になればいいなと。そういう時間やつながりをこれからも提供していきたい」(溝井さん)

#MeTooが盛り上がらなかったと言われる日本で、新たな連帯の動きが生まれていた。

(文・竹下郁子)

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